カラフルな倉庫の住人たち。
港にあるカラフルな目立つ倉庫。なぜこのような配色になっているかは不明だが、この倉庫群の中で、一つ目立っていることには変わりない。港といっても大きなものではなく、すぐ近くには、古いビルやマンションがあり、人々が生活している。この港を照らす朝日は、長方形のカラフルな倉庫の側面のうち、緑と黄色で塗装された、短い側面を照らす。中央にある鉄の扉が開かれると、朝日は倉庫の中に入り込み、その奥まで続く一筋の光を作り出す。
倉庫は入ってすぐの場所にキッチンのような場所があり、カトーと呼ばれる長髪を後ろで結んだ男が、朝食の準備をしていた。
縦長の倉庫を奥にすすんでいくと、一番奥の壁の前には、寝室のような場所が作られている。簀の子の上に絨毯がしかれて、幾つかのベットがそのスペースを取り囲んでいる。
ベットで寝ているものがいれば、絨毯の上に布団を敷いて寝ているものもいる。そんな彼らを、T-6、BF-78、S-77が起こして回る。
「みなさん。起きてください。」
ひときわ大きな声で起こしているのがT-6である。彼は足のそこについたローラーで寝室のまわりを回りながら起こして回った。
「おーい、起きろー。朝飯だぜー」
T-6とは違って、フランクな言葉で皆を起こしているのはS-77だ。彼は寝室の手前で靴を脱ぎ、スリッパに履き替え絨毯に上がった。一人一人に声をかけている。
「起きてください。」
と、最初に一言だけ声を出した後、BF-78は倉庫の中央の机に早々と向かっていた。
T-6とS-77の働きを見て自分は不要だと判断したようだ。彼女は椅子に腰掛け朝食が運ばれてくるのを待っている。
「おーい。BF-78。運ぶのを手伝ってくれ。」
カトーに呼ばれてBF-78はキッチンへ向かった。
BF-78とカトーが
おぼんに朝食を乗せて中央の机に戻ってくると、皆が朝食を待っていた。
「おはよう。カトー。BF-78。今日の朝ごはんはなんだい?」
起きてからの僅かな時間で髪型をしっかりと整えたG-24が尋ねた。彼はひと昔前に人気があったとある俳優とそっくりな顔をしている。
「おはよう。G-24。今日は焼き鮭と、ご飯と、納豆と味噌汁だ。梅干しと沢庵もあるぞ。」
カトーはそう答えると、机の上に一旦おぼんを置き、BF-78とともに皆の前に食事を並べ始めた。
四人掛けの机を二つ並べてある食卓には、カトーと、朝、皆を起こした三人の他の5名が少し窮屈そうに並んだ。
先ほど登場した、ひと昔前の俳優とそっくりなG-24の他、四角い輪郭と丸い目を持つM-83、彼の向かいに座り腰あたりまで伸びた長い髪を持つE-99、彼女の横に笑顔で座るF-80、カトーの横で眠そうに目をこすっているD-27が、後から起きてきた面々だ。
E-99とF-80は仲がよく、いつも食事のときは二人並んで座っている。今は、彼女らはみんなの茶碗にご飯を盛っている最中だ。
D-27はまだ幼く、いつもカトーに甘えている。今日も食事の後、いつものようにキャッチボールをするのであろう。
各自に食事が行き渡った。
今にも食事を始めようとした時、
ドアをたたく音がした。
「はーい。どなたさん。」
カトーがその音に答えても、返事はない。
しばらくしてまた、ドアたたく音がする。
「朝早くから、来客かよ。」
カトーが席を立ち、重い鉄のドアを開ける。すると、
そこには男性が一人立っていた。
薄い汚れた布で体を覆った男性はカトーを見てこう言った。
「ここはどんな人でも受け入れてくれる場所だと聞いてやってきたんですが。」
「あぁそうだよ。ここではなんの差別もなく、みんな仲良く暮らしている。」
「私、行くところがどこもなくて。」
朝日の影になった男性の顔から弱々しい言葉が発せられる。
「ここに住まわせてもらえませんか」
「全然いいんだが、幾つか聞いておきたいことがある」
カトーは男性の足先を見ながら答えた。
左の足の先の塗装は剥がれ、中の金属のようなものが見えている。右の足は脛のあたりからコードが飛び出している。
ここに来る前に一体何があったのだろうかと気にせずにはいられない状態だ。
「まずは一つ目。名前は?」
カトーは、視線を男性の足先から顔へと上げて尋ねた。
「H-81と皆に呼ばれていました。」
「ほう。H-81ね。」
ややしばらく間をおいて、他のみんなに聞こえないように小さな声で次の質問をした。
「君はー、その、ロボットかな?人間かな?」
H-81は力強く、けれどもカトーに合わせて小さな声でこう答えた。
「人間です。」