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十二星座国  作者: 浅野弓子
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星座の國、守る場所

「悪かったな」

 牡羊座国に戻り、二人はヴラドの部屋で休んでいた。

「本当だよ、全く」

 ヴラドはベッドに座って非難する。

 ダインは両手を合わせ謝罪する。

「この通りだ」

「良いけど、一歩間違えたら喰われてたんだろ? その辺どうなの?」

 バクの出現に、それを聞いたダインがヴラドを忘れて小隊の元へ。後を追いかけたヴラドは

戻ってきた後ダイアンに叱られ、ホワイトジルコンは今、修繕室に居る。

「そんなことは絶対起こらない」

「? 何で?」

「俺が、黄道十二星座部隊がいるからだ」

「いなかったじゃない、あの場に居たのは見回りの小隊だけだった」

 見回りの小隊二人は現在隊舎へ報告に行っている。

「黄道十二星座部隊と言っても、バク、今まで一度も倒せたこと無かったんだろう?」

「それは」

「追い払うことが精一杯の奴らに、この国を任せて大丈夫な訳?」

 確信を突いた言葉。そして案じる言葉。不機嫌な顔色を隠さない。

 ダインは堪えるような、屈辱を味わってる顔だ。

「防衛第一の奴らが、攻めに転じることをせず、いつまでも追い払うだけで現状は大丈夫だと思ってるの?」

「――危機感が足りないと思う」

 低い、唸るような声音だった。

 驚きで見つめるヴラドに、続けて言葉を吐く。

「戦う訓練こそ仕込まれてきたが、先人の代より、戦知らずが増え、日和見の世界。バクが消えれば星座国同士で戦争が起こるかもしれないと昔考え、今も何処かでバクの存在に安堵している自分がいるかもしれない」

