序章 イミテーション・ゲーム
ヒノメ視点
練剛さんが賞金首のチラシを撒いてから(実際、チラシを配ったのは僕だが)怪物製作所には様々な挑戦者が現れた。
街の腕自慢、熟練の空手家、筋肉自慢のボディビルダー。
全て練剛さんが瞬殺した。
最初に現れた戦士、ケンのような男はいなかった。
「ヒノメ、挑戦者振り分けろ」
練剛さんが飽きてきたのがわかる。
仕方なく挑戦者を振り分ける。
6段階、SクラスからEまで戦闘力で誰と挑戦出来るかを僕が決める。
最初に決めたクラスで勝てれば次のクラスに挑戦できるシステムにした。
戦闘力一桁はEクラス。
最弱 栗田 凛。
賞金は一円。
取り敢えず一般人はこのレベルだ。
栗田はたまに勝つこともあるが負けのほうが多くジムの小銭が少なくなる。
戦闘力10〜99はDクラス。
模写 阿波瀬 鏡。
賞金は五万円。
格闘経験者レベル。
コピー能力でどの相手とも互角に戦うが負けることはない。僅差で勝って試合を盛り上げる。
戦闘力100から299はCクラス。
岩人形 大山 岩男。
賞金は10万円。
格闘熟練者レベル。
挑戦出来るもの自体がここから激減する。
ケン以来挑戦できたのは二人だけだが、どちらも拳を壊して自滅した。
戦闘力300から499はBクラス。
不死 伏見 甲斐。
賞金は50万円。
格闘全国大会レベル。
あれからケンが一度リベンジにきたが決着はつかず、引き分けに終わる。というか、ケンは食事の時間に必ず現れ食べて帰る。
戦闘力500から999はAクラス。
吸血鬼 練剛 牙子。
賞金は100万円。
格闘全国大会優勝レベル。
未だ挑戦者なし。ケンとの戦いを希望したが、女とは戦わないというケンのポリシーにより実現不可能。
いじけている。
戦闘力1000以上はSクラス。
魔王 練剛 王。
賞金は二兆円。
人外レベル。
当然、振り分け以来挑戦者なし。強い奴がガンガン現れるという目論見が外れ完全に飽きてきている。
また何か企んでいそうで恐ろしい。
今日もジムの前でやってくる挑戦者を振り分ける。机と椅子を用意して横にクラス分けの看板を置く。
相変わらず雑魚ばかりだ。
「おいおい、俺たちがEクラスだとっ」
「ふざけるな、Sからヤラセろっ」
「お前からやってやるぞ、あぁあんっ」
3人組の不良が絡んでくる。
何処かで見た事のある面々。
あー。河原でカイくんを殴ってた不良達だ。
「俺たちが本気出せばあんなおっさんイチコロなんだよ」
戦闘力は2、2、3。
あの頃とまるで変わってない。
「ルール守らないと賞金でませんよ」
面倒臭い戦いはしない。
弱い相手に勝つことはわかっている。
強い相手に勝てないこともわかっている。
すべては数字にでている。
無駄なことは嫌いなんだ。
「なんだとコラっ 俺たちを誰だと思ってる」
まだ絡むのか、いい加減に......
「しらんわっ! ボケぇ!」
いきなり三人をどついてケンが現れた。
「ルール守れやっ! ワイもまだ挑戦できてないねんどっ」
回転しながらぶっ飛ぶ不良。三回目の登場がないことを祈る。
「今日はまたBクラスに挑戦するのかい?」
僕が座っている横で、練剛さんの差し入れ弁当を食べているケンに尋ねる。
「今日は見学や、まだ拳も調子悪いしな」
どうやら飯を食べにきただけのようだ。
「なあ、あんたは戦わんのか? どのクラスにも名前ないで」
飯つぶを飛ばしながらケンが言う。
「無駄なことは嫌いなんだ」
人と戦うことだけが強くなることではない。
全てが数字で分かる僕には僕のやり方がある。
最も身体能力が上がるトレーニングをして理想の肉体を最短で鍛え上げる。
「そおか、無駄か無駄やないか全部見えたらつまらん思うけどな」
弁当を完食してケンが立ち上がる。
「無駄やと思ってやってたことも無駄やなくなるときがあるんちゃうかな?」
そんな時間はないんだ。
声には出さない。
ケンもそれ以上はなにも言わず立ち去ろうとする。
その時、新たな挑戦者が現れる。
「ちょ、挑戦したいんですがいいですか?」
一瞬、女の子と見間違うような美少年が震えながら立っていた。
リスかなにかの小動物のようだ。
大きな二重の瞳が潤んでいる。
身長は165。体重は47キロ。か弱い。
戦闘力を見るまでもない。
一応みてみるがやはり1。
「ではEクラスで」
震えながらジムに入る美少年。
無駄なことをする。
「あいつ、ほんまにEでええんか?」
ジムに入っていった美少年を見てケンが呟く。
Eでもキツイという意味だろうか。
無駄な怪我をしないといい。
この時はそう思っていた。




