名探偵高校〜殺人鬼7名、死者25名
数々の短編1
『殺人犯7名、死亡者25名。我が名探偵高校の輝かしい記録である』
名探偵高校は、いたって何の特徴もない”普通”の高校だ。このままでは少子化時代を生き残るのは難しい。
全国各地の学校が、生徒集めのためにPR合戦を繰り広げているからだ。スポコン高校は、甲子園、インターハイと何でもござれのスポーツ。ラブコメ学園は、選り取り見取りの美男美女。どの学校も必死である。
そん中、我が校の売りは【名探偵がいる】……それしかない。名探偵様のおかげで廃校の危機を免れているのだ。
したがって名探偵様に快適な環境を整える、それが我が校の使命である! その取り組みを紹介しよう。
まずは入学制度について説明しよう。
単純な事件ばかりでは名探偵様も飽きてしまう。
「むしゃくしゃしたからやった。今では反省している」
こんなテンプレコメントの解りやすい犯人ばかりではダメなのだ。
容疑者……もとい、生徒は個性が重要だ。個性豊かな学生を集める必要がある。
何故か毎年いる十年に一度の天才や、全教科赤点のどうやって入試通ったのか不明な馬鹿、どちらも必要であるため偏差値に囚われない入学試験を行っている。
もちろん貧富差も関係ない。公立にいる理由が謎な大金持ちのお嬢様から、学費すら払えないような貧乏人まで、経済格差なく入学できる謎の奨学生制度を実施している。
ただ、この程度は我が校だけではない。ライバルのスポコン高校や、ラブコメ学園でも”普通”の事だ。
これに加えて我が校は、独自の画期的な取り組みを行っている。
入試試験にて、こっそり性格診断テストを行っているのだ。あまり大っぴらにやると問題になるため、あくまで内密にだ。
問)この時の犯人の気持ちを答えなさい。
こんな問題をバレないよう、5問に1問もぐり込ませて犯罪係数を測っている。
サイコパス指数が高い人はもちろん合格!
また、恨みを買いそうな性格の悪い者。好奇心旺盛で、危ない事に首を突っ込み殺されそうな者。このような死者……ちがう、生徒の人選も忘れてはいけない。加害者だけでなく、被害者も充実してこその名探偵高校なのだ。
入学後の”教育”にも力を入れている。生まれながらの殺人鬼だけでは、人手が足りないのだ。教育にて犯罪者を作り上げなければならない。そのための授業がこれだ!
【科学】 おなじみのマッドサイエンティスト教師を起用。使えそうな危ない薬品の管理を甘くさせている。
【国語と歴史】 犯行に擬えそうな話を教えている。
【数学】 トリックに使える力学中心。
【英語】 スペルの読み間違いが動機になるように、ローマ字だけ。
【部活動】 保護者の同意無しでも、必ず合宿を行うようにしている。
施設面の充実も忘れてはいけない。
屋上は当然のように解放。防犯カメラは無く、深夜に忍び込むのも容易だ。使いみちが無くても旧校舎は残してある。もちろん学園7不思議も完備している。図書室には、犯罪のヒントになりそうな書籍が充実していて、おなじみの鉄道トリックに使えるよう全国の時刻表も置いてある。
この教育方針にて殺人鬼と被害者、両方を多数輩出している。たいへん名誉な事である。
とはいえ、殺人鬼と被害者だけでなく脇役の重要性も忘れてはいけない。名脇役のモブ生徒がいれば、より事件が引き立つのだ。
理想のモブ生徒とは? 読者に深読みさせ過ぎないよう、まったく特徴のない外見はもちろんのこと。どんな陰惨な事件が起きても転校しない、登校拒否もしない鉄の精神。クラスメートが死んでものんきに恋バナができる無神経な心。これらを持ち合わせているのが、優秀なモブ生徒なのだ。
流石に該当する人材は少なく、モブ生徒は希少な存在となっている。仕方なく我が校ではプロのエキストラを雇っている。
さらなる理想の事件のためには、生徒だけでなく教員も含め学校一体となって取り組まなければならない。名探偵高校を支える教員達を紹介しよう。
何があっても辞任に追い込まれない、謎の政治力を持つ校長。事なかれ主義で通し、不正を働いて告発されそうな小悪党の教頭。そして、危険人物をどんどん入学させる、全ての元凶、理事長である私だ。
この三位一体が名探偵高校の縁の下の力持ちと言えよう。
一般教員の重要性も忘れてはならない。未成年である生徒だけではパターンが限られるため、教師にも殺人鬼や被害者が必要なのだ。
後ろ暗い過去を持つ者、生徒と禁断の恋を犯しそうな恋愛脳な者、このような人材は……もちろん採用である! 教員免許なんていらない。
こちらは生徒ほど遠回しにする必要はない。面接でストレートに聞く。
「では最後に……殺したい程憎んでいる相手、もしくは、恨まれている相手がいますか?」
「……はい」彼は暗い目で答えた。
「採用!」