たった一つの冴えたやり方?
「いえ、遠慮しておきます」
二人して同じような笑みを浮かべるガンツとオズワルドに嫌な予感がして、思わず反射で断るジン。その提案が自分の為になるだろうなとは思いつつも、それに伴う悪戯的な何かが無ければ、あのようないい笑顔にはならないからだ。これまでのガンツとの付き合いで、ジンはその事を身に染みて理解していた。
……そして同時に、その提案が結果的には自分の益になる事を理解しているが故に、この抵抗が無駄である事も理解していた。
「くくくっ。どうだオズ、これがジンだ。話し方が丁寧だから勘違いされやすいが、こいつは言う時は言うぜ?」
まさか断りの返事が来ると思わず目を丸くするオズワルドと、楽しそうにそう話すガンツが対照的だ。だが、すぐにオズワルドも顔をほころばせる。
「ふっ。新鮮な反応だな。中々面白い奴ですね、ガンツさん」
Aランクの提案を内容も聞かずにCランクが断るのだから、それは確かに普通ではありえない事だろう。実際オズワルドだけならジンもこうした反応にはならなかったはずだが、気心の知れたガンツの存在がそうさせた。
「ちょっ、お前何言ってんだ!」
驚いたのはジェイドだ。尊敬するオズワルドの提案を一蹴するなど、彼の常識ではありえない事だ。
「いやー、確かにオズワルドさんにはちょっと失礼だったかもしれないけど、あの笑顔はガンツさんと同じだったから、つい……」
「いや、それ理由になってねえから!」
とぼけた返答をするジンと、即座につっこみ返すジェイド。それはまるで漫才のような絶妙な間で、それだけに更にガンツとオズワルドの笑いを誘った。
「……しかし随分仲良くなったみたいじゃないか。お前にしては珍しいな、ジェイド」
ひとしきり笑った後、オズワルドが未だ笑みを含ませながらそう投げかける。
「別にそういうわけでは……」
などと口ごもるジェイドの頭を笑いながら乱暴にかき回すと、今度はジンに向かって話し始めた。
「こいつは言い方がきついんで誤解されやすいが、別に悪い奴じゃないんだ。良かったら仲良くしてやってくれ」
そう話すオズワルドの目は優しく、ジェイドもやめてください等と口では言いつつも満更ではない様子だ。それはパーティメンバーというよりも、まるで仲の良い親子の様に見えた。
ちなみにオズワルドの見た目は30代後半で、ジェイドは17、8才と言ったところだ。実際は高レベルのオズワルドは見た目以上の年齢だろうが、ジェイドの方はレベル上昇による老化の抑制は20才前後までは働かないので、見た目通りの年齢のはずだ。
「はい、勿論です。さっきも色々教えてもらいましたし、良い奴だってのは分かってますから」
ジンも目を細めつつそう答える。実際彼はジェイドに対して感謝こそすれ、マイナスなイメージは全く持っていなかった。
そもそも求められていないにも関わらず他人に忠告するなど、多大なエネルギーを使わないと出来ないものだ。説教や注意も同じだが、相手が素直に受け入れてくれるとは限らないし、そうする事で相手に不快感を与えたり、それまで築き上げてきた関係性が失われてしまう可能性もある。
それでもなぜ忠告等をするのかと言えば、それは相手の事を思っているからに他ならない。
今回ジェイドはオズワルドの事を第一に思ってジンに忠告したが、それでもそこにジンを思う気持ちが僅かでも含まれていなければ、そもそも忠告などなされるはずもないのだ。
「そうか。ありがとな」
満足そうに頷くオズワルドと、若干照れ臭いのかそっぽを向くジェイド。そして頃合いと見たのか、ガンツが口を開いた。
「んで、どうするんだジン? 本当に聞かないのか?」
ニヤニヤと相変わらず悪戯っぽい笑みを隠さないガンツにため息を一つ吐いて苦笑いで返すと、ジンはとうとう諦めて白旗を揚げた。
