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異変

 アリアがギルドを辞めて正式にジンの仲間になった日、そしてジンが自らの秘密を告白したあの日から二十日ほどが経過した。それはアリアを加えて新たに始まった女性三人男一人の共同生活の期間であると共に、『フィーレンダンク』としての活動を開始してから経った期間でもある。


 正式にギルドに登録したこの『フィーレンダンク』というパーティとしての活動は、アリアを加えた事で遠中近のバランスも良くなり、初めて取り組むCランク依頼も順調にこなしていた。

 これまでは採取依頼と討伐依頼の二種類しか受ける事が出来なかったが、Cランクになって新たに護衛依頼を受注できるようになった。この二十日あまりで護衛依頼を三件請けるなど、彼らは積極的に新しい事に挑戦し、どれも何事も無く完了していた。更には他の街に行くついでにその街のギルドで依頼を受けるなど、Dランクの頃より明らかに行動範囲が広がり、特にアリアを除く三人はCランクになった事を強く実感していた。


 勿論、四人での共同生活も順調だ。護衛依頼で家を空ける期間も長かったが、アリアと一緒にご近所さんへの挨拶回りもちゃんと済ませており、たまに遊びに来るアイリスも新しいお姉ちゃんが出来ご満悦だ。

 また、ジンが自分の秘密を明かした事で、戦闘や索敵など様々な場面でスキルを活用するようにもなった。時にはやりすぎてアリア達に指導を受ける事もあるが、それはそれで彼らの関係が良好である証と言えるだろう。


 こうして順風満帆の滑り出しではあったが、ジン個人としては若干困った事態も発生していた。

 この二十日あまりでアリアがジンのパーティに加入した事も、そのパーティには彼女以外にもエルザとレイチェルというタイプの違う美女がいる事も、そしてその『フィーレンダンク』という名のパーティにはジンという名の唯一の男がいる事も、リエンツの街にいる冒険者達の間では周知の事となっていたのだ。


「ふう、まだ今日も視線が痛かったな」

 ギルドで依頼の達成報告を済ませた帰り道、ジンは疲れた様子でため息を吐いた。

 アリアのパーティ参入直後よりは落ち着いたとはいえ、未だ他の冒険者からの視線を感じる事が多く、若干ジンはうんざり気味だ。ここ三日ほどはリエンツの街で依頼を受けていたが、もう護衛依頼を受けて旅立ちたいくらいだ。

 もっとも、無理はないと半分諦めてもいる。

 何故ならパーティメンバーにアリア、エルザ、レイチェルという魅力的な三人の美女を揃え、紅一点ならぬ黒一点が自分なのだ。どこのハーレムだと、立場が逆であればジンも突っ込んだかもしれない。勿論そんな甘い関係ではないのだが、いくら仕事上の関係だと主張しても羨ましく思うのは理解できる。出来てしまう以上、何を言っても無駄なので甘んじて受けるしかない。もっとも、彼らが直接難癖をつける事も絡んで来る事もなかったので、ジンが反論した事もないのだが。

 それに彼女達とパーティを組めて嬉しいか嬉しくないかと問われたら、その答えは「最高に嬉しい」しかない。そこもジンが強く出れない一つの原因であった。


「「ふふふ」」

 そんなジンを女性陣が穏やかな笑顔で見つめているが、それは現在の状況が既に問題では無くなっていたからだ。もうジンを見る目は、厳しい物ばかりという訳ではなかった。


 確かに当初こそ、ジンに注がれる視線は嫉妬や敵意のそれが多かった。ギルドで長年受付嬢を務めていたアリアは勿論のこと、エルザも注目されていた若手冒険者だったし、レイチェルだって治療院でお世話になった事のある冒険者たちの間では、美人で腕も良いと噂になるほどだった。だが、そんな彼女を侍らす(様に見える)男は、若いぽっと出の新人にしか見えなかった。何も知らない者達からすれば、ジンだけが見劣りしているように見えた。

