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アルバイターズ  作者: 野方送理
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第4話 奈美の決断

第4話 奈美の決断


「来ちゃダメ!走って逃げて!」


そう霧子が叫んだ。

表情が辛そうだ。


(私のせいで、私のヘマで霧子が)


どこかで今日起こったひとつひとつに驚きながら無理矢理自分を納得させていた。

交渉人はあくまで交渉人だと。1つ目の巨人や、イレズマ様の友好的な態度にタカをくくっていた。

霧子が人を一人抱えて大ジャンプを出来るほどの力を使った時点で、少し気づくべきだった。

「神憑変化」とやらの説明の時点で、気づくべきだった。


「力を与えられる」ということは「力を使う場面がある」ということを。


つまり「交渉」が時に失敗し、「戦う」ことになることもあると、人間でさえそうなのに、なぜ私は楽観していたのか。


(怖い、怖い怖い怖い怖い。あんなのと戦いたくない。なんで私が、いやだいやだいやだ。お金なんかいらない。バイトなんてもうやりたくない)


体の震えが止まらなかった。身体中の穴という穴から汗が噴き出した、霧子のいうとおり逃げてしまいたかったが、足すら満足に動かなかった。


ふと、もう一度視線を前にやると


その異形と小さな女の子が歯を食いしばって戦っていた。背中からの出血は止まらず表情はどんどん険しくなっていった。


たしかに霧子は強引だった。

バイトをしたがっていたとはいえ、こんなぶっ飛んだ仕事を持ってくるとは思わなかった。「他をあたる」というのは嘘だろう。彼女は嘘をつく時に目をこする癖がある。だから口ではああ言っているが本心は私に「アルバイター」になって欲しいはずだ。


それら全ての目論見を吹き飛ばして、彼女は任務の遂行よりも私を助けることを選び怪我をした。


その彼女を見捨てて逃げる。


それは戦略としては正しいのかもしれない。


私にあれと戦う力はない、いたところで邪魔なだけだ。


だけど


そうかもしれないけれど


私の心が


友達を


私を守ってくれた友達を捨てて逃げるのは間違っていると


強く叫んでいる。


他はいない


今霧子を助けられるのは


私だけなんだ!


囮にくらいなれるだろう。


不思議と体の震えはおさまった。進行方向を変え、バケモノ目掛けて力強く走り出す。


「霧子を離せええええええええ!」


バケモノがこちらに気づいた。


「!?…なにしてんの!逃げてよ!」


霧子の叫びを無視して、バケモノに向かっていく。


バケモノの爪のついた腕が私目掛けて飛んでくる。それをどうにか避けながら視線を霧子から逸らさせる。


その時、私は2本目の腕が眼前に迫っていることに気づかなかった。咄嗟に腕を前に出し、目を瞑る。鋭い痛みとともに体が後ろにふっ飛んだ。


(あぁ、やっぱり失敗しちゃったなあ…霧子は…どうしたかな…)


と、目を開けて確認しようとした。


痛みの主はバケモノではなかった。


私の腕には先程からついてきていた犬が噛みつき、もとい神憑きながら移動し、バケモノとの距離を取っていた。


私の腕を噛みながら犬は言った。


「俺の名は犬神・疾風。大した根性だ…生身であれに向かっていくとはな嬢ちゃん、気に入ったぜ。貸してやるよ。力。合言葉はわかるだろ?…さあ、唱えろよ」


私は噛みつかれた激痛と犬がしゃべっている衝撃の中でどうにかしてその言葉を思い出し、弱々しくも、しかしはっきりと唱えた。



「神 憑 変 化!」



私の体は光に包まれた。




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