三話 乾き
なにが起こったかはわからない。
記憶がないからだ。
血まみれで倒れてるエロオンナ。
身体中の骨がバキバキに折れてるうち。
口の中に広がる血の味。
顔面蒼白なドラキュラとサキュバスの男達。
想像はつく。
やったのだ。条件を満たして噛み付いたのだ。
アアァアアアアあああああああ
叫んだ。
ウリィイイイイいい、と叫ぼうと思ったが、文句が来そうでやめといた。
蜘蛛の子を散らすように一斉に回りの不良達が逃げ出した。
サキュバスとドラキュラは、この日、同時に消滅した。
「身体、柔らかくなってます」
「え? それだけ?」
思わず聞き返す。
「うん、それだけ」
いい笑顔で医師は言う。
あれだけ派手に叫んで、それだけ。
あかん、うち死にたい。
「まあまあまあまあ、身体柔らかくなるって、すごいアドバンテージですよ。攻撃とかにゅるにゅる曲げて避けれますから」
そんなもんだろうか。
なんかもっとこう加速的に強くならないと兄貴には一生勝てない。
どうすればいい。
血の乾きは止まらない。
中学三年の終わり。
血を吸って強くなることを兄貴に話した。
強い奴を連れて来てほしい。
倒す目標である兄貴に頼る。
屈辱だ。
だが、兄貴は格闘技の世界大会で優勝し、強者と呼ばれる者との繋がりをもっている。
屈辱にまみれても強くなりたい。
ブライドなどいらない。
ただ血を求める。
一年後。
兄貴は、ジムを作った。
サキュバスと争った轟山の山頂に。
怪物製作所。
ふざけた名前のジム。
ヒノメと名乗るガリ勉君みたいな奴を連れてきて言う。
「こいつと二人で怪物を探してここに連れて来る」
「後はお前の好きにしていい。ただし」
兄貴が笑う。兄貴が笑うときはロクなことを言わない。
「ただし、高校を卒業するまでの三年で俺を倒せ。でなければ、俺が決めた男と子供を作れ」
となりのヒノメがビックリ顔になる。
お前がびびんな。うちがアクション取りにくいだろ。
「いいよ、それでいこう」
即答した。
ヒノメの顔がビックリ顔のまま固まっている。
乾く。
怪物を早く連れてこい。
吸い尽くす。
たとえ、すべてを犠牲にしても。




