記憶の國、居眠りの場所
十二星座国
目覚めた時、森に居た。
いつからそこに居たのか。どうしてここに居るか、分からない。
まるで、突然現れ、周囲から情報を抜き取ろうとする。
自我の芽生えが急に沸き上がり、己を認識し、瞳から涙が溢れた。
母が恋しい。それは昔の人の記憶。
己が出した涙が、草むらで光る。
光輝いた『それ』を宝物でも扱うように、取り上げる。
「これは、宝石?」
自分の声に、驚き、宝石を草むらに投げる。
どうして?
記憶が無いのに、知識が無いのに、いや、そもそも「知識」とは何処から出ていて、自分は何語を喋ってるのか?
改めて、自分の姿を確認する。
白いシャツ。
そして、陽の光に照らされたこの髪は。
何色?
指で髪を摘まみ、自分の知らないものに安堵する。
可笑しい。常識を知っているのに、それを習った覚えがない。
暫く、辺りを見回す。
城壁。何のための城壁か。自分は外に居るらしい。
城壁は天高くとは言わないが、所々、くぼみがある。
追い出されたか。
そう思い、城壁を登る。
あの頂上を見渡せば、少しは自分のことが分かるかもしれない。
もし、自分が大罪人なら、心から謝ろう。
悪いことをしたなら精神誠意謝り、罪人のように扱われても、人の気配がまるでしない、森の中なんて嫌だ。
輪に入りたい。人が恋しい。
その思いだけで城壁を登り、半分近く到達する。
「何やってんだ! そこの馬鹿っ!」
下から人の声。良かった、見つけて貰えた。
その安堵から、下を見ようとする。
「降りて来い! 『生まれたて』 お前みたいな奴が危険なんだ!」
小鹿かよ、そう突っ込み、城壁から手を離す。
「くそっ」
下で騒いでたヒトが大慌てしたように駆け出す。いい気味だ。さて。
自分は空中で身を投げ出し、風を味わう。
このまま、潰れた蛙になり、血を出すだろう。
そう、思って、下にいるヒトが受け止め、あわよくば助かろうと大罪人の思考をしていた。
「ま、いっか」
下に居るヒトは受け止めようと走ったのではなく、静観しながら近づいてくる。
「なんて奴、ヒトが身を投げ出してるのに、傍観とは何事か⁉ 助けろよ!」
「よく見ろ、死んでない」
血だまりの自分なんて見たくない、本能で目を瞑っていた自分は薄っすら目を開く。
「宝石? またかよ」
「違う、星座石」
千切れた腕から「ブラッドストーン……やっぱり牡羊座か」そう言い、自分の身体を抱え始める。
「ここは、記憶世界。その住人は星座人と呼ばれ身体は石で、星座石で出来ている」
いきなり、説明され、知識吸収の本能が疼いた。
「ブラッドストーンって?」
「牡羊座の星座石」
「記憶世界って?」
「記憶の世界、星座人は記憶結晶体で身体が構築され、星座石はその色と種類、見た目かな?」
「この城壁は」
矢継ぎ早に尋ねる自分に不快や難色などを示さず、当たり前のような顔をする。
城壁の方へ二人は顔を向ける。
城壁も良く見ると、光に反射し光輝いてるように見えた。
「ああ、バクだよ」
「バク?」
「昔の知識はあるだろう? 悪魔を食べる獏」
「まさかと思うけどこの城壁」
目の前のヒトは唇を吊り上げ、機嫌良く笑った。
光輝く城壁を見上げ、偉大さを思い知る。
「そう、守る為じゃない、閉じ込める為の城壁だ」
「……まさかと思うけど、バクの食べる悪夢って」
「星座人、俺らだよ」
予想は簡単に的中する。
改めてこのヒトの容姿を見直す。女性的、中性的で、自分と大して変わらない。寧ろ背丈が同じ所が怖いと感じた。
自分と同じ知らない髪色。髪型は短く、癖毛であるが女の子らしい顔立ち。
「君は、男?」
外れて欲しい質問で聞く。
「いや、記憶世界に性別の概念はない。あるとすれば」
抱えながら、白のシャツを摘まむ。このヒトが着てる服は黄土色のコートで、その下は、自分と同じ白シャツ。
