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ナガタはバカで、私もバカだった

作者: あおば

高速バスに乗っている四時間で書きました。

推敲してないのでクオリティはお察しを。

初投稿です。

空の色は真っ白だった。


曇った空を眺めていると普段は嫌だなって思うけど、こんな気分の時にはちょうど良い。


むしろ、こういう天気こそふさわしいと思った。


モヤモヤした天気とモヤモヤした私の心は不思議な繋がりで結ばれているようだった。


暖かい太陽は遮られて、雲の上の方に光の楽園を作っているだろう。


私は過去に一度だけ香港に行ったことがある。


その時の飛行機から、私は初めて雲海というものを見た。


それは、不思議でどこか神秘的な景色だった。


雲ってずっと下から眺めるものだと思っていたからね。


見上げていたはずの雲が窓の下でふわふわと浮かんでいるのは奇妙な体験だった。


モコモコした雲はなだらかな起伏を持ちつつ、ずっと遠いところまであって、果てしない感じだった。


どこまでも遠いものを見ていると、ちょっぴり切なくて、憧れているような気持ちになる。


深い雲の層は、光をいっぱいに浴びている。その光の眩しさに目を細めた。


そして、今、私ははるか下の大地でどんよりとした雲の姿を見上げていた。


「……バカ」


「お母さんなんて大嫌い。何もわかってないんだから…」


「大人ってなんでバカなんだろう…」


私は正しい。


お母さんが間違ってる。


なんで分かってくれないかな?どうして、そうガンコなのかな?


面倒くさいなぁ…


テストの点数なんてどうでも良いじゃん…


「学校ってつまんないトコだな」


私の人生を私がどう送ろうと私の自由じゃん。


私の世界に干渉してこないでよ。


考えを押し付けないでよ。分かったように話さないでよ。


私のことなんて、なんにも知らないくせに…




私はこの前のテストで国語が40点で、数学が5点だった。他の教科もあまり芳しくなかった。


学校の先生から冷たい目でテストを渡されたときにちょっと悲しかったけど、なんとでもなれ!という気もした。


答えの解説の時も適当に聞いてた。先生が指さないから、私は気楽だった。


ダメな人間の烙印を押された気がした。


私にはそれを押し返す気力は無さそうだった。


先生は勉強好きだから、勉強できない子の気持ちなんて分からないと思った。


他の人が喜んだり、ガッカリする声が上がる中で、私は答案の点数を他の紙で見えないようにした。


努力が足りない。


そう。


やる気がない。


その通り。


あきらめてる。


そうだね。


学校から帰ると、そそくさと二階に上がって、答案を丸めてゴミ箱にポイした。


気持ちよかった。


そして、後味が悪かった。逃げているようで。


いつか向き合わないといけない現実から目を背けているようで。


どっか遠くに現実が行ってしまわないかなぁと思った。


お母さんがテストの点数を聞いてきたけど、適当にごまかした。


チクリと心が痛んだけど、何回もやっていると心が麻痺してきた。


とろりとろりと毒が忍び寄るように、何も感じなくなった。


お母さんは気づいたのか気づかなかったか分からないけれども、それ以上は聞いてこなかった。


私は聞いてほしかったのか、聞いてほしくなかったのか、よくわからなかった。


学校の三者面談があった。


先生は私の成績が悪いことを、それとなく、しかし確かに伝えた。


私の母は「すいません」と何回も言っていた。


私は特に、謝る必要もないと思ったけどね。


気味の悪い時間はゆっくりと過ぎていった。


ずっと早く終わってほしいなと思っていた。


面倒だった。


前に進むのが面倒だった。


家に帰ったら怒られた。


「テストの点数悪かったみたいね」


「…うん」


「なんで勉強しないの?」


「……」


答えにくい質問だった。


自分の心の中にある回答は、とても抽象的なものだったから答えられなかった。


「勉強嫌い?」


「嫌い。つまらないもん」


「勉強しないと将来大変なのよ。今のうちにやっておかないと…」


「そんなの分かってる!」


語気を荒げた。


「じゃあ、何でやらないのよ!」


「学校なんて嫌!。押し付けられて、従順にしているのが正しいことなの?良い子になって、えらいねえらいねって言われるのが良いことなの?バカみたい。そんなの違うもん」


「わがまま言わないの!みんなそうやってきたんだから。そんなこと考えていてもしょうがないでしょ」


「分かってない、お母さんは。お母さんはなんにも分かってない!」


「分かってないのはあなたよ。あなたのために言ってるんだから。あなたはまだ分からないの」


「分かったように言わないで!私のことなんて放っておいてよ」


「じゃあ、私が先生に恥ずかしくないくらいの成績をとりなさいよ」


「バカ!」


私は家を飛び出した。


そして、公園でどんよりと曇った空を眺めていた。


生あたたかい液体がほほをつたっていった。


「……バカ」


「お母さんなんて大嫌い。何もわかってないんだから…」


「大人ってなんでバカなんだろう…」


切なかった。冷えているようで、熱いようなよく分からない感情が私の中で居座っていた。


勉強かぁ。


なんでしなくちゃいけないのかな?