「オズワルドさん、先程は失礼しました。良い方法というのを教えていただけますか?」
その今更過ぎるお願いに対し、オズワルドは笑顔で快く答えた。
「ああ、いいぜ。なーに、話は簡単だ。つまり……」
また、そうして答えるオズワルドの顔は、やはりどこか悪戯っぽい笑顔であった。
「(あー、何でこうなったんだろう?)」
あれから数時間の時が過ぎ、場所も移したギルドの練習場でジンは内心呟く。あの後オズワルドの提案を受け入れたジンは、約束の時間になるまで当初の予定通りガンツとの鍛冶修行を済ませ、それから一旦自宅に戻って夕食の準備を済ませた上でここに来ていた。アリア達と直接話してはいないが、用事が出来たので先に食事を済ませてくださいと、テーブルの上に書置きを残している。
広い練習場の中央にジンが立ち、その周りを遠巻きに多くの冒険者が囲んでいる状態だ。そして中央に立つのはジン一人だけではなく、他にもう一人いた。
「思っていた以上に盛況だな」
そう笑いかけるのは、練習用の斧を手にしたオズワルドだ。やはりAクラスの冒険者ともなれば注目されるのにも慣れているのだろう。周囲の視線など物ともせず、その佇まいはどこまでも自然体だ。
「ええ、ここまで大事になるとは予想していませんでした」
夕方という時間帯もあってか、見物に集まった冒険者はかなりの数だ。先程の現実逃避気味の台詞が示すように、逆にジンはこの雰囲気に呑まれて若干緊張気味だ。
対峙する二人とそれを見物する為に集まった冒険者達という現在のシチュエーションでもうお分かりかと思うが、ガンツの店で聞いた良い方法というのは「木剣を用いてのオズワルドとの模擬戦」だ。ここで敵わないまでも確たる強さを示すことができれば、木剣についてどうこう言う者はいなくなるという狙いだ。
目立つ事を好まないジンだったから当初は渋ったが、最終的には納得して今この場にいた。
……ただ、ここまで多くの見物客が集まるとは予想していなかった。
実際、ただ単にオズワルドが模擬戦をするだけならここまでの人は集まらなかっただろう。しかしAランクがCランクと模擬戦をするという通常では考えられない状況に加え、その相手が悪目立ちしていたジンだったからこそ、ここまでの人が集まったのだ。
「あいつオズワルドさんに稽古付けてもらえるんだろ? 羨ましいな」
「Aランクの模擬戦なんて滅多に見れるもんじゃないぞ。見るだけでも勉強になるはずだ」
「しかし、あのジンってやつCランクなんだろ? すぐ終わっちまって参考にならないんじゃないか?」
「そういやそうだな。リエンツにはBランク冒険者も何人かいるのに、何でCランクとやるんだろうな?」
集まった冒険者達の中で色々な憶測が話されるが、こうした意見はまだマシな方だ。
「あのジンってやつがオズワルドさんを怒らせたらしいな」
「俺は調子に乗っているからしめるってきいたぜ」
「けっ。実力もねえのに目立ってやがったからな。いい気味だ」
噂が噂を呼び、少数だが中にはジンが痛めつけられる姿を見物に来たものもいた。
そして見学に来た者の中には、好き勝手に話される噂話に眉をしかめるジェイドや、今も悪戯っぽい笑みを湛えているガンツの姿もあった。
「(いかん。自分で決めたんだからちゃんとしないと!)」
ジンは雰囲気に呑まれてしまった自分に対し、両頬を勢いよく叩いて自分に気合を入れなおす。目立ってでも実力を示すと決めたのは自分なのだ。
これまでジンが目立つ事をしていなかったかと言うと、決してそんなことはない。マッドアント討伐から始まり、マッドウルフとマッドボアの二体の変異種も倒したし、ラジオ体操の普及の立役者でもある。それらは口止めもあって然程広まらなかったが、やってきた事は充分目立つ行為だ。