「でも、やはりあのバクを倒さなければ、国に、民に、未来はない。それが俺の出した結論だ」

「大層なこと言ってるけど、口だけにならないと良いね」

「ああ、ありがとう」

「心配して言ってることが伝わって何より」

 ヴラドはベッドに倒れるように横になる。

 音を立てて、柔らかく包むベッドの感触を不機嫌な顔で擦りつける。

「あんなのが、沢山いるかと思うと、約束、しなけりゃ良かった」

 絞り出すような声。心底、後悔しているかのような声。

「約束?」

 ヴラドはダインを見上げる。何か煙に巻く話は無いものか。

「星、ってさ、見えないよね?」

「夜になれば見えるが?」

「いや、星座石の名をを背負うのに、そのヒトたちから星のような輝きを感じない」

「……」

「意思が、感じられない」

「日和見で平和を信じ、危機感が薄い、それを何処か信じてる所が危ういと思ってしまう」

 嫌味を言うヴラドにダインは口を開く。

「だから、守りたいと思えるんだろ?」

「お前に、守りたいと思える相手はいないのか?」

 見下ろして言うダインに。

「――いるよ」

「誰か、聞いて良いか?」

「教えない、言ったらソイツに迷惑かける」

「そうか」

 扉を叩く音。その音が聞こえ、ヴラドは身体を起こす。

「どうぞ」

「入るわね……ってダイン貴方もここに居たの?」

 呆れたように見つめるダイアン。

「ああ、外そうか?」

「いえ、寧ろ呼びに行かなくて助かる。入って」

 ダイアンの後ろから、ホワイトジルコンが新鮮という表情で見回わす。

「彼は「ホワイト」正式に牡羊座国の住人と認められ、ヴラドと天秤座国へ向かうことが決定したわ」

「早いな」

「何しろ、決定権があるヒトが滞在してたもんで。いつもは居ないんだけど、ほらヴラドに続き立て続けだったから」

「ああ」

 二人の会話を横で聞きながらホワイトに話しかける。

「治ったんだ、良かった」

「……」

 ホワイトは一瞥し、無言を返す。

 観察するような、情報を得ようとするような感じに僅かにヴラドは顔色を歪める。

「情報吸収能力」

 場から情報を吸い上げ、それを記憶の蓄えにする。

 基本それは、視覚や聴覚からの情報ではなく、神経の情報。感覚からの情報。

 静電気を浴びたような感覚を味わうが、これは、相手が自分に対し向けた時も同様である。今分かった。

 だから。

 二人の間にピリついた雰囲気が流れる。

「やめなさい、二人とも」

「同族同士で喰い合うのはやめなさい」

 強い制止の言葉だった。

「……すいません、そんなつもりは無かった」

 ホワイトは謝罪を述べるが、今だ警戒は解けない。

「ホワイトと同室に寝泊まりさせて良い?」

「良いんじゃないか? 本人が良ければ」

「……自分は別に良いけど」

「一人部屋、無いの?」

 ホワイトは嫌そうに、場を壊す発言。

「……同室嫌みたいだけど」

「ごめんね、決まり事だし」

「分かった」

 ホワイトは即答し新鮮そうにもう一度見回した。

「……まあ、良いか」

 文句言いたげな同居人に、ストレス溜まりそうだなとヴラドは思った。



「ねえ」

 寝返りを打ち、隣のベットで寝るホワイトに話しかけた。

「……何」

「覚えてる? 自分が言った言葉」

『一緒に彼奴倒そうよ』

「了承した、覚えはない」

「そう、覚えててくれたんだ」

 嬉しそうな声にホワイトは頭の先まで毛布を被る。

「うるさい、早く寝ろ」

「ああ、そうだね。明日は出発の日だ」

 やがて隣のベットからうたた寝が聞こえてくる。ヴラドが寝たことに、それに安堵し、毛布を頭から下し、胸元へ手繰り寄せた。

 ホワイトの眼尻から、涙が零れる。何故だか分からない。不安と恐怖が襲い掛かる。

 押し殺した声。泣いてる事を隣の奴にだけは知られたくなかった。

 


 朝。

 宿舎から出て、ダイアンもついて行くことになり、国を出た。

 太陽の輝きに眼を細める。

 一瞬、一瞬だが。

「あれも、宝石、なのかな?」

 ヴラドは疑問に思ったことを呟いた。

 天秤座国に向け、出発し、牡牛座国に着く頃。

「あ、見えて来ました。ようこそ、我が国、牡牛座国へ」

 エメラルが芝居がかった口調で伝える。

「何か、あんまり変わらないね、牡羊座国と」

「ゲーム的に言うならここは、第二関門ですし」

「「えっ」」

 嫌な予感がする。ホワイトとヴラドはそう思った。さりげなくエメラルが言った台詞だけあって、恐ろしいと直感で感じる。

「君たちには、この国で「記憶術」を習得してもらいます、イェーイ。パチパチ」

 二人は顔を見合わせる。

(炎槍楽譜、とか攻撃系じゃないから安全だ、よね?)

「ご存知の通り、この世界の技は「記憶」を糧にします」

「強い思いも記憶と同質です」

「だから僕たちは「涙の結晶」自分が流した宝石を食し、それで力を底上げするのです」

 エメラルが取り出した子袋、それを開け、小さなエメラルドの宝石を取り出す。

「これには辛い記憶、悲しい記憶と言った様々な感情が押し込められた結晶。食べればそれに引きずられるでしょうが、能力は上がります」

「はい」

 手を上げたのはヴラド。

「何でしょうか」

「暴走は無いんですか?」

「結晶は所詮、記憶でしかなくそれを想起させることしかないので、ありません」

「はい」

 今度はホワイト。僅かだが、エメラルと距離を取ってる。

「結晶に感化される、ってことは無いんですか?」

「いいえ、一時的なものです」

 涙の結晶は「感情起爆剤」と捉えれば良いだろう。

 牡牛座国へ着くと早速、訓練を始められた。

 訓練を行う場は、広場で人は数人しかこの場に居なかった。

「ここの広場は、訓練を行う広さに適しているから、あんまり人も通らない」

「さあ、始め」

 二人は両手で自身の宝石を包む。

「宝石は自身が流した、涙の結晶。相性が良く、変化すれば、素質ありで第二に移れます」

「一つで終わる訳はないと思いましたよ、そりゃ」

 ホワイトが吐き捨てるように言う。

「変化したら言ってください、僕は隊舎にいますので」

 二人は広場で自身の手を見つめる。

 包んだ中にある、小さな宝石。

(強い記憶って言ったって)

「生まれたばかり」の自分らにそれは。

 ふと、城壁の方を向く。

 バクに喰われ、首だけになり。

 恐怖が背筋を駆ける。

(駄目だ、集中しないと)

 横で同じことを行う人物を見る。

 本人は真剣に両手を見て、時折、両手を天高く上げ、ぶん回している。

パキッと何かが割れる音。

「え、何やってんの、アンタ」

 確か、変化させるだけで良い筈……。

 いや、宝石が割れる訳無いと知識で知ってるけど。

 苦笑いで隣の人物を見る。

「っ!」

 気合を入れている。

 何故か「情報吸収能力」が発動した。

(肌がピリピリする……! 何をしようと)

 涙の結晶は記憶や思い。自分が切り捨てた過去を吸収しようとしてるのか?

