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アルバイターズ  作者: 野方送理
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第23話 二度と

第23話 二度と


「ほ、本当にいいんですか?」


「む、むしろこの状況でこのままズルズルと押し切られない自信がないから!それならさっさと治してあげなきゃじゃない!」


「で、では…お願いします。わたしはイレズマ様に連絡を…」


と霧子がいったところで、何かに気づき驚いた表情をした


「キ、キュラソイド様!?いつからここに…」


霧子の目の前にいたのは、ナースのような衣服に身を包んだ、人型の女性らしさのあるロボットのような神様だった。


キュラソイドは何も言わずに霧子の頭撫でると真春の前へと進んでいった。


「わ、わわ、ほ、本当になんかいる。か、神様なんですか?」


物言わぬ神であるキュラソイドは深くうなづくとナース服のポケットから徐に注射器を取り出した。


「え?なにを」


言うが早いかそれを真春の腕に刺した。


「キャァァァァァァァァァァ!??!な、なに!なんで?なんで刺され?いた!あれ!痛くない!わけわかんな」


気が動転している真春をなだめるように雅信がいう。


「真春さん、もしかしたらそれが方法なのかもしれません!『神憑変化』っていってください!」


「え、な、なに!これが噛みつきなの?え、も、もう分かんないけど…うぁぁぁ」


「神憑変化!」


真春の叫びとともに


彼女の体は光に包まれた。そしてその光が引く頃、真春は白衣のようなものに身を包んでいた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「これ、が…神憑変化…」


確かめるようにわたしは呟いた。私の体はいつもより少し力が入っている気がする。


「って眺めてる場合じゃない!」


『落ち着いてください』


「きゃあ!?」


『私は喋れない神なので、こんな風にしか会話ができません。すみません』


「あ、あ、いえ、そんな、こちらこそ…って、私はなにをすればいいでしょうか!?」


『指示を出します。慌てずに、しかし早くこなしましょう』


「…はい」


まさかこんなことになるとは思っても見なかった。それでも今は仕方ない。


あんな思いをするのは私も嫌だ。

他人がしているのもなんども見た。

そしてそのまま、戻らなかった人も。


今ならこの人たちを治せる。きっと今の私なら。


出来るだけ頭を落ち着かせて、私は最も傷のひどい犬耳の女の子の方へ向かった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「これで…おわり、らしいわ」


「…お疲れ様でした。よかった…」


真春が治療を終え、霧子がほっとため息をついた。


奈美、伊有、彩香、一郎太のそれぞれの体に包帯や絆創膏が貼ってある。解毒にも成功したらしく、今は落ち着いた表情で寝転がっている。唯一目を覚ました奈美が真春に感謝を伝えた。治療の後遺症か舌がうまく回っていない。


「ありやとう…えーっと」


「…門矢真春。あなたは…奈美さん?とか言いましたっけ。噛みちぎった舌は流石にキュラソイド様の薬でも治るのに時間がかかるそうなので強い薬を使ったそうです。あとはあなた自身とあなたの神様の再生力次第だそうです」


「ほっか…これ治るんらね」


驚いたように奈美が呟くと、雅信が


「治らないかも知らないと思ってたのに、よくそんな無茶しましたね。今度からはやめてくださいよ」


と安心したように呟いた。


「いやー…あらし後先考えられらいタイプらから…噛みちぎったあとりもしかしてってれ…」


「本当にもう奈美は…私も今回は不甲斐ない様を見せちゃって…とりあえずここに居座るのも嫌な気分ですし引き揚げましょうか」


「こいつらどうするの?」


愛羅が気を失ったままのオッドベノンとフープスピアを指差して尋ねる。


「イレズマ様が結界を張って対処するそうです。今は…帰って休みましょう」


そして、数名にとって初めてのアルバイターの仕事は幕を閉じた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「すまなかった、手伝いに行けなくて…今度からは確実に行ける日とかを12人分すり合わせておいたほうがいいかもな」


「ええ、そうですね…いえ、各自の用事を優先してもらう、という話ですから気にしないでください」


目の前で謝る士郎に対し、昨日起こったことの詳細を伝えた。


「そんなことが…いきなり危ない事件だったね」


「ええ…とりあえず怪我もかなりのスピードでみんな治ってるみたいで…不幸中の幸いというか」


「新しい人も増えて、頼もしくはなったけど。…この場所への侵入者についても対策を打たなきゃか」


「はい、2度とこんなことのないように」


私がそういったとき、士郎さんは少しムッとした顔をして、すぐにいつもの顔に戻った。


「ごめんなさい、気に障りました?」


「あぁ、嫌。こちらこそ顔に出てたかな?ごめん、霧子さん…。二度とって言葉が、あんまり好きじゃなくてね」


「はい…?」


「今回の場合はレアなケースで、二度とっていう場合は大抵一度目に何かがすでに起こってしまった訳だろう?失敗したり、ダメだったり、はたまた怪我をしたり」


私は彼の言いたいことがわからずうつむき気味に話を聞いた。


「そして今回やっと認識したよ。遅過ぎたくらいだった。この一度目に、僕らは友達を失うかもしれない。俺自身死ぬかもしれない。奴らも殺す気できている。なんの対策も打たずに無傷はむしがよすぎましたね」


伝えたいことはわかった。今回の『一度目』の私たちの認識の甘さだ。そしてその認識のまま『二度目』に向かいかけていた私たちに歯止めをかけたかったのだ。私を通して。


「そうです…ね。私の至らないばかりに…」


「あぁいや、霧子さんを責めるつもりは全くないですよ。ただ、私だって仲間が殺されるのなんて見たくないです。だからこそ考えましょう。戦術を、対策や方法も。まさに二度とこんなことが、いえ、『一度目』が起こらないように」


「はい…二度とは二度と使いま…あっ」


「そこまで気にしなくていいですよ。…さて、戦術ゲームは得意です。どこから始めましょうか」


にこりと笑う彼の横顔からは自信が見て取れた。




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