ロボットたちの夏の事情。
夏の陽は高いところから照らし、みじかい陰を作った。海と空は遥か向こうで交わり、その境から白い雲が山を作るようにでている。その入道雲の下では、日を反射した海面が眩しい。
倉庫のドアを開けると、そんな夏の暑さを背景に、S-77が土をいじっていた。
「こんなクソ暑いのによくやるね。」
カトーは、夏の暑さにうんざりという表情で倉庫から出てきた。
「暑かろうが、寒かろうが、植物を育てるためには日々のケアを怠るわけにはいかないんだよ」
満足げな顔でS-77が答えた。
「そうかい。さすがプロだねー。」
そういって関心しながらカトーはS-77の様子をしばらく見ていた。そして、
「まぁせいぜい頑張ってくれ。お前さんの野菜はみんなに評判だしな。」
そういってポケットから缶のジュースを取り出し、
「ほれ、水分補給を忘れるなよ。」
といって、下手でS-77に缶ジュースを投げた。
それを、難なく受け取ったS-77は
「サンキュー。」
といって、さっそくグビグビと飲み始めた。
それを見てカトーは陽射しから逃げるように倉庫のなかへ入っていった。
倉庫に入ると、堕落しきった住人たちの様子がカトーの目に飛び込んできた。皆、扇風機の前に集まり、扇風機の首振りに合わせて、体を左右に揺らしている。
「おいおい。いくらなんでもダラダラとしすぎじゃないか。」
カトーは苦笑いをしながら指摘した。
すると背後から
「しかたねーよこんなに暑いんだ。冷蔵庫だって一人しか入れねえ。」
といって、体を冷やし切ったG-24がやってきた。
「そうですね。冷房とかあれば良いんですが。毎年取り付けせずに終わってますね。」
扇風機の前でへたれているT-6がそれに続く。そばにいたM-83とBF-78が「その通りだ。」と言うように頷いた。
倉庫の中は扇風機があるのみで、外とはほとんど変わらぬ暑さである。一部外に出かけている者以外は皆、扇風機の前に座り込んでいる。カトーもティシャツに染み込んだ汗を肌で感じているため、彼らの気持ちは十分に分かっている。
「外から帰ってきた人モ、せっかく帰ってきたのニ、これでハ可哀想です。」
M-83は汗ひとつかかぬが、暑さに耐えきれなくなっていることがわかるような、片言の言葉でいった。
「ただいま帰りました。」
扉の開く音とともに疲れきった女性の声が聞こえた。E-99は長い髪を鬱陶しそうに、手で払った。
「おかえり。今日もお仕事お疲れさん。」
カトーが出迎える。その後ろから、
「どうぞ。冷たいお水でも。」
と言ってコップを差し出す男性がいる。
彼は、飲み干されたコップを受け取るとキッチンへ持って行った。
「おい。みなH-81を見習えよ。ったくここの男たちは、ほとんどいつも家の中でゴロゴロしているくせに、仕事帰りの人への労いもできないかね。」
カトーがやれやれといったゼスチャーとともに、後ろで扇風機を前に寝転がっているみなに言った。
「金を稼いできてくれるのはみな女性陣じゃないか。」
カトーが言うと、
「私は、どうも古い型なので、どこモ、雇ってくれまセン。」
暑さに耐えかねた片言の言葉でM-83が言い訳する。
「はいはい。お前さんはとりあえず冷蔵庫で体を冷やしてこい。動かなくなっちまうぞ。」
メンバーの中で最も型の古いM-83にとって、温度調節はかなり重大な問題である。一定の温度を越すと体の動きが悪くなり、やがて節々から黒い煙がでてくる。そうなる前に体を冷やさねばならぬのだ。
最新型の面々は、体内で冷気を出して温度を調節できるが、その際、排水が汗のように流れてくる。G-24に至っては、最新の型でありながら、その機能が停止してしまっているようで、頻繁に冷蔵庫へ逃げ込んでいる。
「おい。働かぬ男共。今日の晩飯の買い出しに行ってこい。」
カトーは買い物かごを、くつろいでいる男たちの方へ突き出して、強い口調で言った。
みんなはお互いを見合うだけで、沈黙が流れる。
「あのー。私がいきましょうか。」
しばらくの沈黙のあとH-81が名乗り出た。
「いや。でも、お前には何かと働いてもらっているし。」
カトーがためらっていると、
「なら、先ほどのお水のお礼に私がお供します。」
E-99が手伝うと言い出した。
よし決まりだと、言わんばかりに他のみんなは笑顔になる。みな暑い中買い物に行くという役割を逃れて嬉しいのだ。冷房はないが、陽が直接当たらぬぶん倉庫内の方がマシなのである。
「なら、二人頼むよ。」
カトーは少し不満が残っているのをみなが気付くように、わざとらしい口調で言った。
二人は買い物かごをもって倉庫を出た。
太陽は倉庫の入り口の裏の方へと進んだらしく、入り口付近は陰になっていた。
その陰では、先ほどまで作業をしていたS-77が壁にもたれて眠っている。
起こすと悪いと思い、二人は静かに買い物へ出かけた。