序章 ファイトクラブ
序章と転章は視点がかわります
ゾンビ視点
朝、ゆっくりと目を覚ます。
ジムの二階の一部屋、ベッド以外にほとんど何もない。
目覚まし機能のない置き時計と、パイプ椅子。
あとは王が置いて行った携帯電話。
枕元に置いてあるジャージに着替えて一階に降りる。
岩のような巨大な大男が縄跳びをしていた。
大山 岩男。
寡黙な巨人。
自分はこの男が嫌いではない。
会話らしい会話はしたことがない。
と、いうか声を聞いたこともない。
だが、言葉はなくとも伝わるものはある。
いつも徹夜でトレーニングをしているキバコは、テストで赤点を取りまくりヒノメと勉強中。
凛と鏡はマラソンが始まる六時まで来ないので最近は二人が多い。
岩男は縄跳びをやめ、バックからスポーツドリンクを取り出す。
二本。一本をこっちに投げる。
無言で二人で飲む。
再び岩男は縄跳び、自分はサンドバッグを打ち出す。
いままで人を殴ったことはない。
サンドバッグの打ち方などわからない。
だが、殴られて一番嫌な場所はわかる。
回復するとはいえ、痛みを感じない訳ではない。
一番回復しにくい場所。
そこだけを狙ってただ叩き続ける。
朝、皆で走り始めるまで二人、無言のままトレーニングをする。
いつもの情景。
ほんの少し心が跳ねる。
男は突然、嵐のようにやって来た。
「戦いにきた」
濃い男だった。
スギちゃんみたいな肩のないジャンパーを着ている。
眉毛が太い。これで胸にキズがあれば世紀末覇者だ。
無視した。
岩男も無視している。
男は縄跳びをしている岩男に近づくと背負っているボロボロの鞄から一枚の紙を取り出した。
チラシかなにかだろうか。
こちらからは見えない。
岩男がそれを見て縄跳びをやめる。
縄跳びを丁寧に片付ける。
息を整える。
右手を大きく振りかぶり、男に殴りかかった。
ぶぉん
空気を切り裂くような右フックを男は素早くしゃがんでかわす。
同時に懐に飛び込んで岩男の腹に右の拳を叩きつける。
岩男が全身に力を込める。
筋肉の硬質化。
男の拳が跳ね返る。
「やるやないか」
大阪弁で男は言う。
笑っていた。
心底、闘うことが好きそうだ。
岩男は硬質化したまま無言で大阪男を見下ろす。
大阪男が岩男に見せたチラシが足元に飛んできた。
拾い上げる。
ジムのメンバーの顔写真とプロフィールが載っている。
モンスターファイル④
大山 岩男
モンスター名は、岩人形
戦闘力 250
十八歳
身長1メートル90㎝
体重102キロ
得意技は頑強。
全身に力を溜めると筋肉が鋼鉄化し攻撃を弾きかえす。
賞金 10万円。
そういえばヒノメがパソコンでメンバーのファイルを作っていた。
それに賞金が付け加えてある。
自分は賞金 50万円。
凛は1円だ。
ちなみに王は二兆円と書いてある。
誰がやったかすぐにわかる。
相変わらず子供のようなことをする。
「ほないくで」
大阪男が何処かで見たような構えをする。
両手を腰の位置にかまえ、気合いを込めている。
岩男が攻撃に備え、全身に力を入れる。
大阪男が構えたまま何かを叫んでいる
「ハーメーカーメー」
まさか、それはっ!?
「はぁーーー!!」
両手を思いっきり岩男に向けて突き出した。
腕から衝撃破が出てきて岩男が吹っ飛ぶ!
......なんてことには当然ならない。
虚しく両手を突き出す大阪男の顔面に巨大な拳が突き刺さった。