そしてとうとう魔力熱の治療法の発見では、完全に名前バレしてしまった。これはガンツに指摘されたのだが、こうして魔力熱の解決で目立ってしまった以上、今更目立ちたくないと言ってももう手遅れだ。しかもアリアを筆頭にリエンツの街でも有数の実力を持つ美女たちをパーティメンバーにしているのだから、そっちの方でも目立ってしまっているので尚更だ。
「(彼女達の為にも、俺も覚悟を決めなきゃな)」
さらに言えば、そんな彼女達を率いるジンには周囲からそれに負けないだけの実力が求められるし、それを見せる必要も出てくる。別にそれは戦闘に関するものだけではないのだが、冒険者であるが故に戦闘力を重視する傾向があるのも事実だろう。実際まだ行動にこそ移していないが、「あいつで良いなら俺でも」と考える身の程知らずの馬鹿は確かにいるのだ。
「すまん。待たせたな」
そうこうしているうちに、集まっていた冒険者達が道を空けたかと思うとギルドマスターのグレッグが姿を現した。
「いえ、お忙しいところに、立ち合い人を引き受けてくださってありがとうございます」
「いや、お前とオズの試合なんて、他の奴に任せるわけにはいかんからな。実に楽しみだ」
ジンの礼にグレッグが笑って答える。そして親しげにオズワルドと会話を交わすグレッグも、やはりガンツと同様に昔からオズワルドと親交があったようだ。
ジンはグレッグに頭を下げると、オズワルドにも深く一礼した。
「改めてオズワルドさんにはお礼を言わせてください。今回こうして私の為にお力を貸していただき、本当にありがとうございます。私ではオズワルドさんの相手としては分不相応だと思いますが、それでも必死に喰らいついていきますので、どうぞよろしくお願いします」
今回の事は、成功してもオズワルドには何のメリットもない。逆に下手をすれば自分の評判を下げる事にもなりかねない行為だ。それでもこうして相手をしてくれるのは、そうならない自信があるのだろうが、それだけでもないはずだ。
そのオズワルドに対してジンが今できる事は、感謝してただ全力でぶつかっていく事だけだ。
「ふっ。いくらガンツさんから聞いたとはいえ、それだけでは俺もお前と戦おうとは思わないさ。自分の目で見て感じたからこそ、俺は今ここにいる。遠慮はいらん。全力でかかってこい」
オズワルドがジンに何を感じたのか、そしてジンはその期待にどう応えるのか。全てはこれから始まる戦いでわかる。
「はい!」
答えるジンも気合十分だ。
「よし、準備もできているようなんで早速始めるぞ。……双方構え!」
グレッグの合図にオズワルドは訓練用の鉄製の斧を構え、ジンは愛用の木剣を構える。
「おい、あいつ木剣で戦うつもりだぞ!」
「いくら訓練用とは言え、木と鉄じゃ話にならんぞ? 何を考えているんだ?」
「馬鹿じゃないのか。勝負にもならんだろう」
「はっ! 『木剣』野郎が、みっともなく負けちまえ」
その様子に周囲はざわめき、様々な意見が飛び交う。だが対峙した二人はそんな雑音に惑わされることなく、静かに開始の合図を待っていた。
「始め!」
勝手な事を言って騒ぎ立てる周囲に堪忍袋の緒が切れたジェイドが大声を上げようとしたその時、そうした周囲の雑音を吹き消すようにグレッグの声が練習場に響き渡り、そして合図と同時に動き出した二人の剣と斧が交差した。
この時、ほとんどの者がジンの木剣が折れる光景を想像しただろう。それほどオズワルドの動きは速く、そして力強いものだった。だが、多くの者はオズワルドの動きに注視していたので気付いていなかったが、ジンの動きも決して劣るものではなかった。
ガキン!
練習場に響き渡るのは硬い物がぶつかり合う金属音。そして当然の如く、ジンの木剣が折れる事はなかった。
ガガッ! ガッ! キン! ガキン!