「最初に着ていた服が白か黒かの違いだけだ」
沈黙する自分。
「お前の性別は「白」だ」
「それは、男ですか、女ですか」
堪り兼ね、また質問。
「知らね、陰陽かで言うと、陽じゃね?」
しつこい、と顔に出ている星座人。
「つまり、男」
「あんまり、そう言うことを拘ると天秤座が顔を曇らせるぞ」
「天秤座?」
「法を作った星座一族」
聞きたいことは山ほどある。けど。その前に。
「君は?」
「ん?」
「君は何者ですか?」
「十二星座部隊――牡羊座のダイヤモンド。ダインで良い」
ダインの瞳が宝石のダイヤモンドのような光を放つ。
髪と瞳は全く別物らしい。
「ダイヤモンド……? 星座石って一つだけじゃないの?」
「牡羊座は十二星座の中最も少ない、二つだけ。ダイヤモンドとブラッドストーンの二つのみ」
ダインは言葉を区切る。
「星座人は星座石から名前を取る、だから」
「だからお前の名前『ヴラド』になると思う」
「……センス、あんまりないね」
「星座で名前が呼ばれるようになれば良いさ」
そう笑い飛ばす、ダインを見上げて、もう一度城壁の方へ顔だけ向ける。
記憶世界、星座人。
城壁の上から、そっと顔を見せる『バク』らしき何かの眼。
それを見て、慌てて前を向く。
心臓が高鳴る。あれは、もし自分が頂上に着いた時、食べると捕食者の眼をしていた。
城壁から、大分距離を歩いた筈なのに、恐怖が心を縛った。
星座人は星座石が瞳に現れる。
ヴラド、という名を現牡羊座長から貰い、説明をダイヤ二号から受ける。
「いやですから、ダイヤ二号ではありませんって」
「ダイヤモンド二世」
「違います! ただでさえ名前縛りがキツイ牡羊座なのに」
「分かってるよ、ダイアン」
「最初からそう呼んでください!」
ダイアンは一度咳き込み仕切りなおす。
「城壁の周りに星座人が住む理由は?」
「『生まれたて』がそこに現れるのが高く、迅速に保護。そして『バク』の侵攻を食い止める為
です」
「正解です。城壁は円周の様に出来ており、頭上から見れば、ポンデリング型、さて牡羊座国は何処に配置されているでしょうか」
「四時の方角です」
「正解。対となる国は?」
「天秤座国です」
「一番遠い国は?」
「天秤座、国です」
嫌な予感がした。
「では、行ってらっしゃい」
「あ、魚座国だったんだ」
「それは、通行令の御触れが出た時です。基本、通行令が出た時、左回りに国を跨ぐ事を禁じております」
「それも、天秤座国が……?」
「行ってらっしゃい」
これから行く国に対し、憂鬱な気分になった。
白シャツ、最初着ていた服の事を霊布と呼ぶ。
霊布の上から服を着るらしく、生まれたての場合、自国から、ローブが支給される。
ローブの紋章は牡羊座で、国の識別。
そして、十二星座部隊に配布される服は黄土色のコート。
黄道十二星座。そこからの意味を取った黄土色のコート。
ヴラドはまだ十二星座部隊ではないので、牡羊座のマークが入ったローブを霊布の上から付ける。
扉を数度叩く音。
「羽織るだけだろ? そんなに時間掛かるのか?」
実は言うと、周りの物に興味がそそられ、夜遅くまで部屋中ひっくり返してた、なんて言えない。
「ああ、ちょっと待って」
初めて見た宝石、自分が流した涙の結晶を小袋に詰め、上着の内側に仕舞う。
部屋を出ると、ダインが待っていてくれた。
「お前を天秤座国まで届けるのが……おい、先を歩くな」
腕組みし壁に背を預けていたダインが慌てて並んで歩く。
「色んなところ見て見たいけど、道草喰う余裕ある?」
「……ちょっとだけだぞ」
ダインは自身の癖毛を掻きまわす。
ヴラドの髪はストレートに対し、ダインは癖毛。ダイアンはストレート。ヒトによって違うらしい。
そう言えばこの髪色、何色なんだ?
