三話 トスカーナの贋作
「で、結局、駄目だったんだろ?」
先輩が笑う。
そう、駄目だった。
あのまま彼女は消えていき、三人の男達にも抜き去られた。
だけどね。いたんだ。もう一人。
「先輩、いままでありがとう。俺、ここ出るよ」
先輩がぽかんと口を開ける。
「やっと、見つけたかもしれない。本気になれるもの」
部屋を出る。
やる気を無くした若者たちが、ただただ堕落の日々を過ごす部屋。
そこから、俺は抜け出す。
もう一度走る。
窓から見ることはもうできないのだから。
コピーの限界を超える人間に初めてあった。
それが女だとは思いもよらなかった。
もうまともに走れない。
すでに彼女も、いつもの男三人もみえない。
あきらめて立ち止まろう。
そう思ったときに足音が聞こえてきた。
ぼろぼろの男がいた。
顔面は真っ青で呼吸音もヤバイ。
汗も尋常でないくらいにでているし、着ている服は半分脱げ、ボロ雑巾のようだ。
「お、おい」
声をかけても男は気がつかない。
まっすぐ前だけを見ている。
「追いつく、追いつくんだ」
ボロ雑巾の男は、一人呟きながら走る。
俺は、その男と共に走り出した。
ボロ雑巾の男と辿り着いたのは、山の上に立つジムだった。
看板に「怪物製作所」と書いてある。
なんの冗談かと思った。
男はジムに着くなり、動かなくなった。
俺はこっそりとジムの扉を開ける。
ぱんぱん、すぱぱん、ぱんっ、すぱんっ
サンドバッグを叩く彼女がいた。
ほかの三人の男もいる。
それぞれが器具を使いトレーニングをしている。
扉を閉める。
ここは、俺のいる場所じゃない。
俺はいままで努力もせず、能力だけにあぐらをかいていた偽物だからだ。
一カ月、がむしゃらに走った。
生まれて初めてコピーをせずに努力した。
まだ無理かもしれない。
しかし、俺はまたここにきた。
踏み切りで待っている彼女の横に並ぶ。
三人の男が、呆れた顔でみている。
四人目のボロ雑巾男が遥か後方に見える。
前は姿すら見えなかった。
頑張っているんだな。
何故か自分のことのように嬉しい。
息を吸い込み、彼女を見る。観る。診る。視る。
そして、話しかける。
「へい! 彼女、お茶しない?」
二度目のバトルが始まった。