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怪闘王  作者: 恋魂
第七部 僧侶(プリースト)
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序章 ファンシィダンス

阿波瀬(あわせ) (きょう)視点

 病院に通うことになった。

 首の捻挫。

 盗賊(シーフ)にやられて負傷した怪我だ。

 超回復をもつカイくんをコピーしたら治るのはずだが何故かコピーが出来ない。

 体力の回復はコピー出来たが傷の回復はコピーの限界を超えているのだろうか。


阿波瀬(あわせ)さん、二番へどうぞ」


 部屋に通されて診断される。


「あー、まだあまり動かさないほうがいいね。あと一週間は安静にしないとね」


 一週間動けない。

 もどかしくなる。

 これまで俺はなんでも真似ができる万能な人間だと思っていた。

 だが怪物製作所に入って以来、その考えは吹っ飛んだ。

 怪物達の中で俺のランクはほぼ最下位。

 賞金首ランキングでは最弱と言われる栗田 (りん)の次だ。

 実際、怪我の原因となった盗賊との戦いもコピーする前に瞬殺という失態を犯している。

 

「その首、格闘技が原因ですか?」


 薬を待って待合室にいると声をかけられた。

 見るとシスターの格好をした女性が隣にいた。

 頭から足元まで黒いシスター服。

 眼鏡をかけているがその奥の瞳が美しい。

 若い、多分俺より一つか、二つ下の高校生くらいか。

 胸元に十字のペンダントがゆれている。

 その胸元。服で隠れているがかなり大きい。

 俺の目は誤魔化されない。


「あ、あの」


「ああ、ごめん。そうなんだ、チョット試合で捻ったんだよ」


 危ない、危ない。

 少しトリップしていた。

 最近女っ気がないからだ。


「良かったら治しましょうか?」


 いきなり変なことを言う。

 あれか、神を信じますか? 信じれば治ります的な何かだろうか。

 入信されられるのか。


「あー、いやその」


 上手く誤魔化して断ろうとする。

 だがその前にシスターはニコリと笑って俺の首を両手で抱え......


「そいっ!」


 そのまま首を捻じ曲げた。


「ぎゃあ、ちょっ、首っ」


 いきなりのことに動転して首を触る。


「あれ? 痛くない」


 首が治っている。


「これは......」


「私、得意なんですよ。関節関係」


 笑顔が眩しい。

 天使だ。

 病院の待合室で天使見つけました。


「ありがとう、お礼に結婚しましょうか?」


「い、いえ。結婚はしません。気にしないでください」


「じゃあ同棲か、それでもダメなら恋人というのはどうでしょうか?」


「い、いやいやいやいや。本当に気にしないでください」


 ぶんぶんと首を振るシスター。

 うむ、初々しい。


「じゃあ、お礼に食事に行くというのはどうですか?」


「あ、それくらいなら、っ! いえいえ、そんなっ」


 もう遅い。

 すでに言質(げんち)はとった。


「行きましょう、そこで将来について語りましょう」


 シスターは少し引きつっているが気にしない。

 久々のナンパ成功だ。



 眠矢町(ねむるやちょう)には、あまり洒落た店はない。どちらかというと老舗の古い定食屋が多い。

 その中でも少しだけオシャンティなフランス料理店、ビストロ・アンジュにシスターさんを連れてきた。

 ビストロの当て字が美酢斗露になっているが、味は旨いから気にしない。


「すみません、このようなつもりはなかったのですが」


 申し訳なさそうに食事をするシスター。しかし、食べている量は凄まじい。軽く五人前は食べている。

 お金足りるだろうか。


「いいんですよ、早く治してトレーニングしたかったので」


 本当にそうだ。早く他の怪物に追いつかなけばならない。


「格闘技をなさってるのでしたね? ジムか何かに通っているのですか?」


「あ、はい。山の上の、怪物製作所というふざけた名前のジムに通ってます」


 これまで止まらずに食事を食べていたシスターの動きがぴたりと止まる。


「知ってるんですか?」


「え、ええ、街中でビラを配ってましたわね。冗談かなにかと思ってましたわ」


 賞金首リストを見たようだ。


「冗談じゃないんですよ。俺もあれに乗ってるんですよ。下から二番目ですけどね」


 ちょうどポケットにビラがある。


「この阿波瀬 (きょう)ってのが俺です。そう言えばシスターさんの名前聞いてなかったですね。教えてもらっても良いですか?」


 シスターは答えない。

 ビラをじっと見ている。

 俺の所ではない。

 誰を見ているのだろうか。


 チッ


 舌打ちが聞こえた。

 見ると終始穏やかだったシスターの顔が鬼のように険しくなっている。

 それは一瞬だけですぐに元に戻る。


「キョウさん」


「ふぁいっ」


 いきなり名前を呼ばれて変な声をあげてしまう。


「食事の後、ジム見学に連れて行ってもらえませんか?」


 警告音。

 前回の盗賊と同じか、それ以上の危険を感じる。


「ああ、私の名前は鬼龍院(きりゅういん) (はな)と申します。よろしくお願いいたします」


 天使のような微笑みを浮かべながら、賞金首リストを握りしめる。

 手の中でぐしゃぐしゃに潰れる。

 顔は天使なのに背筋に冷たいものが走る。

 身体中が警告音に悲鳴をあげる。

 この女は危険だ。


「あと、子羊のワイン煮込み追加でお願いします」


 それでも一刻も早くジムに行かねばならない。

 サイフの中身も悲鳴をあげていた。



 

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