「それにしても」
「何、ダイン」
「服についてだが、ローブの方が良く無いか? 黄土色だぞ? 何かアレ――」
「言いたいことは分かったよ、でもそこでやめて、さ、歩こう」
「やっぱり、ローブの色が色んなのあってそっちの方が良いな」
「別に良いじゃん、カッコいいよ」
「悪いな、兵役は国民全員の義務だ」
「うわ、何か特別なものとかに見えたけど違うのね」
「歩き回るのが仕事だ」
「ただ飯喰らってるのが平和の証って言うけど、星座人って何食べるの?」
「情報だ」
「ソース? とんかつ?」
「そういう呼び方もあったらしいけど、視覚、聴覚から得る知識。それを頭に留める記録、記憶が蓄えになるな」
宿舎から出る。太陽の日差しにダインの眼は輝き目を細める。
それを「おおっ」と感嘆する。
「星座人は基本、知的欲求で動く。好奇心旺盛と言うか、皆知りたがりだ」
「知りたがり、何かウザそう」
「ウザそうって、お国柄だぞ。あと星座国すべての国を纏めて言うのが十二星座国」
十二星座国。頭で記憶し、国境の門が見える。
そこに、ダインと同じ髪色、結局何の髪色か聞く機会が無く、ダイアンの後ろ姿が見えた。
「何々、見送り?」
茶化すようにヴラドは言う。
「そうだったら良いんですが」
「何かあったか?」
ダイが真面目な面差しで尋ねる。
「国境の一本道にバクが出現して」
黄道、舗装された十二星座国を円状に結ぶ通行路。
そこに黄土色のコートを靡かせた二人。
一人はブラッドストーンの瞳を携えた「ストーン」
もう一人はエメラルドの瞳、隣国牡牛座の「エメラル」
土を踏みしめ、一本道を疾走する。
バクが行く道には、牡羊座の国。
隣国の星座人同士が連携を取るのは当たり前とされる。
「国に入る前に、倒したいね」
優しい口調で前を先行する者に問いかけるエメラル。
「……」
返ってきたのは無言だが、お互いが嫌いと言う感じでは無かった。
寧ろ、親し気で気を許した仲、だからこそのやり取りとも言える。
「……見えた!」
鼻は象、目は犀、尾は牛、脚は虎。伝承として聞いたことがある姿。
だが、
「ホワイトジルコン?」
人工誕生石。星座石以外の星座人が居ることが珍しく、また、襲われている対象として、二人はかなり動揺し、興味を惹かれた。
ホワイトジルコンの霊布は黒。
性別は黒で、彼しかいないらしい。
「どうするストーン、初めて見るタイプの星座人だ」
「人工の誕生石、天然な誕生石ならよく見かけるのに、珍しい」
二人はバクのことを意識の外に放っていた。
今にも喰われそうなホワイトジルコンが此方を見る、目に入った、映ったが正しいだろう。
――笑っていた。
喰われると言うのに、怖気に似た笑みを浮かべ、それが無理をして笑っているのでは無く、何か覚悟を決めた笑みだった。
圧倒される二人。
握り締める「槍」だけは手放さなかった。
バクに、ホワイトジルコンの下半身が食われる。
「……っ!」
「お、おいストーン、助けるぞっ!」
「ああ、分かっている」
槍を構え、二人は同時に叫ぶ。
「炎槍楽譜」
「水槍楽譜」
槍から放たれる炎と水。それが森の木々以上の巨体を誇るバクに当たる。
爆発の余波、煙が風となり辺りを満たす。
「無傷か」
バクは、毛並みの下に鉱石を見せるとそれを体毛で覆う。
「核を破壊しなきゃあの子は助けられない」
「分かっている」
チラリとバクの口を見る。
覚悟を決めた笑みは嘘のように消えたホワイトジルコンが、抗っている。
悲鳴を上げ、バクに拳を叩きこむ姿は無謀に見える。
「刈れ、エメラル」
エメラルは飛ぶ。空中に飛んだ先は、バクの口。
ホワイトジルコンが気づいて此方を見る。
その瞬間。
