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怪闘王  作者: 恋魂
第六部 魔王(サタン)
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第四話 愚者の王

 燃え上がった飛行機の残骸。

 人が焼け焦げる異臭が漂う。

 その中心に俺はいる。

 山の中腹に墜落したのだろう。

 周りの木が燃えて、火の粉が降りかかる。

 足元を見る。

 胴体のちぎれた隠我(いんが) (おん)が横たわっている。


 右手には牙子(きばこ)を抱いていた。

 二人のうち助けられるのは一人だけだった。

 周りにはその他大勢の死体が散らばっている。

 なんの感情もわかない。

 だが、虫の息でいまにも死にそうな音を見ると胸が締め付けられた。


「音」


 いつものように話しかける。


 コトン


 指が少し動く。


「手を握ってもいいか?」


 コトン、コトン


 二回指を動かす。

 こんな時でも観測者の役目を果たそうとする。

 構わず手を握った。

 冷たい。

 命が急速に終わりを告げようとしている。

 急に目の前が霞み、音の顔が見えなくなる。

 音の顔に水がかかる。

 最初雨が降っていると思った。

 だがそれは俺の目から流れていた。

 生まれた時以来の涙だった。


 産声をあげるように俺は叫んだ。



 ゆっくりと話す開炉(かいろ)の話を止める。


「その話はいい」


「しかし.....」


「俺がその記憶を忘れると思うか?」


 開炉を睨むと言葉を止めた。


「わかりました、今日はここまでにしましょう」


 開炉は帰っていく。

 あれから二年、冷静に聞けると思ったが無理だった。


「まだまだだな」


 コトン


 聞こえるはずのない(おと)がして、少し笑みが浮かぶ。



 携帯がなった。

 ()() (えい)からだ。


「今夜、獣人会(じゅうにんかい)がある」


「そうか」


 料理はすべて揃った。

 後は豪快にテーブルをひっくり返すだけだ。



 壁を突き破り獣人会に飛び入り参加する。

 久しぶりに会う顔、初めて見る顔、どれも枯れ果てた老人共だ。


「どうやってここが」


 練剛(れんごう) (がい)が驚いている。


「普通に英について来た」


 気配を消す。

 俺本来の圧倒的な存在感が消える。


「まさか、それは隠我の!?」


 初めて見る老人が叫ぶ。

 存在が希薄でどことなく音と似た雰囲気を持つ。

 隠我の一族だろう。


「あの日からできるようになった」


 頭の中でコトンと床を叩く音がする。


(おん)はここにいる」


 隠我の老人が笑う。


「素晴らしい」


 その笑った顔がなくなった。

 天井にぶつかり、トマトのように潰れる。


「ついに我らが王は童貞を捨てた」


 首のなくなった隠我の横の開炉が実に嬉しそうに話す。


「これこそまさに我らが望んだ結末、良い、これで良いっ」


 話している最中の開炉の頭をスイカのように割る。

 パカンと気持ちのいい音がして真っ二つになる。


 そのまま、横にいる御御足(おみあし)の絡まった腕を掴み引きちぎる。


 その腕をぶん回す。

 名前を知らない一族の一人の顔に突き刺さる。


 (いたち)の前に行く。

 微動だにしない鼬の頭に噛み付く。

 顔面の半分を失った鼬はそれでもまったく動かない。


 一分。

 それだけで九人の老人は練剛 凱 一人になっていた。

 凱はまるで孫の成長を喜ぶかのように愛おしい目で俺を見ている。


「おめでとう」


 ここまでが計画だったのだろう。

 この殺戮を俺にさせる為にあの事故を作り出した。

 凱は実に満足そうだ。

 力を次の世代に託した者たちはここでの死を望んでいたのだ。


 だが、俺はここでテーブルをひっくり返す。

 老人達の思惑通りにはいかせない。


 パァン


 両手を叩く。


 凱が大きく目を開く。


 死んだはずの老人達が呆けた顔でそこにいた。






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