第99話 失ったモノと仲間と
第99話 失ったモノと仲間と
「どうなってる…のかしら、傷は入ってないみたい。治癒の術をかけてるんだけど…どうかしら」
「ごめんなさい…見えないわ」
「ということは怪我や病気の類じゃない、か」
真春が霧子の瞼をさすりながら呟く。
「相手の能力によるものならば、手っ取り早いのはそいつを倒すことでは?」
雅信が口を挟む。
「そう、ね」
「話によると石や葉っぱは思いのまま、んで今は神城さんの目を操ると…」
顎に手を当てながら雅信が思案する。
「まあ当てずっぽうにいうならば『力』を操るとかですかね」
「力…?」
「小難しいことは士郎に調べさせるとして、小石や葉っぱは引力とか斥力とか、んで目は触ることで視力を下げたとか」
「なるほど…」
霧子が頷いたところで思い出したように呟く。
「いや、あの、その士郎くんとかの、話なんですが」
雅信と真春が首を傾げる。
「この、文化祭が終わったら全員にアルバイターをやめてもらおうと思っています」
「!」
「えっ」
「それはまたどうして、あの話のことなら…」
「…もしかしたら…坂上くんや、奈美、天海さんはそのまま気にせず続けてくれるかもしれません。でもそうしたら本当は辛い思いをしてる人が辞めづらくなってしまう気がして」
「…」
雅信も真春も何も言えなかった。
「だから、皆さんに一度にやめていただこうかと思うんです」
「…目も見えないのに1人であいつをどうかできるんですか?」
「…兄を、カラクリをどうにかするのは誰かいてくれても私しかいません。できる、できないじゃなく」
「それは…使命感?」
真春が尋ねる。
「…わがままもあります。家族として大好きだったから、尊敬していたからこそ」
低く鋭く霧子はつぶやいた。
「兄は私が殺したい」
「…わかりましたよ。とりあえず、あなたは見えない目であいつを倒す策を練る。私はこの一件が終わるまでは居座らせてもらいますよ」
「…わかりました」
「その後のことはそれから考えましょう」
雅信が提案し、真春が続ける。
「門矢さん…」
「私も、怖い。正直やめてしまいたい、自分もいる。でも今すぐに逃げてしまうのはもっと後ろめたい。だからもう少しはサポートさせて」
「ごめん、なさい」
「そういう時はありがとうっていうのよ」
「ありがとう、ございまず」
ポツリとつぶやいた霧子の目からハラハラと涙が溢れる。
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「聞いたかよ」
「…聞こえちゃったよ」
医務室の前で愛羅が壁に背を預けている。座り込んだ柊がそれに応える。
「目ぇ見えねえのに戦うんだってよ。私か坂上に任せときゃ一発なのにさ」
「だろうな…」
「山藤はどうするん?」
「どうするって…わかんねえや」
「あんたは戦うの、そんなに好きじゃないだろ」
「俺は、この中で1番ビビリかもな」
「『あいつは目が見えないのに戦ってるから』とかで、戦わないほうがいいと思うよ」
柊がピクリと反応する。
「戦うのも、傷つくのも最後はあんた1人だ。ただあんたが傷付けば私たちもあんたの家族も悲しむことになる。同情や義務感で戦って、お前が死んだら新たに私たちは霧子を恨まなきゃいけなくなる」
「…天海さんはいいのかよ」
「いーの、私は強いから」
「はっ、あんたはすげえよ」
苦笑いしながらも、一郎太の目は真剣だった。
「あいつの目が見えるようになっても戦う、そんな理由が見つかったなら戦うといいさ」
愛羅はしゃがみ込み、柊に目線を合わせて笑った。