エメラルはホワイトジルコンの首目掛け槍を振るった。
「ああああ!」
ホワイトジルコンの絶叫が森を轟き、空中へ投げ出された頭。
そこに待ち受けたのはバクの口。
「嘘だろう!」
ホワイトジルコンは「生まれたて」。生まれたばかりでバクと遭遇し、運命を呪った。
「ああああ、いやああ!」
エメラルがバクの口内に槍を突き刺し、つっかえ棒にする。
ストーンが下に待機し、ホワイトジルコンの頭部をキャッチしようと身構える。が、バクが暴れ鼻先に当たる。
「誰か助けてええ!」
首だけの状態で命乞いも可笑しいが、動転していたのも事実。
地面に当たり、砕けて死ぬ予想をしていたホワイトジルコンだが、何か、冷たいとも暖かいとも言えぬ、ただ硬い何かに受け止められる。
ホワイトジルコンは、恐る恐る目を開く。
「……手?」
「あの」
受け止めたヒトが目線を合わせる様に掲げる。
「何で、上から、その、姿で落ちてきたの……?」
ヴラドは不思議そうに、ホワイトジルコンを見つめた。
一方、バクの方に駆けつけたダインは。
「炎槍楽譜!」
槍の先から溢れ出る炎を、槍を自身も回転し、その勢いでぶつける。
ぶつけた炎は火柱と化し、バクに向かう。
「退治は昔から出来なかった! 威嚇して追い払うぞ!」
「「炎槍楽譜!」」
二人が声を揃え、火柱を纏め上げる。
それは、巨大な炎筒。
まともに喰らうバクは、牡羊座国への歩行を止める。
巨体で鈍間、火に包まれる巨体が歩行を止めるかに見えた。
「おいアレ!」
毛皮が波立つ。炎が効いてない所から新たな毛皮が産まれる。
「嘘でしょう……」
毛皮の下に見せていた鉱石が、炎の揺らめきを写し、我々を一瞬だけ写すも毛皮にすぐ覆われた。
空気を切り裂く音。
「ダインっ!」
ストーンの叫び声。それと同時に薙ぎ払われた木々に混じり、自分たちが空中へ身を投げ出してるのを、目を見開いて感じた。
「……ぅう、皆、大丈夫?」
こんな時でも他人を気遣うエメラルに「何とか」「ああ、痛いよ」と返す二人。
そこで三人の頭上に影が降り注ぐ。
その場を跳躍で離れる三人。とそこにはバクの足が。
「見て!」
エメラルの叫びに二人は見上げる。
牡羊座国へと向かっていた筈のバクが向きを変える。
「針路を変えた……?」
巨体が少しずつ、牡羊座国からズレ、一本道から外れていく。
「多分何処かの、城壁を破って来たんだと思う」
「……修復しないといけないな、ここも」
戦闘で荒れ果てた大地、その地にストーンが槍を構え、土に柄を押し付ける。
「……記憶術」
記憶術、結界や修復、この場合、土地の記憶と自分の記憶を照らし合わせ、元通りにする術。
元通りになった土地を見て、安堵した時ダインは気づいた。
「……ヴラドの事すっかり忘れてたなあ」
まるで思い出したくなかったかのように言う、あとで小言を言われるだろう。
「ヴラド? 新入り?」
ストーンが興味深そうに尋ねる。
「普段無口な彼もやはりお国柄ですよね」
「うっさいエメラル!」
「ええー、ヒトにはいつも「アンタ、何でそんなに俺のこと知りたい訳? しつこいよ?」って言う癖に、自分はこれだ」
「アンタがストーカーなのは当たり前だろ、ね、ダイン?」
「まあまあ、エメラルが知りたがりなのは、友達だから、だろ?」
「……」
エメラルが凝視する。息が詰まったと言う表情に近いだろう。
「エメラル?」
唇を噛みしめ、引き結ぶ。
「はあ、いや何でもない」
呆れたような、やっと絞り出した声だった。
森で三人が会話してる頃、ヴラドたちは。
「……自分が最初見たバクってあんな感じだったっけ?」
「は?」
ホワイトジルコンが問い返す。
「いや、城壁ってかなり高いだろ、アレくらいの高さのバクでもすっぽり覆うような」
