四話 バイローケーション
限界だった。
体力の底上げをしたが、やはり彼女は異常だった。
引き離されそうになる。
嫌だ。
限界でも離れたくない。
視界に映る彼女を見逃すまいと力を振り絞る。
その視界の隅に青白い顔をした男が映る。
三人の男のうちの一人だ。
何故だ。
痩せていて筋肉があるように見えない。
フォームも無茶苦茶でボロ雑巾君とかわらない。
なのに何故、この男はついて来れる?
見た。観た。診た。視た。
体力のすべてが回復した。
怪物製作所と書かれたジムに着く。
彼女に引き離されずにゴールした。
なにが起こったのか理解はできない。
死人みたいな男をコピーしたら体力が回復した。
なにこれ、怖い。
後で死んだりしないよね?
あ、なんか彼女、ムスッとしてる。
負けたと思っているのか、単に俺とお茶するのが嫌なのか。
「えっと......」
無理にお茶とかはいい、そう言おうとした。
俺は満足していたんだ。
初めて本気でなにかに取り組んだことに。
だが。
「第二試練! スパーリングでうちに勝てたらお茶してやる!」
彼女は汚かった。
なんだろう。
もうお茶とかどうでもいい。
彼女の悔しがる顔が見たい。
「いいよ、やろう」
第三バトルだ。
ジムの中央のリングにあがる。
彼女と同様にグローブをはめる。
ヘッドギアとかはないらしい。
というか、ルールやゴングもないようだ。
レフリーぽく委員長風のメガネ男がリングの中にいるが、飾りだろう。
早くボコボコになれば良いという視線を感じる。
青白い男と巨漢の男は、トレーニングをしてるようだが、チラチラとこちらを見ている。
なんなの、思春期の中学生かお前らは!
ボロ雑巾君は、またフラフラで帰ってきたが、なんとか動けてるようだ。
リングから離れた入口付近でじっとこちらを見ている。
「じゃ、やろうか」
彼女が笑って言う。
ていうか、八重歯が見えた。
キバみたいに鋭い八重歯だ。
ちくしょう。なんか似合ってて超可愛い。
お茶なんてどうでもいいとか言ったが、やはり嘘だ。お茶したいし、さらに色々してみたい。
見た。観た。視た。診た。
試合が始まった。
早い。
鬼のようなスピードで迫る。
だが、こちらも同じスピードを出せる。
ギリギリで右ストレートを交わし、同じ右ストレートを放つ。
相手も同じくギリギリでかわす。
打ち合い。
どちらも当たらない。
何十発というパンチが飛び交う。
彼女の動きは凄まじく早い、コピーの限界も早いだろう。
更に彼女を見る。観る。視る。診る。
彼女の最速をコピーする。
さらに限界が早まるがかまわない。
退屈な日常は終わりを告げ、怪物と闘う日常が始まった。




