第36話 奈美 VS 伊有 3
第36話 奈美 VS 伊有 3
「驚いた、本当に木を切り倒すとは」
感心したように霧子がつぶやく。
「うう〜、どっちが勝つのかなあ…」
どちらを応援すれば良いのかわからず、横で彩香が悩ましげに声を上げる。
ギィン!!!
スピーカーから響く甲高い音に気づき2人はモニターに目を落とした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ぐぐぐ…」
「まさか爪で受け止めるとは…」
伊有が振り下ろした刀を奈美は間一髪鋭い爪で受け止めていた。
(だけどこの重さ…長くは持たない…!)
額に汗を浮かべながら必死に押し戻そうとする奈美をよそに、伊有はソードハートの言葉を思い出していた。
(刀を選ぶな…とは、どういう意味なのか…)
そして何かを思いつくと刀を振り上げた。
そして一瞬しゃがむと、刀をもう一度振り下ろした。
慌てて次の攻撃に備えるべく、奈美は刀を見つめた。
その脇腹に、鈍い衝撃が走った。
「がっ!?」
予期せぬ攻撃にクリーンヒットを許してしまい、ゴロゴロと地面を転がる。
やっとの思いで立ち上がると既に伊有は距離を詰めてくる。
またも伊有の左手で銀色に輝く刀に気を取られ、左肩に攻撃を食らってしまう。
「ぐぅっ!」
よろけるが倒れずに、後ろに飛んで距離をとる。
伊有を見つけた奈美の目に入ってきたのは
「二刀流…!?」
「刀を選ばない…ならば、これも1つの刀でしょうか」
伊有が握っていたのは木の棒だった、先程切り倒した。驚異的な威力を持つソードハートの刀を囮に使い、連撃を叩き込む、シンプルだが確実な方法だ。
「さて…行きますよ」
ドッ
伊有が地面を蹴り、突進を仕掛ける。
先ほどと同じように刀を振りかぶる。
あえて奈美は視線を外し、木の棒に注目する。
「いつもそうとはかぎりません」
そうつぶやくと伊有は奈美の肩に峰打ちを叩き込んだ。
「っっ!!!」
まともに攻撃をくらい、さらに木の棒でも脇を叩かれる。
よろける奈美を確認すると伊有はさらに刀を振った。
奈美の隙をついたややおおぶりな攻撃、奈美もそれを見逃さなかった。
とっさに右の拳で刀を持つ伊有の左手首を殴る。
伊有も突然の出来事に刀を放してしまう。しかし、中に浮く刀をよそに、伊有は右手の木の棒を振りかぶる、が。
ベキィッ!
奈美の左の拳で折られてしまう。
伊有はまたも木の棒を拾うと今度は両手でそれを振るった。
それを奈美も両の拳で迎え撃ち、伊有を押し戻す。2人とも両手から血を吹き出す。
その時、奈美は上を向いて何かを確認した。
それにつられて伊有も上を見てしまった。
だが、先ほど奈美が見ていたものは既に奈美の元へ落ちてきていた。
慌てて正面を向いた伊有が最後に見たのは、彼女自身の刀を口にくわえ突進する奈美の姿だった。
ドッ
ちょうど鳩尾のあたりに、奈美の、いや伊有の刀が、伊有に叩き込まれる。
「がっ…は」
倒れこむ伊有、その意識は既にはるか遠くに飛んでしまっていた。
「…ワンちゃんだからね…ご主人様が飛ばしてくれたものは、くわえて返さなきゃって思うのよね…」
肩で息をしながら奈美はそう呟いた。
「勝負あり!!!!」
イレズマの声が響く。
模擬戦第一回戦、勝者、霜村奈美。