もう、どうしようもないくらいこねくりました粘土のような質問。


答えのない、のっぺらぼうな質問。


無駄だと分かってるけど、いつも考えてしまう質問。


この前のテレビでやってた、アフリカのどこかの特集を思い出す。


そこには、お金がなくて勉強できない子供たちの姿があった。みんなが羨ましそうに「学校に行きたい」と言う。


境遇がぜんぜん違った。私が恵まれた人間だと言うことを明確に示していた。


学校に行くのが夢の子供たち。


学校に行きたくない私。


学校に行くのが当たり前だと思っていたけど、当たり前じゃなかった。


優越感はない。


ただ、不思議だった。


どうして学校に行きたいのかな?……と。


はるか彼方のよく分からないトコ。そこで、勉強できない子たち。


…やっぱりよくわからなかった。


「……オイ」


「え…?」


後ろから声がした。振り返ると同級生のナガタがいた。


「お前、なんで泣いてンの?」


ナガタはぶっきら棒にそう聞いた。


「悲しいから…」


「なんで?」


「別に…」


「お前、三者面談のことで怒られたンだろ」


図星だった。


「……なんで分かったの?」


「だって、俺もメッチャ怒られたもん。ちゃんと反省しろって言われてさぁ、大変だったんだぜ。本当に」


ナガタはうちのクラスの中でも指折りのバカだった。しかも、大声で点数をわめくので、いつも点数がバレる。私はなんとなく、彼に親近感を持っていた。


私はナガタに聞いてみることにした。


「ナガタは勉強嫌いなの?」


「嫌いだよ。当たり前じゃん」


「なんで勉強しないの?」


「……さぁ、知らネ」


「一緒だね。私も勉強する理由がぜんぜん分からないよ」


「…勉強する理由なんて無いンじゃねーの?」


「そうかもね。でも、無いとさ、困らない?私たちずっと学校にいて、何のために勉強してるか分からないんだよ?」


「あぁ、確かに…。うーん…、でも、理由なんているのか?もっと適当でいいンじゃね?」


「…分かんない。私が考えすぎなのかも」


「さぁ?分かんねーな」


「ねぇ、将来がどうとか言われた?あと、お前のためとか…」


「言われた。言われた。親父がさ真っ赤な顔で言うんだよ。お前はバカだなぁ、お前のために言ってんのになんでわかんねぇかなぁ~、って」


「分かる気がする…フフッ。お父さんの気持ちが分かる気がする。だって、ナガタ君の将来が不安だもん」


「なんだよ、お前もかよ。お前に心配されることじゃねーって。そういうのいいから」


「もしかして、怒った?」


「怒ってねーよ。ただ、そういうのって面倒じゃん」


ナガタのことを見ていたら、ナガタのことがちょっと心配になってきた。無計画だし、考えてないし、もっとしっかりとしなきゃだよって思った。


でも、よくよく考えてみると私も一緒なのかも。


お母さんが言ってることの意味も、分からなくもないかな。


心配してくれてるから言ってくれるんだよね。


こいつ心配だなぁ、大丈夫かなぁと思って、注意してくれるって親くらいだもんね。


私はちょっと恥ずかしい気持ちになった。


「ありがとね。ナガタ」


「あぁ」


分かったような分からないような声をナガタは出した。


「じゃあね」


「あぁ、じゃーな」


私は公園を後にした。


お母さんに謝ろうと思った。


勉強はキライだけど、ナガタの言う通り考えてもしょうがないのかな?


私は考えすぎてたと思う。


自分の中でがんじがらめになって、身動きがとれなくなってた。


上を見ると、雲のすき間に微かに光が指したような気がした。


私の心もちょっとだけ明るくなった。


「はぁ、しょうがないなぁ」


私は笑いながら言った。


「べんきょーするかー」


まったくしょうがないなぁ…と少し笑った。






















読んでくださってありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 雲、雪、氷、水蒸気…… そういうものの総称をアルベドと呼ぶそうです。 地球温暖化が叫ばれ、スーパーコンピュータでシミュレートして、報道が大騒ぎしています。 しかし、地球の気温をコントロール…
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