ブロブ
「ボクは本当にここにいていいんでしょうか?」
練剛さんにそう言うと、ラーメンを食べに行くことになった。
何故だろう。
練剛さんが賞金首のビラを撒いたことにより、ジムには毎日挑戦者が現れ戦いにくる。
ボクの賞金は一円。
対戦相手はヒノメさんがあまり強くない一般人を選んでくれる。
勝率は1割というところ。
戦力として勘定されていない。
朝のマラソンもついていけない。
ジムは全員怪物という中で、ボクは一人凡人、いや凡人以下だ。
凡人が一日でマスター出来ることもボクは十日かかる。
「おー、ここだ、ここ」
ラーメン屋につく。お世話にも綺麗とは言い難い。
独特の匂いが鼻をつく。
「まあ、飯でも喰いながら話そう」
この人はただ腹が減っているだけだ。
多分、食べ始めたら話をしないだろう。
予想通りになった。
練剛さんは山のような大盛りラーメンを流し込むように食べる。
メンカタマシマシゼンブノセ。
呪文のような注文をすると麺が見えないほどの肉とモヤシがのったラーメンが運ばれてきた。
無理だ。完食するイメージがわきません。
麺にたどり着く前に終りそうだと思っていると、練剛さんはどん、とラーメン鉢を机に置く。
完食していた。早い、1分くらいで食べ終わっている。
おかわりを注文する。
格闘だけでない。
全てが人類を凌駕している。
「俺はこのラーメンを完食するのに1分くらいかかる。お前はどれくらいかかる?」
「え、いや、わかりません」
いきなり話しかけられて、返答に困る。
そもそも完食できるかわからない。
「ま、30分かかったとしよう。俺は今、お前の30倍凄い。だが、30分後にお前が食べ終わったら同じじゃないか?」
いや、食べれませんけどね。
だいたい練剛さん、おかわりしているから同じじゃないですよ。
「いつかは、追いつく。それでいいじゃないか」
練剛さんなりの慰めだろうか。
まったく理論がめちゃくちゃだ。
だが何故か心が弾む。
ラーメンを食べるハシがすすむ。
ようやく麺がみえてきた。
練剛さんに電話がかかってきた。
普段の練剛さんでは、考えられないほどフレンドリーに話す。
相手は誰だろうか。
「そうか、暴走したか。わかった。止めに行く」
練剛さんの二杯目のラーメンが運ばれてくる。
「おう凛、ちょっと行かなきゃならねえ。これ食べといてくれ」
練剛さんがラーメンをボクに渡す。
一杯目もまだほとんど残っている。
「残すなよ、用事が済んだら戻ってくる」
無茶なことを言って練剛さんが出て行く。
相変わらず、無茶苦茶だ。
だが、練剛さんに言われたら食べないといけない。
強くなるんだ。
その為にあの人についてきたんだから。
一時間かけて、二杯のラーメンを完食する。
店内で拍手が鳴り響く。
店長が少し涙ぐんでいる。
なんだこれ。
腹が妊婦さんのように膨らんでいる。
もう一生ラーメン食べたくない。
「おー、全部食べたか、えらいぞ、凛」
練剛さんが帰ってきた。
帰ってくるなり、頭を撫でてくる。
高校野球児のような頭を触るのが好きだと言っていた。頭を撫でながら練剛さんは言う。
「諦めないというのは、最強を目指す中で最も重要なことだ」
多くの人達が練剛さんと戦い、最強を諦めてきた。
だからだろうか。
諦めないボクを練剛さんは面倒よく見てくれる。
身体の中から熱い何かが込み上げてくる。
一緒にヤバいものも込み上げてくるが必死に耐える。
「さて、親父。ラーメンおかわりだ。こいつに喰われちまったからな」
練剛さんが笑う。
今は、誰にも勝てない。
だが、いつか、いつの日か追いつく。
どれだけ離されても、ついて行く。
なにがあっても、離れない。
練剛さんの携帯がまた鳴る。
「なにっ? また暴走した? 周期が早いな、仕方ねえ」
三杯目のラーメンが運ばれてくる。
こっそり逃げ出そうとしたが、首ねっこをつかまれた。
ボクの最強までの道のりは果てしなく厳しい。
全編改稿のためしばらく更新をお休みします




