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怪闘王  作者: 恋魂
第六部 魔王(サタン)
34/52

序章 蠅の王

ヒノメ父視点。

 

「テーブルをひっくり返す」


 練剛(れんごう) (おう)はそう言った。


「一流のシェフが丹精込めて作った料理。一流の職人が持てる技術のすべてを込めて作った食器。何十年もの時をかけて熟成されたワイン」


 唇の端を釣り上げて笑う。


「それらがすべて一瞬で無になる瞬間が好きなんだ」


 私は無言でそれには答えない。

 ただ彼の考えには共感できた。

 積み上げたものを壊す快感は作ることの快感より遥かに大きい。



 目隠しをされて何処かの地下室に連れて来られる。

 獣人会(じゅうにんかい)

 毎回違う場所に集まる十人の老害(ろうがい)

 その一人に私も含まれているのだが。


「やあ、()()、久しぶりだな」


 目隠しを外される。

 大きな円卓テーブルを囲んで椅子が十個並んでいる。灰色のコンクリートに囲まれた部屋。

 飾りつけも何もない監獄のようなところだ。


「さあ、君が最後だ。座りたまえ」


 練剛 王の祖父。

 練剛 (がい)が言う。

 若い頃の面影はもはやない。

 筋肉は削られたように根こそぎなくなり、枯葉のような老人がそこに居る。

 実験に次ぐ、実験。

 次の世代に最強を譲った後は最早絞れるだけ絞った後の絞りカスだ。


「さて、始めようか、獣人会を」


 他の面々も同じようなものだ。

 伏見(ふしみ)

 阿波瀬(あわせ)

 黒影(くろかげ)

 (いたち)

 雨露虫(うろむし)

 開炉(かいろ)

 御御足(おみあし)

 隠我(いんが)

 ()()

 練剛(れんごう)


 最強の人間を作り出そうとした一族の絞りカス十人。

 最も私の父だけは早くに亡くなり、絞れるカスもなくなってしまったが。


「まずは報告を聞こう、陽ノ目。我らが王の様子はどうだ」


「相変わらずですよ。思うがままに生きています」


 千年以上の時をかけて作りあげた最高傑作。

 それが練剛 王だ。

 だが老害達はそれだけでは納得しない。


「最強のまま、不老不死にする計画はどうだ? 細胞の維持はできそうなのか?」


「不老はまだ難しいですね。細胞の再生と老化を紐解くまでにまだ時間がかかりそうです」


 伏見の老人は唸る。


「強さのコピーはどうだ? 次世代に次々と以降できれば問題あるまい」


「キャパシティが足りません。ただの人間に怪物を詰め込んだら崩壊するだけです」


 阿波瀬の老人が舌打ちする。


「スピードと力の融合は? 練剛と黒影の血は混ざり合わないか?」


「兆候は見られませんね。黒影の血が顕著に現れてます」


 唯一の女性。黒影が天を仰ぐ。


 毎回同じようなことを言う老害達の言葉を受け流す。

 だが、今回はそれだけでは終わらなかった。


「ところで最近、君の息子はどうだね」


 聞いてきたのは隠我の老人。


「なにか色々やっているようだが我々に報告することはないのかね」


 沈黙。


 隠我の老人の気配は限りなく薄い。

 目の前で話していてもそこにまるでいないように感じてしまう。

 存在感を限りなくゼロに近づける一族。

 気配を消し、私のやっていることを調べてきたか。


「伏見と阿波瀬の子らが王の作ったジムにいるそうだな。息子を使って接触させたのもお前かね」


 老害達が(ざわ)つく。


「ばかな、伏見と阿波瀬は保存用だ。戦闘用ではない」


「壊れたらどうするつもりだ。何を考えとる」


「愚か」


 鼬。雨露虫。御御足。

 それぞれが私を睨む。


 唯一発言しない開炉はいまもすべての会話を記憶しているのだろう。


「答えろ、陽ノ目。お前は何をするつもりだ」


 息を大きく吐く。

 言いたいことは山ほどある。


 最強の人間を作り出す。

 その最強の人間を永遠に保存する。

 最強の人間の証明とはなにか。

 地球上にいるすべての人類を絶滅させた(のち)、ただ唯一生き残る一人。

 そんな馬鹿げた夢を千年以上追い続けた一族達。


「はっ」


 私は耐えきれず笑ってしまう。


「テーブルをひっくり返す」


 どんっ!!!


 私の言葉と同時に轟音と共に壁が破壊された。

 老害達が固まった顔でそこに居る者を見る。

 千年以上の時をかけて作られた最強がそこにいた。








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