第34話 奈美 VS 伊有
第34話 奈美 VS 伊有
「それでは、初めの模擬戦を行うよ〜」
「ちょっと待ってくださいエキシビションマッチについて不満が」
「2人ともトレーニングルームに入って〜〜」
雅信の言葉などは耳に入っていないかのごとくイレズマが模擬戦を進行させる。
2人がトレーニングルームで向き合ったのを確認すると
「それでは…スイッチオーン!」
イレズマが掛け声とともにボタンを押す。
「そしてストップ!」
またボタンを押すと
「…!?ここは?」
「森の…なか?」
「ただ向き合って戦うだけでもいいんだけど、せっかくだから環境への適応力、状況判断力、そして、フィールドをいかに利用するか、も見させてもらおうと、今回は様々なパターンの地形を用意したよ」
(伊有ちゃんの姿は見えない…かなり木が多い)
(奈美さんは見えない…すこし部屋の中央が山型になっている?)
2人は思考を巡らせる。
「それじゃあ、2人とも準備はいい?」
2人がうなずく。
「それでは…はじめっ!」
「「神憑変化!!」」
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「愛羅さん、あんたはこの試合どう見る?」
「いいのか原墨、人の心配してて」
「確か相手の山藤は防御系の能力だったから、押し切るほか、考えても仕方ないかな、と。で、どう思う?」
「そうさなあ…能力的には霜村の方が若干有利かな」
「あの森ん中でも狗神なら動けそうだしな」
「それに、刀を振るスペースがあんまり見当たらねえ。突きだけじゃ対応しきれないと思うが…。まあ、木を薙ぎ倒すなりしてスペース作って武器を思い切り扱えるなら、春近が勝つな」
「薙ぎ倒す…ねえ」
苦笑しながら健は答えた。2人はトレーニングルームを映し出したモニターに目を落とした。
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(確かに…少しだけ力が落ちてる気がする…さてと…どうしよう…下手に動いて斬られたら…痛そうだな…)
奈美が現状を確認しながら思考を巡らせる。
(今回はお前の力を計るのが目的みたいだな、というわけで力は貸すが助言はなしだ、頑張れよ!)
疾風がのほほんと心の中でエールを送る。
(ありがとう、やってみるよ)
そう答えると奈美は腰を落として森の中へと進んでいった。
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(久しぶりだな…変化するのは)
刀を差した腰に手を当てて伊有も現状を把握する。
(少し腕を上げたか?伊有)
(! ソードハート様、ありがとうございます!)
(呼び捨てで良いと…まあいい、この地形お主には少し不利に動くかもしれんのお)
(はい…刀を存分に振るうことは難しいかと)
(ふふふ、お主にとって刀とは小さきものなのだな)
(は、はあ…)
(刀を選ぶな、これで助言は終いだ。健闘を祈る)
(は、はいっ!…刀を…選ばない?)
ソードハートの言葉の意味を考えながら伊有も森の中へと進んだ。
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(どこに…いるんだ?)
伊有は必死に気配を探る。
(狗の力を持っている奈美さんの方がこの森では有利…それでも…負けたくはない)
少しひらけた場所で立ち止まる。
ガサッ
音のなる方に振り向く
ギィン!
刀の鞘でその衝撃を受け止めるが、あまりの力にふっとばされる伊有、すぐさまその方向に刀を構える。そこには少し見慣れた姿の奈美が立っていた。
「位置はバレてたってわけですね…」
「ワンコは鼻が効くからねえ」
「この場所を選んだのは?」
「ここなら伊有ちゃんが刀を振れるから」
「正々堂々ってわけですか…あなたらしいですね…なら私は…」
そう言って茂みへと走り出す伊有。虚をつかれた奈美はワンテンポ遅れて追いかける。
(あえて自分を逆境に置く…!)
鬱蒼とした木々の中で伊有は刀を構えた。




