序章 インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア
序章と転章は視点がかわります
ヒノメ視点
ぱんぱんっ すぱぱんっ
ジムに着くとキバコさんがサンドバッグを叩いていた。
いつもの光景だ。
朝六時。
たぶんまた徹夜で叩いていたのだろう。
練剛さんの妹、だが練剛さんとは筋肉の質が逆。
スピードとパワー、柔と剛。
肌の色さえ違う、そして、流れる血も。
「おはよう、ヒノメ」
サンドバッグを叩きながらキバコさんが視線を移す。
「どうだ? スタミナは上がっているか?」
「ええ、昨日より0.2パーセント上がってますよ」
左目を抑えて答える。
「そうか」
少し嬉しそうにサンドバッグを叩く。
キバコさんの筋力はスプリンター向きの筋力だ。
長時間の動きには向いてない。
だが、それを無理矢理鍛えている。
「あいつを倒すため、永遠に打ち続ける」
そう言ってスタミナを鍛えて続けている。
一般の人間なら、もはやキバコさんのスタミナは無尽蔵と言っても良い程だ。
だが、倒そうとしている人間は、怪物だ。
しかも、怪物の中の怪物。
怪物の王だ。
練剛さんを除けば、ジムの中でキバコさんは最強だ。
カイくんの不死身も、チャラ男のコピーも、岩男さんの頑強も叶わないだろう。
もちろん、戦闘能力を見るだけの僕や最弱の栗田など問題外だ。
だが、それでも練剛さんとキバコさんの戦闘能力は大きくかけ離れている。
例え、キバコさんが一日中練剛さんを殴り続けても倒せないだろう。
「練剛さんは本気で実行する気なんだろうか」
「あいつが冗談を言ったことがあったか?」
知っている。あの人は本気だ。
目的のために手段を選ばない。
「あいつは、自分より強いものなどこの世にいないと思っている。だから、うちから作りだそうとしている」
高校を卒業するまでにキバコさんが練剛さんを倒せない時、キバコさんは練剛さんが選んだ男の子供を産む。
そして、その候補を探し、鍛える場所、それがこのジム、怪物製作所だ。
サンドバッグを叩く力が強くなる。
「ふざけるなよ! 絶対ぶっ飛ばしてやる!」
キバコさんが練剛さんの選んだ男と無理矢理子供を作らされる。
そんなのは、まっぴらごめんだ。
だが、僕は練剛さんとキバコさんの相手となる怪物を探している。
矛盾。
否。
もし、練剛さんの目に叶う怪物を探し出せない時、その時は......。
『俺がキバコとの子を創る』
これはキバコさんも知らないことだ。
練剛さんにタブーは存在しない。
邪魔する者は神でも倒すだろう。
それだけは阻止したい。
だから僕は怪物を探し出す。
できれば、その怪物とキバコさんが幸せになることを願いながら。




