二話 コピーキャット
走っている。
ただひたすらに走る。
マラソンのペースではない。
ペース配分を考えず、ただひたすら走る。
こんなに、走ったのは何年ぶりだろうか。
彼女をコピーしなければとっくに走るのをやめている。
身体が軽い。まるで羽がはえているようだ。
これが彼女の世界なのか。
彼女の背中を捉えた。
気配を感じたのか、彼女はこちらを振り向く。
心底嫌そうな顔をした。
傷つくなあ。
だけど、最初は嫌いから好きになるなんて、恋愛ドラマの鉄板だ。
俺は飛びっきりの笑顔で笑いかけた。
彼女の顔がさらに歪み、走る速度が加速した。
幼い頃からすぐになんでも真似出来た。
周りの人達が、どうして簡単なことを真似出来ないか疑問だった。
小学生の時、けん玉の世界チャンピオンが学校に来たときに、チャンピオンがしたことを寸分たがわず真似て見せた。
周囲の見る目が変わり、チャンピオンは自信をなくして引退した。
なんでも出来る。
だからこそ燃えることはない。
彼女の後ろにぴったりと着く。
もう離されることはない。
何処がゴールかわからないがまったく同じスピードでついていく。
いつのまにか彼女は振り向かない。
必死になっているのか、嫌な顔をしてるのか。
後ろでくくったポニーテールが揺れるだけで表情はわからない。
どれだけ走っただろうか。
彼女のペースは落ちない。
もちろん自分のペースも同じだ。
コピーすることにより、相手の体力とも同じになれる。
人間は普段、能力の数パーセントしか使っていない。コピーによって身体能力を高めると、使ってない能力を使うことになる。
だが、コピーが終わると元の体力にもどる。
無茶なコピーをすると後で筋肉痛になったりする。
これはあとでひどいことになるな。
だが、走るのはやめたくない。
俺は何故、こんなにムキになっているんだろう。
さらに走る。
全身が痛い。
呼吸するのも辛い。
コピーは解けてない。
普段使ってない身体能力を全部使いきったのか。
それでも彼女は平然と走る。
怪物なのか。
身体が悲鳴を上げ始めた。
「もう無理なのか?」
彼女が苦しそうな俺を見て初めて振り向いた。
笑っていた。
いつから笑っていたのだろう。
彼女はこの勝負を楽しんでいたんだ。
「これからだ」
コピーをとく。
全身にひどい痛みが襲う。
ここからは、ただの意地。
自分の力だけで最後までいく。
「絶対あきらめない」
彼女は笑って加速する。
あっという間に見えなくなる。
それでも俺は走るのをやめなかった。