 加えてアリアにプロポーズしただの、エルザのコンビ解散に一枚噛んでいただの、レイチェルの弱みに付け込んだなどの誤解がまことしやかに噂として広まった事もあり、「彼女達はだまされているのでは」と見る人間も少なくなかったのだ。

 勿論、アリアにプロポーズ紛いの事をしたのはガンツに担がれただけだし、エルザのコンビ解散についても二人の間を取り持ってフォローしただけだ。レイチェルの弱み云々に関しても、単に彼女の相談に乗っただけでやましい事は一切ない。だが、嫉妬で歪んだ目にはそう映ってしまい、その誤った情報が広まってしまった為に、ジンは男だけでなく女性からも厳しい目で見られていたという訳だ。


 しかし、すぐにそうした視線には変化が見られ始めた。

 それは同期のダン達や初心者講習の指導役だったゲイン達に、サマンサやメリンダといったギルド関係者など、ジンの人となりを知る彼らからのフォローもあった。さらにはアリア達が同性の知り合い達に真実を拡散するようにお願いしていた事も、誤解の解消に大きな力となった。

 ジン達は混乱を避けるために早い時期から護衛依頼を受けて街を離れていたので、その変化を直接肌で感じる事はなかったが、彼らのおかげでジンを見る目は確実に変わっていった。


 また、どこかで聞いた覚えがあるジンという名前が、『魔力熱』治療の功労者として噂があった人物と同じ名前である事に気付くものも当初から少なからず存在していた。時と共に同一人物であるという事実が拡散していくにつれ、頑なにジンを認めまいとしていた者達も、ほとんどは納得せざるを得なくなっていった。

 人間なので嫉妬は完全になくなる事はないだろうが、それでも認めるべきところは認める潔さが彼らにはあったのだ。これは誇るべきリエンツ冒険者ギルドの特色であり、グレッグ達の長年にわたる薫陶の賜物と言えよう。

 こうしてジンへの視線には未だ嫉妬や敵意は若干混じるものの、現在ではそれ以上に興味や敬意といった感情も多く含まれるようになっていた。


 だが、人はマイナスな感情には敏感に反応するが、好意等のプラスの感情に対しては意外と鈍感だ。残念ながらジンもその例に漏れず、マイナスな感情の方にばかり気をとられてしまっていたという訳だ。

 これはジンが鈍いというよりも、人間関係は言葉や表情などの具体的な感情の表現コミュニケーションが大事であるという事の好例と言えるかもしれない。



「明日は休みだから、今日はちょっと豪華にいこうか。何か食べたい物ある?それかどっかに食べに行く?」


 そのうち落ち着くだろうし視線に関しては気にしても仕方がないと、ジンが気分を変えてそんな提案をしてきた。


「焼肉!」


 まっさきに手を挙げたのはエルザだ。以前作ったのがよっぽどお気に召したらしい。

 切った野菜や肉を自分の好みに焼いて食べるだけなので大した手間もかからないが、決め手となるタレはジンお手製だ。にんにくやフルーツのすりおろし等を入れたそのタレは、自分でも出来すぎなくらい美味く作れたと自負していたジンなので、こうしたリクエストは素直に嬉しかった。


「いいですね。あれでしたら私もお手伝いできますし」


 レイチェルは女性陣の中では一番料理に興味がある方だ。腕前はまだまだだが、時間はかかっても野菜を切る程度なら出来るようになってきた。

 焼肉ならば自分で材料を焼くので、調理している気分にもなれる。


「出来れば外で食べるよりお家でゆっくりしたいですし、私も賛成です」


 アリアが最後にそうまとめたが、彼女達がそろって自宅での食事を希望したのは、勿論ジンの為だ。

 外で食べるより自宅で食事する方が良かったというのも本音ではあるが、それ以上に他人の目にさらされているジンを気遣ったのだ。

 それに注目を浴びているのはジンだけではない。少なからず彼女達も注目されていたし、『フィーレンダンク』自体が注目の的だった。

 冒険者に復帰したアリアという実力者を加え、『魔力熱』の解決を手土産に華々しくCランクに昇格したパーティ。

 本人達がどう思うかは別にして、傍から見ればそう見える事は間違いなかった。


「よし、それじゃあ良い肉や野菜を買って帰ろうか」

 

