一話 キャチミー・イフ・ユー・キャン
「まーた、走ってる人見てる。面白いの?」
「あー、うん。まあ面白いよ」
適当に答えた。
うん、本当は面白くはない。
ただ可愛い女の子が走ってるから見ているだけだ。
「まーた、そんなこといって、本当は可愛い子いるから見てるだけでしょ」
バレテーラ。
そうなんだよ。
いっつも走ってる黒い女の子。
躍動感がすごいんだよ、なんというかスポーツ美人? 飛び散る汗が美しいんだよ。
「とりあえず戻っといで。ゲームに勝ったら許してやんよ」
はいはい。
仕方ないですなー。
かる〜くもんであげましょう。
ついでに違うとこも揉んであげましょう。
部屋にいる彼女を見ると、すでにゲームのキャラ選択画面だ。
「キョウは、なに選ぶん?」
「同じキャラでいいよ」
「はっ、私の熟練されたチョイホンゲに勝てると思ってんのかな?」
なんだよ、そのキャラ。マイナーすぎるだろ。
でもまあいいか。
俺が負けることはありえない。
「で、手加減せずにボコボコにしたら、振られたと」
「そーなんすよ先輩、酷いっすよねー」
彼女に振られた翌日、先輩がやって来た。
と、いってもここは元々先輩の部屋だ。
遊び人の先輩はよく女の子の家に泊まりに行くので、この部屋はいつの間にか俺みたいな奴らの溜まり場になっている。
「バーカ、お前女の子の扱いうまそうに見えてダメダメだなあ」
うん、知ってる。
と、いうかね。本気になれないんだよね。
手に入れるのに苦労してないからか、離れていってもなんの感情もわかない。
そうだな、たぶんこの能力が逆にダメなんだな。
「先輩、俺さ、あの子ナンパしようと思うんだけど、どうかな?
「は? あの子てどの子だよ」
窓の外を指さす
毎朝、家の前を走る黒い女の子。
彼女を手に入れればつまらない日常は終るのだろうか。
「いや無理だろ、なんか真逆だろ、お前と」
服を着替える。
パジャマがわりだったジャージを着るとそのまま外にでる。
「無理とか言われると余計萌える」
彼女に向かって駆け出した。
「へい! 彼女お茶しない?」
踏み切りで止まっている彼女に声をかけた。
他にも三人ほど男がいたが、気にならない。
男三人が不機嫌な顔になっている中、彼女の表情はかわらない。
まあ、こんなもんでうまくいくとは思ってない。まずは最初のきっかけ作りだ。
「いいよ」
はえ? マジですかー。
「ただし、ついてこられたね」
踏み切りが上がると同時に彼女が走り出す。
「あとついてこれなかったら窓から見るの二度と禁止」
捨てゼリフも残していく。
そして風のように走り去る。
取り残された俺を見て、男三人が笑いを堪えている。
岩石みたいな大男、半年見てるが表情崩してるの初めて見た!
先輩も窓からケタケタ笑っている。
多分、全員がついていけるわけがないと思っているのだろう。
だがね、甘いんだよ。
息を吸う。
もうすぐ見えなくなりそうな彼女を見る。
観る、視る、診る。
よし、いける。
さっきまで笑いを噛み殺していた眼鏡の男が左目を抑えながら驚きの表情を浮かべる。
気づいたのか?
俺のフォームが彼女とまったく同じフォームである事に。
だが気にしていられない。
彼女をゲットするために、俺は全力で駆け出した。




