出会いの始まり
少し短めです。
翌日、まずジン達は朝から分かれて各々の用事を済ませる事にした。エルザは友人のシーリン宅へ、レイチェルは両親のいる神殿へ、そしてアリアは孤児院へと向かう予定だ。
ただ、今回の王都行きが急だったこともあり、事前に手紙等で連絡をしていたわけではない。当然王都にいる彼らはジン達が王都に来たことも知らないので、孤児院に行くアリアはともかく、貴族であるシーリンや神殿で仕事中のレイチェルの両親と直ぐに会う事は難しいだろう。その為、エルザとレイチェルはあくまで次回正式に会うための繋ぎとして訪問するつもりだ。
また、アリアも孤児院には預かり物を届けに行くだけなので、エルザ達と同様に然程時間が掛かるわけではない。午前中には彼女達の用事も終わると思われるので、午後からは一旦集まって皆で観光がてら王都を散策をするつもりだ。
それでは、特に用事がないジンはそれまでどうするかと言うと……。
「んじゃ、また後で。もしシーリンさんやご両親に会えたら、その時は無理に帰って来なくて大丈夫だから」
別行動をとるエルザとレイチェルに、ジンがそう声をかける。神殿やシーリン宅は『MAP』でチェック済みなので、仮に彼女達が集合時間に遅れた場合でも、おおよその状況は把握可能だ。
「ああ。ジンの方こそ子供と遊ぶのに熱中し過ぎて遅れるなよ?」
「ふふっ、そっちの方がありそうです。アリアさん、しっかり見張っててくださいね」
「ええ、まかせて」
からかうエルザにレイチェルも乗っかる。受けたアリアも微笑んで返した。今回ジンはアリアに同行し、孤児院に行く予定だ。一人で行動してもよかったのだが、王都の孤児院に興味があったので同行する事にしたのだ。
それにエルザとレイチェルは言ってみればアポイントを取りに行くだけなので、同行するなら実質アリア一択だった。
「はいはい、気を付けますよっと」
「「「ふふふっ」」」
おどけて返すジンに、アリア達も笑顔で答えた。
そうしてエルザ達と別れたジンは、アリアと共にヒルダからの預かり物を届けに孤児院に向かった。ただ歩いているだけだが、いつもと違う風景はそれだけでも楽しい気分にさせるものだ。もっとも、それは横にアリアという魅力的な女性がいたのも影響しているのかもしれない。
寄り道したい気持ちを抑えつつ歩き、何事もなくジン達は目的地である孤児院に到着した。規模としてはリエンツより少し大きく、造りは少し古かったが趣のある立派な建物だ。その敷地内にある庭では、リエンツと同じく元気に遊ぶ子供達の笑い声が響いていた。
「それじゃあ私は行ってきますね」
そう言うとアリアは預かり物を渡すために建物の中に入っていったが、流石に直接の関係者ではないジンが付いていくわけにもいかない。ジンは子供達を監督する職員に一声かけると、そのまま残って楽しそうに遊ぶ子供達を眺める事にした。
この世界の孤児院に居るのは、親を亡くした子供達ばかりではない。冒険者の両親が出かけている間子供を預かる、言わば宿泊可能な託児所としての側面も持っているのだ。
だからこの場には親がいる子といない子が一緒になって遊んでいる事になるが、元よりそんな区分は子供達には関係ないようだ。活発に動き回る子もいればおとなしく砂遊びをしている子もいるが、それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。
また、どうやら時間帯によって外で遊ぶ子供達の年齢層が分けられているらしく、今の時間帯は元の世界で言う小学校低学年くらいの年齢の子ばかりだ。孤児院では簡単な読み書きや算数などの勉強も教えているので、他の子達は学習中か室内で出来る遊びをしているのだろう。
子供は基本元気なものだが、特にこの年代の子供が一番やんちゃなようにジンには思えた。
「兄ちゃん、遊ぼうぜ!」「遊ぼ~」
ジンが子供達を眺め始めて然程時間が経たないうちに、早速庭を駆けまわっていた元気な男の子達が遊びに誘いに来た。初対面の相手には若干の警戒があって然るべきだが、物怖じしない子供達自身の性質に加え、子供達を見つめるジンの優しい笑顔がそんな警戒心を薄れさせたようだ。
「ああ、いいよ。何して遊ぼうか?」
勿論ジンに否があろうはずもなく、職員にアイコンタクトで確認をとると、子供達に手を引かれるままその輪の中に入っていった。
そうして子供達にせがまれるまま遊ぶジンだったが、リエンツと同様に王都でも屈託なく笑う子供達の姿に心が癒されるのを感じていた。それはやはり元老人だったせいもあるのだろう。子供嫌いな老人もいないではないが、元々ジンは幼い子供に対して格別の親愛の情がある方なのだ。
「(うんうん、皆いい笑顔だ)」
子供に甘いところのあるジンとて、いくら笑顔でも所構わず傍若無人に振る舞う子供には眉をひそめる。しかし、こうしてしかるべき場所で誰にも迷惑をかけているわけでもないのだから、とても気分が良かった。
「(おや?)」
そうして子供達の相手をしつつその笑顔に目を細めていたジンだったが、ふと一人ぼっちでこちらを見つめている女の子の存在に気付いた。他にもジンとの遊びに参加しない子はいたが、その子達は数人のグループで遊んでいたので、一人きりなのはその女の子だけだ。
白い肌に白髪、そしてピンク色に近い薄い赤色の目をしたその女の子は、一人で木のそばに佇んでいた事もあってどこか儚げに見える。元の世界の知識だとアルビノと呼ばれる色素欠乏症の子供のように思えるが、元よりこの世界には地球では考えられない多種多様な色彩の髪や瞳が普通に存在している世界だ。白髪や赤目は比較的少ない髪や瞳の色ではあるものの、だからといって特に珍しいものではなかった。だから彼女の容姿も、正確にはアルビノとはまた別のものだ。
元の世界ではアルビノに対して偏見や誤解がある地域もあったが、ここはエルフやドワーフ等の人種の差をも乗り越えている世界だ。元の世界でも大部分の認識がそうであるように、ここでも人種と同様に、肌や髪、瞳の色などは単なる個性の一つにしか過ぎなかった。
「つかまえた!」
ジンがその子も遊びに誘おうと声をかけようとした丁度その時、追いついてきた子供達がジンを取り囲む。抱きついてきた子供に気を取られたジンが視線を戻すと、女の子は木の陰に隠れて見えなくなってしまっていた。
「兄ちゃん、もう1回! もう1回やろう!」
「あ、ああ。……それより今度は新しい遊びを教えようか。『だるまさんが転んだ』っていう遊びでねーー」
若干その子の事が気に掛かりつつも、今は目の前にいる子供達を優先しなければならない。ずっと追いかけっこをしていて少し疲れた様子の子も見受けられたので、ジンは走り回らずにすんで怪我の心配も少ない「だるまさんが転んだ」を提案した。この遊びはリエンツの孤児院でも好評だったので、楽しんでもらえることには自信があった。
そうしてしばらく「だるまさんが転んだ」を子供達と一緒になって遊ぶジンの姿を、さっきの少女が木の影からそっと顔を出して見つめていた。
「パパと同じだ……」
その台詞には、嬉しさと寂しさの二つの感情が込められていた。
今回はきりがいいのでここで終わります。
ただお待たせした上に少し短いので、次回は出来れば今度の土日か、遅くとも1週間以内には更新したいと考えております。
お読みいただき、ありがとうございました。




