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怪闘王  作者: 恋魂
第六部 魔王(サタン)
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二話 裸の王

 三歳から五歳までの二年間、御御足(おみあし)の一族の道場に通うことになった。

 御御足は技に特化した一族で様々な技を俺に教えようとした。

 結論から言う。

 技は一つも覚えなかった。

 面倒だったからだ。


「どのような力にも流れがあり、その流れを利用すれば力の弱いものが力の強いものを倒すことができる」


 御御足 流泉(りゅうせん)は小柄な老人で格闘技をしているようには見えないような穏やかな顔だった。

 大きめの着物から見える手足は細く少し力を入れれば粉々になるなと、三歳の俺は思っていた。


「打って来なさい。全力でいい」


「ぜんりょくでうったらこわれるよ」


 三歳の俺は思ったことをそのまま口に出した。


「かまいませんよ」


 孫に話しかけるように笑って答える流泉に軽く殴りかかった。


 何をされたのか。

 身体がふわりと浮いて気がつけば床に転がっていた。


「これが技というものですよ。如何(いかが)ですかな」


 ようやく投げられたことに気づいてむっとなる。

 起き上がって拳を構える。


「次は全力で来なさい」


 拳に力を込める。

 半分くらいの力を出そうと思ったが、三歳の俺はまだ力のコントロールがうまく出来なかった。

 七割くらいの力がでてしまった。


 俺の力を受け流そうとした流泉の両腕はまるで二つの雑巾を同時に絞ったようにぐるぐるに絡み合った。


 以降、流泉はこの両腕を治療することはない。

 王の力の象徴として、流泉は死ぬまで両腕を絡めさせたまま生きることを誓った。


 御御足の道場で技を学ぶことはなかったが簡単な鍛錬は毎日欠かさずこなしていた。

 腕立て伏せをしながら、さらに力がついていくのを感じていた。

 全力で殴って壊れないもの。

 三歳の頃から今日まで一番欲しいものは一度も変わらなかった。


 (いたち)の家に帰るといつもの食事が用意されている。

 離乳食ではなくなり固形物に変わったが味は同じだった。

 美味いとも思わないが不味くもない。

 三つの器がちゃぶ台に置かれ二つを鼻祖(ひそ)と向き合って食べる。

 真ん中に置かれた器は誰も手をつけることなく今日もそのままだった。


 生活のリズムはいつも一定で鍛錬食事検査の繰り返しだった。

 夜の九時には就寝し、朝の五時に起きる。


 だがその日はなかなか寝付けなかった。

 昼に流泉の腕を破壊したことで興奮していたのかもしれない。

 普段より神経が研ぎ澄まされいた。

 だからほんの少しの物音に気がついたのかもしれない。


 ほんの少し、気のせいだと思うくらいの音だった。

 人がなにかを食べる音。

 寝部屋の隣にある食卓を覗くといつも残っている食事の入っている器が宙に浮いていた。

 最初は幽霊かなにかだと思った。

 しかし、神経を集中させると器を持った人の形が見えてきた。


 うっすら、まるで透明であるようにそこに少女がいた。


「だれ?」


 俺が声をかけると少女は驚いて固まった。

 器を持ったままこちらを見る。

 俺より少し年上の少女。

 透明で集中していないと姿を見失いそうになる。

 おかっぱで着物を着ている姿は座敷童子(ざしきわらし)を連想させる。

 彼女は俺が生まれたときからずっとそばにいて、俺を見てきたのだ。


「みなかったことになりませんか?」


 彼女の返事に俺は首を振った。

 泣きそうな声で彼女は答える。


隠我(いんが) (おん)と申します。恐れながら王を見守らせて頂いてます」


 生まれたときから共にいた彼女と初めて話す。

 話しているときでさえ見失いそうになるほど存在が希薄(きはく)な少女。


「よろしく」


 差し出した手を音は握らなかった。

 観測者の一族である隠我。

 あくまで彼女は観測するだけの存在を貫こうとした。


 それでも俺はこの時、初めて友達ができるとはしゃいでいたのだろう。

 毎日、音を見つけようと躍起(やっき)になり、姿は見えなくても話しかけたりしていた。


 だが結局、音と手を握るのは彼女が最後の時を迎える時だけだった。





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