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アルバイターズ  作者: 野方送理
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第32話 アルバイターズの日常

第32話 アルバイターズの日常


賑わう昼休みの教室で同じクラスの4人が神妙な面持ちで顔をつき合わせている。


沈黙を破り一郎太が口を開く。


「たしかに…あの瞬間は正しい選択だったのかもしれない…助けてもらったのにあの言いようもきつすぎる気もするけど、たしかに俺も助けられたって…どうしたらいいかわかんねーよ…」


柊も


「俺もまあ、話を聞いただけだけどよ。ある程度、自己責任で…いいんじゃないか?その後どんな顔して生きていきゃいいかわかんねーよ」


士郎は相変わらず黙っている。


2人の暗い顔と重い雰囲気とは裏腹に雅信は軽快な口調で


「そう…だねえ。まああなたらムサイ男は勝手に自分で助かってくださいよ」


そう答えた。


「な、なんだとお!?」


「ひでえ!男女差別だ!」


喚く2人をよそに雅信は立ち上がった。


「区別っつーんですよ、そういうのは。んじゃお昼買って来まーす」


「あ、俺も」


そう言って士郎も後に続く。


残された2人は思いのほか明るい様子の雅信にホッとしつつどこかに違和感を感じていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「本当は辞める気なんかさらさらないくせに」


「それも『知恵』の能力ですか?」


「いや、これは俺の勘だよ」


「なかなか鋭いですねえ」


「…『借り』は返せたんじゃないのか?」


「さてさて、どうでしょうか」


「あの子はそんなこと望んでない」


「…そうかもしれませんねえ」


「じゃあなんで」


「あの子の戦い方は見てておっかないんですよ…」


「それは分かるけどよ…」


「そうだ。それとなく仕事のたびに、前みたく予想を立てたらあの子に伝えてくれません?そしたら少し気が楽です」


「なるほど…よし分かった。ある程度あの子の面倒は任されるよ」


「ありがとう。…ちょうど手が回らなくなりそうだったんですよ」


「…あのメンツにまだ恩のあるやつでもいんのか!?」


「いえ、これは…下らない私的な理由ですよ」


「…?」


「パン売り切れますよー」


2人は駆け出した。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


放課後、トレーニングルームには2人の少女の姿があった。



「はっ、はっ、ぜぇっ、はあっ」


「悪くはない…どころかだいぶいい筋してるよ。ただ私には勝てんな!なはは!」


「それじゃ…はっあ…困るのよ…正義は…負けちゃダメなの…」


「なんだよなんだよ、私は悪者かい?…まあ全く間違い無いけどよ、歪んだ思考だねえ」


「歪…んだ?なんで…?」


「あんたが勝ちたい理由は?」


「私は…正義の味方になりたい」


「ふーん…つまんないの」


「な、何を」


「じゃああんたは私にとっちゃ悪だ。今のままじゃ絶対勝てない」


肩で息をしている少女は言葉に詰まる。


「あんたを守ってくれた、あいつにも到底な」


「雅信くん…こんどは守る側になる」


「守るってのは強い奴が弱い奴のために使う言葉だ。さて、あんたはそうなれるかな?」


「なるわよ…もう一回お願いできる?」


「よろこんで!ボロボロになる覚悟はいいかな?」


満身創痍の少女は立ち上がり、不遜に笑う少女はそれを迎え撃った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「昨日の件…2人はどう思う?」


ロビーで健と陽太に霧子が尋ねる。


「俺は…助けられる側には死んでもなりたくねーけど、雅信の考えは分かるよ。むしろそっち寄りですらあるかも」


「確かにな、俺も相手が女の子なら誰だって命をはれるね」


「そ、そう…まあ私も咄嗟の時は同じようなことをしてしまうかも…」


「雅信に特殊な背景があるのは聞いちゃったけど、結局みんなそんなもんだろ?」


「余計に変な形になってるけどあいつのあの能力込みならば危なさすぎるけど作戦に組み込むのも仕方なく無いかとね」


「もちろん不死身ありきだけど…ね」


「ねえ」


そこに真春が入ってくる。


「みんなは…坂上くんの力は知ってたの?」


「いや、隠されてて全く」


「私も…全然教えてくれなくて…」


「そっか…私だけじゃ無いんだ…もっとわかんないや。ごめん、救護部屋の整理してくる」


そう言ってトボトボと真春は歩いて行った。


「なあ…1つも思ったんだけどよ」


陽太が偉く神妙な面持ちで口を開いたので2人は姿勢を正したが


「雅信くんと真春ちゃんって出来てるよな?」


あまりに気の抜けた話に椅子からずり落ちた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


伊有はは竹刀を振った。邪魔な思考を振り払うように一心不乱に。


ー命をかけて助けられても、その後どう生きていけばいいかわからない。


その通りかもしれない。と思ってしまった。私は残されたらどう思う?


なぜかふと心の底から愛していたペット達の顔が浮かんだ。あの子達は私の犠牲になったわけでは無い、のに。


取り残されるのは元から分かっていた。彼らの時間は人間より少し早い。にしたって早すぎる。


もしそれが。もしもそれが最近知った異界の者の悪意による者だったら。


ピタリと竹刀が止まった。私は残されたのか?と少し考えた。それからまた、さっきよりも強く竹刀を振った。


ー単純なことだ。殺した奴を殺せばいい。


伊有は自らの結論に納得したように、深く頷いた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「おねーちゃん!遊んでよ〜〜!」


「あ〜ごめんごめん!何して遊ぼっか!」


服の袖を近所のちびっこに引っ張られる。


「ごめんね〜うちのチビ達の世話してもらって…せっかく早く帰れたのに」


「いいんですいいんです!ちっちゃい子好きですから!」


そう言いながら彩香は後ろの子供を抱き上げると、じっとその子の目を見つめた。


「…あなたたちは私が守るからね」


そう呟いて頬ずりをした。



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