その後も続く金属音。互いに打ち合い、弾き返すその応酬は止まらない。訓練用の武器とは言え、Aランクの猛攻撃にCランクが使う木剣が折れずに耐え続ける。そんな信じられない光景がそこには繰り広げられていた。
「ウソだろ……」
異口同音にそんな台詞があちこちでこぼれる。そしてすぐに違う事にも気付いた。
「あの猛攻に付いていけてるのか……」
そう。折れる折れない以前に、まず攻撃を受け止める必要があるのだ。Aランクが繰り出す速くて重い攻撃を。
ガキンと一際大きな音を鳴らし、二人はお互いに距離をとる。ジンの顔は緊張で強張っているが、オズワルドは余裕の表情だ。
「はははっ。まさかここまでとはな」
息を切らすことなく、オズワルドが楽しげに笑う。ジンも息を切らしているわけではないが、その軽口に応えるほどの余裕はない。ジンにはオズワルドが全く本気を出していない事はわかっていた。
「よし、ちょっとずつ本気出していくからな。死ぬ気で捌けよ?」
その台詞と共に、再度オズワルドが攻撃を仕掛けた。
「くっ!」
先程までよりも速いその攻撃を受けるジンだったが、その手に感じる衝撃も更に重くなっていた。見る見るうちに押し込まれていく。先程まではいくらか反撃も出来ていたが、今はそんな余裕などない。
「そら、そら、そら!」
更にスピードを上げるオズワルドの猛攻を、ジンはただ必死に凌ぐしかない。
格上との戦闘と言えばゲルドとの一戦が思い起こされるが、Bランク上位と言われたゲルドの攻撃をぎりぎりで凌ぎきった経験がジンにはある。
実際、殺気が乗ったゲルドの攻撃は、怖さという意味では今受けているそれよりも上だろう。だが、それ以外の基本の部分である速さや重さ、そして技術の高さでは全てオズワルドの方が上だ。
実際の硬度では遥かに高いジンの木剣を相手に、ただの鉄製の斧で攻撃し続ける事が出来るだけでも、その高さが窺えるだろう。
「(これがAランクの実力か!)」
ジンは想像以上のその実力に驚きを隠せない。しかも、オズワルドはまだ本気ではないのだ。
「(やばいっ!)」
ジンは両手持ちした木剣で必死にオズワルドの猛攻を耐えていたが、不意に危険を感じてその場を飛び退く。
ドガッ!!
ジンが飛び退いた事で狙いを外した斧が地面を抉る。その勢いは凄まじく、まるで爆発したかのように地面から土煙が上がった。
「爆斧……」
「その字名は今みたいに狙いを外した時に付いたもんだから、あんまり気に入っていないんだがな」
思わず以前アリアから聞いたオズワルドの字名の一つを呟くジンに、オズワルドが苦笑しながら言った。
「まあいい。まだお前も終わるつもりはないんだろう? さあ、やろうぜ」
「はい!」
そうしてジンは再度オズワルドに立ち向かっていった。
ガッ! ギン! ギン! ガン! ドゴッ! ガン!
練習場に武器を打ち合う音が響く。その中心で剣を交わす二人の熱気とは裏腹に、それを見物する冒険者達は静まり返っていた。
開始前にあった雑音は既になく、その場にいる誰もが眼前の光景に引き込まれている。
Aランク冒険者オズワルド。その攻撃は凄まじいの一言だ。
重い戦斧を軽々と操り、怒涛の連続攻撃で攻めたてている。それは暴風とも言うべき猛攻だ。彼の前に立つ者は、悉く打ち倒されるだろうと、誰もがその光景を幻視した。
「嘘だろ……」
「何で立っていられるんだ……」
だが、実際にその猛攻にさらされているはずの男は、時に押し込まれながらも未だにその場に立ち続けている。その顔に浮かぶ疲労の色は濃く、それが彼の全力を尽くした上での結果である事も一目瞭然だ。そして、そんなギリギリの状況にずっと身を晒し続けても尚、男の目に宿るのは不屈の精神だ。
冒険者達の誰もがその光景に驚き、そして目を離す事が出来なくなっていた。
「ジン……」
ジェイドが思わずその名を口にする。
オズワルドをよく知る彼だからこそ、その光景は尚更信じられないものだ。勿論まだまだオズワルドに余力が残っている事は間違いないが、それでもここまで己の力を解放している姿を見るのは初めてだ。