 もし、結晶の中に入ってる物が必要なら口に含んで噛めば良い。

 それを知ってるだけに、無駄に見えて。

「……あ」

 完全に割れて粉と化した。

「よしっ!」

「よし、じゃあねえよ、アンタッ! これは「記憶術」を習得する為であって、「情報吸収能力」を扱う奴じゃないの!」

「うるさいな、じゃあ、君がやりなよ」

 何故か、冷たい態度のヴラドに顔を顰め、「ああ、見てろ」と後に引けなくなる。

「……失敗しても責めるな」

「良く言うよ」

「……」

 両手を合わせ、天に掲げる。

 祈るように、何を思うかは決めてある。

 ヴラドと、出会った記憶。しかない。

 だから、ヴラドが初めて言ってくれた言葉。

『約束』

 相手がしてきたのだから、守る必要なんてない。

始まりだったのはそれだけだったから。

 この涙の結晶は、バクに下半身を喰われた時を思い出した結晶。

 今でもバクは怖い。だけど、乗り越えなければいけない。恐怖と戦わなければ。

 両手の中から、光が漏れだす。

 勝たなければいけない。あの時、一人だった自分に一人にさせてくれなかった彼奴に報いなければならない。

 両手から光が放たれ、場を明るく照らす。

 昼なのに、明るい。

 ヴラドは驚きでホワイトを見つめる。


 ――いつか、言いたい。


 嬉しかった。ありがとう。


 ホワイトの手から変化した宝石はドリアンのような刺々しい形状と化していた。

「このカラットの仕方は下手糞としか言いよう無いわね……」

「ぅう……」

 エメラルに言われ、凹むホワイト。

「所で、ヴラドは?」

「あ、まだやってます。必死に涙流しながらね」

 ケラケラ笑うホワイトに、エメラルは「笑っていたら、追い抜かれるわよ」と返し真顔になるホワイト。

「……」

「やり直し、する?」

「はいっ!」



――いつか、言いたい。


 嬉しかった。

 て言うか、嬉しくて泣いた。

「情報吸収能力」で読んでしまい、身悶えそうになった。

 相手は悔しくて泣いてる、と思っているのだろうが、違う。

 友人が自分より先に行き、それが自分を思ってのことだと知ると、自惚れだとか思ってしまいたくなるのを、ただ嬉しくて泣いた。

 嬉し泣きってあるんだ。

 そのことをヴラドは「結晶」を拾い集め、思う。

 今なら出来るかもしれない。

 両手を組み合わせる。

 目を瞑り、記憶を想起させる。

 熱い、掌がじんわりと熱を帯びる。

『記憶術、カラットの修練』

 宝石をカッティングする術。

 素養を測る訓練。

 両手から火の粉が漏れ出してることに気づいていないブラドは、さらに念じる。

 強く、手を握り締める。圧が加わった両手に溶け出す宝石。

「もう良いんじゃない?」

「? ダイアン?」

 目を開き、声のした方に顔を向ける。

「見せて」

 両手を開き、宝石がどうなったか見る。

 所々、溶けた痕跡が見られる宝石。

「次に移れそうね」

「あの、次の訓練って?」

「壊れた宝石を修復する、再現する修練よ」

 涙の結晶を指で挟み、弄びながら「それは粉状からとかでも?」と尋ねる。

「今の貴方はそれで頑張りなさい」

 指差したのは、溶けた宝石。

「じゃあ、頑張って」

「あの!」

「何」

「バクは、今何処に?」

「森に居るわ。小隊が距離を取りながら、立ち入りを禁止している」

(森? 森って国境外、つまり国の外か)

「国境外について、教えてなかったわね」

「国境外って、城壁、十二星座国以外のエリア。ですよね、確か」

「ええ、十二星座国の外は、『国境外、未開拓エリア』とも呼んでいるわ」

「バクは未開拓エリアで何を?」

「未開拓エリアにはバクだけじゃない。他の魔物も生息している」

「バクは悪夢を喰うと言われる、魔物も例外じゃない」

「……魔物も鉱石で?」

「そう」

「バクは何故、僕らを襲わないんですか?」

「? 襲われたでしょう」

「そう言う事じゃなく、食べにくい、強そうな魔物なんかより、星座人を率先して狙った方が」

「美味しくないからじゃない? 星座人が」

(今、何て言った……?)

「バクって悪夢を喰うって言われているから、バクから見て『幸せに生きて平穏の暮らしに慣れた、日和見の星座人』って品質最悪なもんじゃない?」

「平穏で幸せそうに生きるのも、防衛の内よ?」

 驚きで見つめる。この時自分はダインに言った言葉を思い出していた。

 無意味な日和見ではない。

 作り上げた日和見なのだと。

「頑張って、応援してるから」

 ダイアンが去り、今度はホワイトが来た。

「……成功した?」

「ああ」

 宝石を見せる。

「へえ、溶けてるってことは『火属性』の素質あり、か」

「火属性?」

「そう、僕は土属性」

「炎、水、土、雷には感情の属性がある」

「感情の属性?」

「炎は喜び」

「水は怒り」

「土は悲しみ」

「雷は楽しみ」

「喜怒哀楽の属性で攻撃の術が決まる」

「じゃあ、自分は「炎槍」?」

「アンタは炎槍、僕は土槍」

「変な名前」

「僕も思った」





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