三話 グラディエーター
「はぁあああぁ」
呼吸とともに声が漏れる。
右拳は突き出したまま。
岩人形を吹っ飛ばしたままの姿勢で待ち構える。
吹っ飛んだ岩人形は、ダンベルなどの器具が置いてある棚に激突し、上から落ちてきた器具の中に埋もれている。
右拳がズキズキと痛む。
おそらく骨折している。
硬い、まさに岩のような怪物だった。
岩人形に不死が近づく。
覇気のない足取り、猫背の身体は痩せていて、顔は青白い。まるで死んでいるような男。
岩人形に被さるダンベルを除ける。
重たいのか、かなり時間をかけて器具の山から岩人形を救い出す。
マットに寝かそうとするが岩人形が重いので運べず、逆にマットを岩人形に被せる。
それでええのん?
ほんまにゾンビみたいやな。
格闘漫画は好きやが、ゾンビ漫画は苦手や。
ゆっくりとこっちに近づく。
ファイルの内容を思い出す。
モンスターファイル⑥
伏見 甲斐
モンスター名は、不死
戦闘力 測定不能 (死体や無機物と同じ0測定値)
一六歳
身長1メートル83㎝
体重 50キロ
得意技は超回復。
ダメージを受けても、スタミナが減ってもすぐに回復する。
攻撃手段はないが、倒されることもないので、無敵に近い。
賞金 50万円
超回復。そんなもん信じられへん。
近づいてきた不死の頭にいきなり右ハイキックを叩き込む。
さらに同時に左のハイキックも叩き込む。
「双龍斬」
しかし、不死は倒れない。
倒れずにワイの腹を叩く。
なんやこれ、パンチ?
基本がまるでなってない、ぺちんと情けない音がした。
こんなもの何千発喰らっても倒れへん。
無視して、連打を叩き込む。
「オラオラオラオラオラ」
連打の合間にも、不死はぺちんぺちんと腹を殴る。
避ける価値もない。
「煉歩一獄」
岩人形に喰らわせた乱舞系連打を叩き込む。
連打の合間にも腹にぺちぺちパンチを当ててくる。
なんやこれ?
こんな戦いは漫画にはない。
ぺちんと腹にパンチが当たる。
こんなもんきかへんっ。
不死のパンチを、払いのける。
少しずつ、ダメージは与えてるはずや。
こうなったらとことん付き合ったる。
毎日、甲羅を背負って走ってるワイの体力は無限大や。
気合いを入れ直す。
腹に力をためる。
その腹にまたぺちんとパンチが当たる。
「こんなもんっ......?」
違和感を感じた。
呼吸が少し苦しい。
馬鹿な、こんなに早くスタミナが切れたことなど一度もない。
ぺちん。
腹にパンチが当たる。
寸分違わず、同じ所に。
みぞおち。
不死はそこだけをずっと叩いている。
漫画で見たことがある。
内臓を叩かれ続けると、脳に酸素が行かずに酸欠になると。
腹を殺せば脳も死ぬ。
馬鹿な、こんな攻撃でワイがやられるかっ。
さらに腹にパンチが当たる。
内臓を直接つかまれたような錯覚。
不死には攻撃手段かないとファイルに書いてあった。
冗談じゃない、この攻撃はっ!
不死の顔を見る。
まるでこちらを見ていない。
ワイの打撃でできた傷がすぐにカサブタとなり、それがまたすぐに剥がれる。
人間が何日もかけて治す傷が一瞬で治る。
背筋に冷たいものが走る。
ボディ攻撃は人生に似ている。すぐに結果は出ないが諦めずに続けることで、一歩一歩着実に勝利へと近づいていくんだ。
漫画の名ゼリフが浮かぶ。
「うおおおおぉおおぉ」
叫んだ。
酸欠寸前の身体に酸素を送り込む。
負けたくない。
負けたくないんや。
全ての力をこの一撃にかける。
右腕の拳は壊れている。
だがかまわへん。
不死の攻撃にあわせて半歩前にでる。
向かってくる不死の心臓めがけて、右の掌を突き出す。
会心の崩拳が不死の身体を貫いた。




