三話 ナイト・オブ・ザ・リビングデッド
ヒロイン登場します
再び目が覚めたのは夜になってからだった。
腕にまだ点滴がついていたので引っこ抜く。
もう完全に回復していた。
「超回復というか自然治癒能力は人間誰しももっているんだ。ただ君はそれが人よりも何百、いや何千倍もある。それだけだよ」
医者の言葉を思い出す。
「腕とかちぎれても生えてきそうなんだよね、よかったら一本ためしてみない? だめ?」
ふざけた医者だが、なぜか憎めない。
腕ではないが首がちぎれかけたと今度報告にいってやろう。
ベッドから降りようとする。
そのベッドの下から顔がでる。
椅子ごと吹っ飛んだ隣の席の名前を覚えてないクラスメイト。
『相変わらず死なないな』
ああ、お前は死んでいるけどな。
『はは、そうだった。忘れていたよ』
顔が崩れて半壊する。それでも口元は笑っている。
『待ってるよ』
ベッドの下に消える。
起きていても夢を見る。
もはや、気にすることもない。
ぱん、ぱん、ぱんっ
ドアを開けて帰ろうとすると、ドアの向こうからなにかを叩く音がする。
そういえばヒノメがジムだと言っていた。
時計の針は深夜二時を指している。
こんな時間まで誰かが、トレーニングしているのだろうか。
「ここは怪物製作所だ」
ヒノメの言葉が思い出される。
あの大男みたいな怪物がゾロゾロいるのか。
まさか。
ドアを握る手に力が入る。
ゆっくりとドアノブを回す。
部屋の明かりはついていなかった。
ジムの天井がガラス張りになっていて月明かりのほのかな灯が差し込んでいる。
ジムはかなり広く、様々なトレーニング機具が置かれている。
中央には大きなリングがあり、その横にサンドバッグが吊るしてある。
満月だ。
ぱんっ、ぱぱぱん。
その満月の下、黙々とサンドバッグを叩く音が響く。
見惚れていた。
サンドバッグを叩くその姿に。
凄まじいスピードだった。
影がものすごい連打をサンドバッグに叩き込んでいる。
その影のシルエットは女性だ。
色が黒い、日焼けによるものか、もともとの肌の色なのか。影のように真っ黒だ。
伸びた髪は後ろでくくられ、ポニーテールの髪が動くたびに跳ねる。
黒いスポーツウェアを着た黒い彼女が、まるで影が動いてるように幻想的にサンドバッグを叩いている。
「綺麗だ」
思わず無意識につぶやいていた。
そのつぶやきが聞こえたのか、それとも偶然か、サンドバッグを叩く手がとまった。
そして、こちらを見る。
「誰、あんた」
「伏見 (ふしみ) 甲斐」
いきなり質問され、フルネームで答えてしまう。
「練剛 牙子」
「えっ、キバ?」
「そう、キバコ。あんたはなに?不死身かい?」
「いや、ふしみ、かい」
静寂が訪れた。
ぱんぱん、すぱぱん、ぱん、すぱんっ
しばらくして何事もなかったようにサンドバッグを叩く彼女。
色々と質問したいが、難しい。
まず、練剛と名乗ったこと。
ヒノメが自分を殴った大男のことを練剛と名乗っていた。
彼女は妹かなにかだろうか、年は自分と変わらなさそうだ。
しかし、筋肉質のあの大男と違い、キバコの肉体はシャープだ。
サンドバッグを連打する腕が見えないくらいに早い。
「あんたさ、兄貴に殴られて寝てた人だよね」
サンドバッグを打ちながら言う。
頷くとキバコはにまーと笑った。
牙のような八重歯が見える。
あ、なんか大男の笑い方に似ている。
やっぱり兄妹だ。
「うちも殴っていい?」
満月に照らされた黒い美少女の言葉に、思わず頷いていた。