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怪闘王  作者: 恋魂
第五部 邪眼(イービルアイ)
31/52

四話 博士の愛した数式

 人の力で怪物を作り出す。

 それが父の目的だった。

 特殊な能力をもった者たちのDNAを掛け合わせ、さらに特殊にしていく。

 練剛(れんごう)さんの一族にも深く関わっていた。

 なんのために怪物を作り出そうとしているのか。

 父の真意はわからない。


「お前はここから生まれたんだよ」


 無機質な円柱形の試験管。

 そこから僕は作られた。


「完全なる怪物を作り出すにはそれを観測するものが必要となる」


 それが僕。


 完全なる怪物はすでに存在しているのか?


「かぎりなく近い者はいる。だが完全ではない」


 練剛さんのことを言っているのがわかった。

 父は科学の力であの力を越えようとしている。


「種はまいてある」


 父の実験は人の域を超えている。

 いったいどんな怪物を作り出そうとしているのか。


 父が隠してある実験ノートをある日捜しあてた。

 だが頭に警告音が鳴り響く。

 それを見てはいけない。

 見てはいけない何かがそこにある。


 それでもページを開く。


 そこには、まるで理科の実験のように淡々と書いてあった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 実験体 アルファ 以下乙 破壊実験①


 アイテム: ごく普通の人間 以下甲


 破壊試験の記録:

 乙が部屋に運びこまれると甲は叫びだし泣き始めた。甲はすぐさま乙に潰された。


 助手のメモ: うん、うまく行かなかった。甲が怯えて戦いにならなかった。乙の戦闘能力はまだ未知数だ……。


 実験体 乙 破壊実験②


 アイテム: 極端な筋肉増加と興奮剤を薬物投与した、ごく普通の人間 以下甲2


 破壊試験の記録:

 甲2は乙に対して恐れる様子を見せず攻撃をする。乙は一撃で甲2の頭を叩き潰した。


 助手のメモ: うーん......。たぶんもう一度試せばいんじゃないかな。もっと薬物を投与すれば乙と互角に戦えるんじゃないかなあ。


 実験体 乙 破壊実験③


 アイテム: 助手


 破壊試験の結果:

 助手は恐怖のために絶叫し実験施設のドアを叩き、部屋から出すよう懇願した。乙はいたぶるようにゆっくり時間をかけて助手を潰した。


 メモ: 無能な人間はいらない。時間は無限ではない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 なんだ、これは。

 周りの景色がぐるぐると周りはじめた。


 数字が見えない。

 完全にだ。


 いきなりなにもない空間に放り出される。

 僕が求めるものは何だったのか。


 最高の数字。最悪の数字。美しい数字。醜い数字。

 違う数字ではない。

 それは......。



 目が覚めた。

 いつもの数字が見える世界。

 気絶していたのか。

 僕はベッドに寝かされている。

 起き上がり、辺りをみる。

 白い空間、素っ気ない医務室。


「まだ動かんほうがええ」


 ベッドの横にケンがいた。


「心臓が少しの間止まってたんや」


 盗賊(シーフ)に心臓を殴られ僕の心臓は止まっていたらしい。


「彼は?」


 ケンがもう一つのベッドを指差す。

 そこに盗賊が寝ていた。


「まあ、引き分けやな」


 しばらくどちらも話さない。

 沈黙が流れる。


「次は負けないよ」


 寝ている盗賊のほうから声がした。

 まだ寝ている。

 寝言なのか、寝たふりなのか。

 僕もケンも追求しない。


「怪物を倒すのはなかなか大変やな」


 ケンがぼそりと言う。


「だがいつか全部倒して魔王(サタン)も倒す」


 人の力で怪物を超える。

 果たしてそれは可能なのか。


「怪物と戦う者は、自分も怪物にならないよう注意せよ。深淵を覗き込むとき、深淵もまたお前を覗き込むのだから」


 ニーチェの言葉を父は好んでいる。


 すでに人の道を外れている父は、自分がもう怪物ということに気がついているのだろう。

 そして、その父に作られた僕も......。


「君はそのままで」


 僕の言葉の意味がわからずケンはきょとんとしている。

 少し笑って目を閉じた。


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