新たな住人
「人間です。」
朝日を背に受け、影となったその口からは、力強く小さな声が発せられた。カトーはそれをしっかりと受け止めて
「ここにはいろんな奴がいるからな、みんなとなかよくしてあげてくれ」
と、笑顔で答えた。
そのあと、その笑顔をすぐに崩して真剣な声で
「みんなそれぞれいろんな事情がある。だけど詮索はしないように頼むよ」
と、付け足した。
そして、ドアを閉めた。
部屋の弱い光のおかげで、H-81の顔をカトーはようやく見ることができた。
分厚くて丸い眼鏡をかけており、それは小さめの鼻、に乗っかっている。
カトーは彼をみんなの前まで連れていった。
「みんな、今日から彼もここに住むことになった。仲良くしてやってくれ。」
と言ったあと、カトーはH-81の背中を押して
自己紹介するように促した。
H-81が一歩前に出ると、食卓を囲む皆が彼を見る。
皆の視線を集めた男性は、下を向いて強く閉じられた口を少し開いて、その僅かな隙間から声を押し出すように喋りだした。
「H-81と申します。その。」
「これからよろしくお願いします。」
やや高めの小さな声を皆は一生懸命に聞いた。
「おしまいかい。なんかほら特技とか趣味とかない。」
カトーが聞くと
「特技ですか。そのものを数えるのが少し速いですかね。」
「そういう仕事をしておりまして。」
「ただ、特技と言えるものかどうか。趣味は読書です。」
H-81は自信なさげにゆっくりと自己紹介を終えた。
「よろしくな。」
カトーはそういうと彼の前に椅子を置いた。
H-81が椅子に腰掛けるのを待たずして、G-24が話しかける。
「俺はS-77。園芸のプロさ。よろしくな。」
椅子に座ってH-81はこくりと頷いた。
「こいつは園芸のプロとか言っているが、本当は数学のプロさ。以前は家庭教師をさせられていて、他に様々会計の処理などもさせられていた。でもこいつはそんなプログラムされた自分よりも、自分で見つけた自分を好んで園芸のプロなんていっているのさ。」
カトーが優しい笑顔でH-81にS-77を紹介した。
続いて各々が自己紹介を始めた。
皆の話を聞いているうちにH-81は緊張がほぐれたようで、その表情にも余裕が見られるようになった。一通りの自己紹介を終えて、一同は食事を再開した。