一話 シスター
ナンパ師みたいな優男にジムを案内してもらう。
怪物製作所。
ふざけた名前だ。
それにこの場所。
轟山。
因縁の場所に思わず歯ぎしりをしてしまう。
「あ、あの華さん?」
やっべえ、ひいてるじゃん。
「す、すみません。なんでもないんです。少し昔を思い出してしまいまして」
慌てて取り繕う。
疑わしい目で見られるが、まあいいだろう。
もうこの男は用済みだし、軽く捻ってもかまわない。
だいたいこいつ、ほぼ胸ばかり見てやがる。
どっちにしろ後で殺す。
ジムの扉が開き中に入る。
ジムの中にはイガグリみたいな坊主しかいない。
目標の人物はいない。ハズレか。
「あれ、くりりん、みんなは?」
「カイさんと岩男さんは秘密特訓とか言って出かけました。ヒノメさんはお休みです」
イガグリが答える。
不死、岩人形、邪眼、どうでもよい。
それよりも。
「牙子さんは今シャワーです。って、覗きにいったらダメですよ、キョウさん」
「いや呼んでこようと」
カスだ。カス男だ。
だが、そんなことは今どうでもいい。
「少しここで見ていても良いでしょうか?」
どうやら目標はもうすぐ現れるようだ。
「キョウさん、誰ですか? あのシスターさん。なんか胸大きくないですか?」
「ああ、たまらんよな。俺のだからな。さわらせんぞ」
コソコソ言ってるが聞こえてるぞ、お前ら。
後でイガグリもひねり殺す。
もうすぐ、もうすぐ再会できる。
「おー、なんだ挑戦者か」
風呂上がりの濡れた髪のまま黒い女性が現れる。
二年前とあまり変わってない。
相変わらず胸はぺったんだな、おい。
「いや、見学者ですよ。なんか関節に詳しくて俺の首治してもらったんです」
カス男が代わりに答える。
「ふーん」
こっちを見てきたので軽く会釈して微笑む。
ワタシが誰だか気がついてないようだ。
それはそうだ。
二年前のワタシとは真逆だからな。
沸騰しそうな頭をギリギリで抑える。
この日の為に私は生まれかわったのだ。
リングにあがりシャドウボクシングを始めた宿敵を見る。
早い。
あの頃よりもさらに早い。
だが捉えられる。
今のワタシなら捕まえられる。
「おい」
不意にリングの上から声がかかる。
「今日は戦わないのか?」
目を開く。
「あの牙子さん、彼女は...っはぶあ!」
口を挟んだカス男の首を捻る。
「リベンジにきたんじゃないのか? サキュバス」
ドラキュラが笑う。
気がついていやがった。
八重歯が見える。
二年前、完全に勝ったと思ったところから逆転された。
噛み付かれ、血を吸われ小便を漏らして気絶した。
すべてを失った。
「流石ですね」
シスター服の頭の頭巾を外す。
あの頃は金髪だった。
いまは黒髪三つ編みおさげ。
ダサいことこの上ない。
すべてはお前を倒すためだ。
「つぎはひねり殺しますよ?」
「楽しみだ」
リングに上がる。
失われた二年間を取り戻す戦いに心が震える。
「ぶっ殺してやるぜ、くそあまビッチが」
あまりの興奮に本性がでてしまう。
イガグリとカス男がキョトンとしている。
ウインクをしてやる。
サービスだせ、チンカスども。
さあ、ショータイムのはじまりだ!




