二話 アドレナリン
不発に終わった必殺技。その打ち終わりに強烈な一撃をもらう。
意識が飛びそうになる。
だが、根性で踏ん張る。
そこに岩人形の拳がバックバンドで迫り来る。
バカにされたと思ったのか、表情が穏やかでない。
バックバンドを両手でブロックする。
重たい拳に腕が痺れる。
踏ん張るが、後方に流される。
岩人形との距離が開く。
鼻血が口に流れ、鉄の味が広がる。
「ええな、燃えてきたわ」
岩人形の懐に入り込み、右フックを左脇腹に叩き込む。
岩人形の表情は変わらない。
だが、おかまいなしに打撃を叩き込む。
肘打ち、ガゼルパンチ、裏拳、牙突、アッパー。
漫画で覚えた技を次々に叩き込む。
最近読んだ喧嘩漫画の連打と、ボクシング漫画のデンプシーロールをミックスした、オリジナル乱舞技。
「煉歩一獄」
技名を叫ぶのを忘れない。
必殺技は技を叫ばないといけない。
何十発もの連打をあびせ、最後に岩人形の顎を蹴り上げ、そのまま踵落としの要領で振り落とす。
どうだ!
岩人形の顔を見上げる。
まるで変わらない表情。
無言。
効いているかどうかまるでわからない。
むしろワイの拳がジンジンと痛む。
これほどまでかっ!?
再び打ち終わりに岩人形が前蹴りを放つ。
両手を交差してガードするが、ふわりと宙に浮き壁際まで飛ばされる。
ジムの壁にぶつかり、壁に貼ってあった木札が落ちてくる。
練剛 王 魔王。
倒すべきボスの名前を目にする。
中ボスに手こずっている場合ではない。
岩人形がゆっくりと近づく。
普通の攻撃ではダメージを与えられない。
もうあれしかない。
何度も読んできた漫画のシーンを思い出す。
拳の詩という漫画。
舞台は中国ぽいとこ。
一人の男が拳法を習おうと武術家の道場を尋ねるが断られる。
だが男は道場にあいた隙間の穴から一つの技を盗み見る。
技の名前は『崩拳』
動きとしては空手の中段逆突きに似ている。
半歩踏み出して前手の肘の上に後ろ手を載せ、中心線から縦拳で突きながら後ろ足を引き付ける。
男はその日からその技だけを毎日練習する。
一年、二年、五年、十年......。
一つの技だけをただひたすら鍛えあげ、やがて男はその技だけで、どんな敵をも一撃で倒すまでになる。
熱い漫画だった。
ワイも毎日鍛えあげた。
漫画の動作を完璧に再現した。
岩人形が右拳を振り上げる。
それに併せて半歩踏み込む。
槍をつく動作に似た動き。
どんっ!!
爆発音みたいな音がして、岩人形が吹っ飛んだ。