「いや、城壁とか知らないし」
手を動かし、城壁の方に頭を向けさせる。
「どう?」
「なんか、キャラメルみたいに光ってるね」
「下が無いのに食い意地張ってるなあ」
「そう言えば、腹が空かないと思ったら……」
「星座人は餌は記憶で、はっきり言って食べないよ」
クルリと頭を回転させ、尋ねる。
「ね、君。もしかして、この世界に来たばかり?」
「……まあ、ここが何処か分かんないし」
ヴラドは黄道を歩く。
「そういうのは「生まれたて」って言うんだよ」
「小鹿、嫌なんでも……」
「思うよね? ここは「記憶世界」そしてそこに住まうのが星座人」
ダインに説明されたことを、得意げに説明する。
「「星座人」は城壁外の周りで生活して、さっきの「バク」が城壁から出ないよう見張っている」
「あの城壁って、そう言う意味か」
「ね、君」
ホワイトジルコンの頭を自分の眼の高さと合わせる。
「な、何」
「さっきは怖い思いしたと思う。でも皆兵役は義務みたいだからさ」
「一緒に彼奴倒そうよ」
ホワイトジルコンは無理だと言う言葉を飲み込んだ。
あまりにも純粋な言葉。バクに喰われたことが恐怖で蘇る。
『止めろっ! 食べるな!』
痛かった。知識として知っている身体ではないことに恐怖を覚えた。
――一人、孤独で死ぬのか。
「ね、頑張ろう!」
回想を頭上の声が打ち切る。
その者の瞳は。
(濃い緑色に赤い斑点……)
「この身体で、どうやって?」
首だけの身体を改めて見まわす。
「戦闘では必ず足手まといだ」
「仇、取りたくないの?」
「仇って、行っても足手まといしか」
「連れて行く」
「はあ?」
「君の仇は自分が取る。だから」
「同じ「生まれたばかり」同士、頑張ろう、ね?」
力強く唇を噛みしめる。
「……無力だぞ」
「鞄に入れて、持ち運ぶ」
「……何かできる保証はないぞ」
「一緒に傍に居て、見守ってくれるだけで心強い」
「何で」
ホワイトジルコンが怯えた瞳で見つめる。
「自分は君を見て「運が良いな」と思ってしまった」
「運が良い?」
「そう、自分は城壁近くで生まれ、バクに襲われなかった」
ヴラドは城壁の方を見る。
「君を見て、改めて自身の強運を知り、恥じたよ」
「何で自分だけ助かったことを当たり前のように受け止めてるんだろうって」
「……」
沈黙をするホワイトジルコンに向き直り、顔を近づける。
「君が良ければだけど、一緒に自分と戦ってくれないかな?」
俯くホワイトジルコンに向こうから、足音が聞こえてきた。
「悪いなヴラド、置いてって」
「ううん、それよりこの子」
ホワイトジルコンの頭部を差し出す。
「身体は核が壊れなきゃいくらでも再生する。牡羊座国へ戻るぞ」
「……治るの?」
ホワイトジルコンが驚いた様子で見てくる。
「ああ、治る」
ダインの後にもう二人出てくる。
「牡羊座国のストーン、ブラッドストーンのストーン」
「牡牛座国のエメラル、エメラルドのエメラル」
エメラルがホワイトジルコンの前に来て、そっと頭を撫でる。
「ごめんなさい、貴方に危害を加えるつもりはなかったの、あの場合ああするしか」
ホワイトジルコンが胡乱気な目で見つめる。
それに気圧されたエメラルが「ほらっ、ストーンも謝って!」と急かす。
「ホワイトジルコン。我々の力足りなさに危害を加えたこと、申し訳ない」
「……バクは?」
ヴラドが尋ねる。
「バクは針路を変えました、当分牡羊座国へは近づかないでしょう」
「何か言いたげだな、ストーン」
「ああ、何処の城壁が破れたかな、と思って」
ストーンの声に城壁を見上げる。
青い空にキャラメル色に光る城壁。
それを各々別の表情と思いで見つめていた。