転章 模倣犯
序章と転章は視点がかわります
ヒノメ視点
キバコさんとチャラ男のスパーリングが始まった。
僕はレフリーをかってでた。
キバコさんは、僕と同い年だが中身はずいぶん子供だ。
気をつけないと、ムキになって相手に大怪我をさせるかもしれない。
そう思って一緒にリングに上がった。
だが、予想に反して苦戦しているのはキバコさんのほうだった。
チャラ男の能力はもう明らかだった。
相手のコピー。
今はキバコさんの戦闘能力とまるで同じだ。
キバコさんの一番の武器はスピード。
兄の練剛さんと間逆のスタイルで恐ろしい連打で攻める。
だが、チャラ男はそれをすべてかわし、同じように連打を放つ。
すさまじいスピードの攻防だ。
ちっ!
キバコさんの舌打ちが聞こえた。
チャラ男の拳が頬を掠めた。
逆にチャラ男は無傷だ。
コピーしているほうが何故優勢になるのか。
簡単だ。
ベストの打撃とベストの避け方をコピーしている。
人間誰しも、改心の一撃というものがあり、その逆もある。
チャラ男の能力は、一番良いところをコピーしている。
背すじがゾクリとした。
キバコさんが負けると思ったからではない。
逆だ。
キバコさんは、上手くいかないで頭に血がのぼると噛み付く癖があると言っていた。
しかも、噛みちぎるくらいに強く噛むと。
キバコさんの戦闘能力がうなぎ上りに上がる。
般若のような顔をしていた。
チャラ男の攻撃をかいくぐり、チャラ男の首すじめがけてやってくる。
牙を剥いた、その口が。
これは、まずいっ!?
間に入ろうとするが、間に合わない!
キバコさんの口が勢いよく閉じられた。
しかし、そこにチャラ男の首はなかった。
キバコさんの足元に、いきなり糸の切れたあやつり人形のように崩れおちた。
体力が0になっている。
コピーの限界。
チャラ男は、満足げな表情で気絶していた。
キバコさんが、軽くチャラ男の頭を蹴っていたのは見なかったことにした。
怪物製作所。
練剛さんがつけたふざけた名前のジムに、また一人名札が増えた。
阿波瀬 鏡。
あだ名は『模写』。
大学生かと思っていたが、一つ上の高校二年。
全然高校生に見えない。どこのホストですか?
「クリりーん、スパーしよー、スパー」
わずか三日で馴染んでいる。
栗田 凛とは特に仲が良い。
チャラ男の能力、コピーの役にたつとは思えない栗田。
練剛さんが面白半分で連れてきた史上最弱の男。
あだ名は『スライム』。
誰よりも努力し、誰よりも最強を目指す彼は致命的に才能がない。
一般人が1日でマスターできることも彼は10日以上かかる。
だが、あきらめない。それなら10倍以上頑張っていくが栗田の口癖だ。
「スライムも頑張ったらいつかキングスライムになるかもな」
そう言って、弟子入りしてきた栗田を練剛さんは、ジムにいれた。
はっきり言う。 スライムベスくらいにしかならないと思う。
「へんな奴」
栗田と仲良くするチャラ男を見て、キバコさんはつぶやく。
前よりもサンドバッグを叩くリズムが良くなっている。
あいつの影響なんて思わないし、死んでも言わない。
カイ君と岩男さんが、トレーニングしながらチラチラとチャラ男を見ている。いまだに話しかけられないようだ。
思春期の中学生か、お前らは!
心の中で僕は叫んだ。
次回
第三部
吸血鬼




