転章 実験室KR-13
ヒノメ父視点。
実験施設。
ここはすでに何度目の施設だろうか。
アルファの暴走により何度も破壊された。
一定周期でくる破壊衝動を私では止めれない。
多勢いた助手もいまは一人しかいない。
能面のように表情のない女。
名前は覚えていない。
覚えることが多い中、無駄なことは覚えない。
助手Aで十分だ。
「現在、怪物製作所に挑戦したもので使えそうなのはこの2名です」
助手Aから資料をもらう。
戦士に盗賊。
なるほど勇者の実験にはぴったりだ。
「二人をスカウトに迎え、それからさらに二人、いや三人くらい候補を見つけておけ」
無言で助手Aは出ていく。
「君のいい友達になるといいのだが」
アルファを見る。
暴走を終えたアルファは今は普通の体型だ。
静かに部屋の隅に座っている。
怪物を倒す勇者として私が作った。
いまはまだ未完成。
だがアルファは成長していく。
戦えば戦うほどアルファの力は倍加する。
その力はいつか魔王を倒す勇者となるはずだ。
両手両足についた鎖が揺れる。
目覚めたようだ。
「お早う」
返事はない。
だがガラス越しにこちらをじっと眺めている。
暴走後の軽い混乱が残っているのか。
私を叩き潰すこともできたはずだ。
だが、アルファは暴走しても私にだけは手を出さない。
私がいればさらに強くなれることを忘れないのだ。
「もうすぐだよ、シュウ」
久しぶりに名前を呼ぶ。
終わりの始まり。
アルファでありオメガ。
シュウでありハジメ。
二つの人格。
二つの肉体。
理性と暴力。
相反する二つを掛け合わせた私の最初で最後の最高傑作。
「お前が勇者となって魔王を倒すんだ」
シュウが吼える。暴走。周期が早くなっている。
筋肉が増大され、身体全体が巨大化する。その肉体は魔王、練剛 王にも見劣りしない。
倍増した筋肉、伸びた身長。
片方だけだった紅い瞳が両目に宿っている。
科学が作り出した怪物。
愛おしい息子。
私のすべて。
シュウとハジメが完全に混ざりあったとき、怪物を超える勇者が生まれるのだ。
オォォオォォオォォぉぉォォ
シュウの時の記憶はハジメにはなく、ハジメのときの記憶はシュウにはない。
「シュウ、お前にはなにが見えているんだ?」
数字は見えているのか?
人を人として見ているのか?
何も見ていないのか?
鎖がすべて引きちぎられ、強化ガラスにシュウがぶつかりヒビが入る。
私を憎んでいるのか?
私はお前を何より愛している。
強化ガラスを叩く、叩く、叩く。
静かに目を閉じる。
叩く、叩く、叩く、叩き割る。
強化ガラスが割られてシュウが私の前に立つ。
「ト、ウ、サ、ン」
初めてシュウが言葉を喋る。
勇者が魔王を倒す日は近い。