そして、だからこそその声には感嘆の響きがあった。
「……成功だな」
一方でそうガンツが小声でつぶやく。彼の口元はやはり悪戯っぽく歪められていたが、それはジンに対してのものではなく、周囲にいる冒険者達に対してのものだ。
今回のこの模擬戦は、ジンが扱う木剣は実戦でも十分通用する事、つまりこれまで表に出る事が無かったジンの戦闘の実力を知らしめる目的で行われたものだ。そして裏の目的としてガンツが浮かべた悪戯っぽい笑みが示すものが、ジンを軽んじる馬鹿共を黙らせる事だ。
そもそもジンの実力は、魔力熱の一件だけでも証明されているようなものだ。いくら戦闘力が重視される傾向があるといっても、冒険者の実力はそれだけが示すものではないという事は冒険者としての常識だ。だから多くの冒険者がジンの恵まれた環境に嫉妬しつつも、それを認めている。
だが、それを認める事が出来ない一部の馬鹿と脳筋族がいた事も事実だった。
「(へっ。どうだ、驚いたか。これがジンなんだよ!)」
オズワルドの猛攻を目の当たりにして、それをしのぎ続けるジンの実力を疑う者はもういないだろう。Aランクというのは、それほど別格の存在だ。しかも実際は逆だが、知らない者からすれば木剣で鉄製の斧と打ち合っているのだから尚更だ。この光景を見てジンの木剣が特別丈夫な作りなんだと思う人間は多いだろうが、流石にどんな金属でも傷すらつけられない程の特別製だと思う者はいない。ジンが打ち合えるのは何らかのスキルで木剣を補強しているか、もしくは純粋な技量あっての事だろうと推測する程度だ。
「(しかしジンも頑張るな)」
またガンツにとっても予想外の事はあった。いくら特別製の木剣と只の訓練用の鉄製の斧ではハンデがあるとは言え、ジンがこれほど長時間オズワルドと打ち合えるとは思っていなかったのだ。
ただ、さすがにもうそろそろジンも限界だろうが良くここまで喰らい付いたなと、その頑張りにガンツはご機嫌だった。
ガッ! ガガッツ! キン! ガキン! ガッ! キン!
「…………」
キン! ガッ! ガッ! キン! キン!
「………… …………」
ガッ! ガキン! キン! キン! ガガン! ガキン! キン!
「………… ………… ………… …………」
だがそんなガンツの予想に反し、二人の打ち合いは一向に終わる気配を見せない。
それどころかこれまでほぼ一方的に攻撃をしのぐばかりだったジンが、返す刀で反撃を仕掛ける姿が見られるようになり、その数も次第に増えていく。そしてついにはCランクのジンがAランクのオズワルドと互角とは言えないまでも対等に打ち合っていた。
それはガンツも含め、誰もが予想だにしていなかった光景だ。
それを可能にしたのは、もちろんジンが持つ『武の才能』のおかげだ。かつてゲルドとの戦いで見せたように、格上のオズワルドを相手に全力で立ち向かうことで、この戦いの中で各種スキルが急速な成長を遂げたのだ。
だが、何事にも必ず終わりは来る。
「それまで!」
剣戟の音だけが響いていた練習場にグレッグの声が響く。
中央には対峙したジンとオズワルドの二人と、中空に交差したままの木剣と鉄斧。そして数瞬の後に中ごろから折れた鉄斧の刃が地面に落ちて音を立てた。
「……… ……… ………… …………」
あまりの出来事に誰もが言葉が出ない。だが次第にその光景が意味するものを理解していくにつれ、ため息をつくようにポツポツと声があがり始める。
「折りやがった……」
「木剣で……」
「なんて剛剣だよ……」
「木剣……」
こうして彼らがつぶやいたその言葉、『剛剣』と『木剣』がジンが得た最初の字名となった。
『剛剣』は勿論、もう『木剣』にも侮る響きなど欠片もない。
そして中央で握手を交わすジンとオズワルドを、彼らの爆発的な歓声が包んだ。
お読みいただきありがとうございます。
いつもより長いですが、それでも上手くまとめきれませんでした。
説明不足な点などは次回でフォローできればと考えております。
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