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怪闘王  作者: 恋魂
第一部 不死( アンデッド )
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四話 アイアムアヒーロー

 

 リングの上にキバコが立つ。

 リングにそそぐ満月の光を中心で浴びる。

 満面の笑み。これからイタズラをする子供みたいな笑顔で手招きしている。

 シャツを脱いでタンクトップ一枚になりリングにあがる。


 上がったと同時にキバコは向かって来た。

 

 パンっ


 弾けるような音がして右の拳が顔面にヒットした。

 早い。

 当たってからかろうじて右ストレートとわかる。

 ほとんどパンチが見えなかった。


 スパパんっ ぱんっ


 サンドバッグを叩くのと同じようにキバコはリズムよく殴ってくる。


 グローブをつけているうえに、兄のような殺人パンチの威力はない。

 今のままなら、何発食らっても自分にダメージはないだろう。


 右、左、右、右、左。


 さらにスピードが上がる。

 まだマックスではないのか。

 パンチは顔面だけではなく、ボディにもはいってくる。


 だが、ほとんどを受け流すように受け止める。

 意識してやっているわけではない。

 身体がそのように反応するのだ。

 顔面にくるパンチが当たると同時に首がひねられ、ぐるんとまわる。ボディへのパンチも身体がひねられてねじりかわす。

 

  ダメージがないのがわかっているのか、いないのか、彼女のパンチスピードはどんどんあがる。


 初動、加速、インパクト。

 打つたびに、精度が上がっていく。


「面白い、あんた面白い!」


  キバコのテンションが上がっている。

  それと同時にスピードもさらに上がっていく。


 パッ パッ パッ


 動く彼女の影しか確認できなくなる。

 パンチはまったく見えない。

 それでも身体は勝手に反応する。


 幻かと思うような高速の右が左頬にヒットする。

 ダメージをながし、右に首が回る。

 そこにはすでに左の拳がある。

 

 ガッ!


 初めて、ほんの少しのダメージを受ける。

 早い! 右と左同時に動いている錯覚に陥る。


 右!

 左!

 身体の反応が追いつかない!

 右......

 違う.....


 ――左だ!


 パッ パパパパパッ


 止まらない。

 ダメージを逃した方向にパンチがやってくる。

 身体ごとウェービングして連打してくる。

 

 兄とは違う。

 一撃で与えられないダメージを連打で蓄積させていく。


 いつまでこの連打が続くのだろうか。

 彼女のスタミナが切れるのが先か。

 自分の回復が追いつかなくなるのが先か。


「は、は」


「ハ、ハハ」


 笑い出したのはほぼ同時だった。


 思い出す。

 怪物を見るようなクラスメイト達の目を。

 ゴキブリを潰し殺すときに人はスッキリした顔をしない。

 自分を殴る人間たちもそうだった。

 嫌なものを殴り排除しようとする。

 だが、自分は排除されない。

 何度潰しても蘇るゴキブリ。

 自分はいつもそのように見られてきた。


 だが、彼女や、あの大男は違う。

 自分を倒そうとする。

 そして、自分との出会いを心から喜んでいる。



『楽しいのかい?』


 彼女の背後。

 飛行機の椅子に座っているクラスメイトが現れる。

 しっかりシートベルトをしている。

 不意に名前を思い出した。

 田中だ。


 ああ、楽しいよ、田中。


『そうか、じゃあ俺とはお別れだな』


 田中が椅子ごと満月に向かって飛んでいく。



「はははははは」


 思わず大笑いする。


「ハハハハハハ」


 キバコもつられて大笑いする。


 いつのまにか、大声で笑いあっていた。


 満月の下、二人の笑い声がしばらく響いた。


 


 

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