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怪闘王  作者: 恋魂
第七部 僧侶(プリースト)
43/52

二話 サキュバス

 

 中2の夏。

 ワタシの人生は絶好調だった。


 小さい頃から祖父に連れられて小学校の体育館で習っていた合気道。

 その頃は恥ずかしくて嫌だった。

 男の中で一人女なのも嫌だったし、男に触られるのも嫌だった。

 だが中学に入り、その才能に気がつく。


 あれ、ワタシ無敵じゃね?


 同年代は勿論のこと、大人相手にも負けない。

 特に柔法。組技に関しては誰にも負けないという自信がついた。

 従来の身体の柔らかさを活かしてどんな姿勢からも組み付ける。

 相手の隙をついて締め上げる。

 道場にも学校にも街にも敵はいない。

 気がつけば敵はいない。

 いい気になったね。

 そりゃもう天狗状態。


華姫(はなひめ)、メローイエロー買ってきやした」


 サブからドリンクを受け取る。


怒羅鬼羅(ドラキュラ)の奴等、今夜ぶっ飛ばしてヤるんすね! 俺らの刺糾化巣(サキュバス)が最強だと思い知らせてやりましょう!」


 いつの間にか、族の頭になっていた。

 髪の毛も金髪ロングにして口にピアスを付けた。

 胸元の開いた黒いライダースーツを着る。

 大概の男は私の胸元に気を取られている間に締め上げれる。


 深夜の山頂、轟山(とどろきさん)に怒羅鬼羅と刺糾化巣が集まる。


 ブォーン ブォーン パラリラ パラリラ


 今夜怒羅鬼羅のボスを倒せば町はワタシのモンになる。

 その先は全国制覇、日本中の族をまとめ上げる。

 その頃はそんなアホな妄想に取り憑かれていた。

 その日も余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)、そう思っていた。


 だがやってきたのは女だった。

 真っ黒い肌、タンクトップから見える腹の腹筋が割れている。

 まあいい、男だろうが女だろうが関係ない。

 軽くひねり殺す。


 人の波がモーゼの十戒ごとく割れる。

 その中心を歩くワタシ。

 大歓声があがる。

 気持ちがいい。

 周りの視線がすべてワタシに注がれる。

 ワタシは今、絶好調の波にいる。


 黒女に近づく。

 歓声はさらに大きくなる。


「あら、貴女がドラキュラの...」


 喋り終わる前にぶっ飛ばされた。

 凄まじく早い右ストレート。

 しかし、当たる瞬間に首をひねる。

 効いたフリをして崩れ落ちる。

   

「いったーい。なにすんのー! ひどーい!」


 地べたで座り込み泣き真似をする。

 ため息を吐きつつ、ワタシを起こそうと黒女が手を差し伸べる。


 隙だらけだぜ、ファッキンガール。

 

 腕を取り絡める。

 背後に回り後ろから足を絡める。

 首、腕、足、すべて締め上げる。


「さあ、みんなショータイムよ!」


 どっと歓声が湧く。

 腕の中の黒女の力が抜けていくのが分かる。

 もうおやすみの時間だぜ、ベイビー。


「があぁああぁあぁあ!!」


 いきなりだった。

 動きを止めかけた黒女が野獣のような叫びをあげる。

 痙攣(けいれん)したかのように身体が激しく動く。

 離さねえよっ!

 さらにガッチリと首を締め上げる。


「とまらないっ」


 人間の動きではなかった。

 首が高速にブンブンと振り回される!

 腕も足も異常な速さでジタバタしている。

 べきん、ぼきんと嫌な音がする。

 無理な動きで黒女の腕や足の骨が折れた音だ。

 それでも激しく動き続ける。

 首を抑える拘束が少し、ほんの少しだけズレる。


 ガっ!


 右腕に噛み付いてきた。

 しかも、なんだ、こいつっ!


 ぢゅるぅうううう


 血を吸っている!?

 全身が怖気(おぞけ)立つ。

 黒女の口からワタシの血が垂れる。


「はぁー!」


 黒女が叫んでいる。

 牙のような八重歯が見える。

 人間の顔でなかった。

 生まれて初めて恐怖する。

 いつの間にか拘束は解け、ワタシは小便を漏らして泣いていた。


 アアァアアアアあああああああ


 黒女が雄叫びをあげる中、アタシは意識を失った。



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