フライトプラン
日本航空289便墜落事故は、2010年8月24日に奈良県軽沢村の金剛山の尾根に墜落した航空事故である。
運輸省航空事故調査委員会による事故調査報告書によると、乗員乗客278名のうち死亡者数は277名、生存者は1名であった。
2012年8月19日に航空事故調査委員会が公表した報告書では、エンジントラブルによる機体の破損が事故原因とされている。これをもって公式な原因調査は終了している。航空関係者や遺族などの一部からは再調査を求める声があるが、現在に至るまで行われていない。
新聞を置く。
事故から二年、調査委員会はこの事故を終わらせようとしている。
修学旅行中の中学生二百人以上が犠牲になった。
調査では4つあるエンジンの一つが金属疲労のトラブルにより爆発。
主翼とエンジンを繋ぎとめているピンが破断され、右翼の第3エンジンが脱落し隣の第4エンジンに接触。右両エンジンを失い右翼の半分が破壊。
機体は操縦不能になり、17分後金剛山の尾根に墜落。
それが全容とされている。
いや、そう報告するように仕組まれたのだ。
ブラックボックスは未だに公開されていない。
ブラックボックスとは、フライトデータレコーダー (FDR) とコックピットボイスレコーダー (CVR) の通称である。
航空事故に関してブラックボックスは航空事故の原因調査に大きな役割を持つ。旅客機に装備され、事故の原因究明に大きな役割を果たす。
公開されない理由。
それはブラックボックスに残されたボイスレコーダーがあまりにも突拍子もないものだったからだ。
管制塔「289便、状況を伝えてください」
操縦室<警告音が鳴り続ける>
副操縦士「右翼破損、旋回して緊急着陸します」
管制塔「了解、緊急配備に入ります」
機長「おい、あれはなんだ?」
副操縦士「駄目だ! 見るな!幻覚だ! 」
機長「立ってるんだよ、大男がっ!機体の先端に!? 」
副操縦士「落ち着け、落ち着くんだ!」
管制塔「緊急配備につけ、緊急配備につけ……」
機長「笑っている! 見ろっ! 」
副操縦士「ダメだ! 落ちる!」
衝撃音
テープ終了
機長はパニックによる幻覚を見ていたとされた。
機体の先端に立つ大男。
普通なら確かに幻覚としか思えない。
だが、私の元に気になる一件のデータが送られてきた。
差出人は不明。
USBに入っている写真のデータ。
それは明らかに犠牲になった中学生のものだった。
携帯で撮ったと思われる写真には事故の前のクラスメイトや機内の写真が数枚あり、最後の一枚にまだエンジンがトラブルを起こす前の飛行機右翼の写真があった。
何かがそこに立っていた。
人影に見える。
ハッキリとはわからない。
「立ってるんだよ、大男がっ!機体の先端に!? 」
機長が見たものが幻覚でないのなら。
もしかしたらエンジンの故障の原因は......。
頭を振る。
そんなことはありえない。
滑空する飛行機に生身の人間が立っていられる訳がない。
だが、何かが引っかかる。
人間の限界を超えたもの。
人外な何かが存在するのだろうか。
事故での唯一の生存者。
伏見 甲斐。
事故当時の記憶はほとんどないという。
彼は何も見てないのだろうか。
資料を鞄に詰め込む。
もう終わった調査。
だが私の中では終わっていない。
私の息子もその場にいたのだ。
「田中さん。外出ですか?」
「ああ」
部下に返事をして向かう。
唯一の生存者、彼にもう一度会いにいく。