 彼女達の気遣いを感じ、ジンにはいつもの笑顔が戻っていた。


 その後、自宅に戻ったジン達は皆で焼肉を楽しみ、ほろ酔いの良い気持ちで深い眠りに付いた。それは、いつものように充実した一日の終りだった。


 しかし、事件はその日の深夜に起こった。


「?!」


 ぐっすりと寝入っていたジンは異様な気配を感じて一瞬で覚醒し、ベッドから飛び起きる。そしてその直後、鈍い地響きと共に大きく一度地面が揺れたような衝撃を感じた。


「くっ!地震か?!」


 咄嗟に揺れに備えて身構えるジンだったが、大きく揺れたのはさっきの一度きりで、その後は静かなものだ。


「違うのか?」


 自分が知る地震とは違う一度きりの大きな揺れと、その後に続いた不気味な静けさに、ジンはどこか言い知れない不安を感じる。とりあえず女性達と家に被害が無いか確認しようとドアを開けると、ちょうど彼女達もドアから出てくるところだった。


「よかった、無事……っつ!ごめん!!」


 彼女達の無事を確認してホッとしたのもつかの間、彼女達が寝間着姿である事に気付いたジンは、慌てて後ろを向いて彼女達から視線を外した。


「「「あっ」」」


 少し遅れて彼女達も自分達の格好に気付いて声を上げるが、感じるのは単なる恥ずかしさだけではなかった。


「ごめん、でも無事で良かった。一旦部屋にもどって着替えてからリビングに集合しよう」


 返事を背中で受け、ジンはすぐに部屋へと戻る。それは彼女達の艶姿を見てしまった気恥ずかしさのせいもあったが、それと同じ位、さっきの揺れに対する不安感が拭えなかったのだ。

 ジンは『チェンジ』を使い、瞬時にいつものフル装備に着替える。グレイブこそ『道具』に戻したものの、それ以外は冒険時の格好と同じだ。

 部屋に被害が無い事を確認し、ジンはそのまま一階リビングへと移動する。廊下に出る際に女性陣がいない事をそっと確認したのは、慎重と言うかへたれと言うべきか。いずれにせよ、彼女達を女性として意識している事の証明でもあった。


 若干ドキドキしていた心臓の鼓動も、今では平常どおりだ。

 ジンが一階の各部屋の状況を確認して洗顔やトイレ等も済ませた後、キッチンでお茶の準備をしている間に彼女達もアリア、レイチェル、エルザの順で一階へと下りて来た。

 先程の地震に何か異変を感じているのは、ジンだけではなかったという事だろう。彼女達もジンと同じくフル装備で、先程の下りてきた順番も恐らくは装備を身に付けるのに掛かった時間の差だろう。

 彼女達も顔を洗うなどして簡単に身だしなみを整えると、ダイニングに集まって状況確認を始めた。


「それじゃあ、こんな変な地震は初めてなんだね?」


 ダイニングテーブルの上には人数分のお茶と、頭を働かせる糖分としてお茶菓子のクッキーが置かれている。既に簡単な状況確認は終えており、今はそのまとめをしているところだ。若干残っている気恥ずかしさはお互い無視し、今は目の前にある異変に集中していた。


「はい。地震自体が滅多にある事ではないですが、今回のこれは私が聞いていた物とは明らかに違います」


 アリアもエルザ達と同様に地震という現象は知識として知っていても体験した事は無かったが、ギルド職員であった頃に緊急時の対応として学んだ事はあった。その内容はジンも良く知る地震のそれで、今回のようなケースは聞いた事が無かった。


「もしかして、揺れ自体は大した事無かったんじゃないか?」


 エルザがそう言うのも根拠が無いわけではない。何故なら家の被害がほとんど無いのだ。洗った後に水きりをしていた皿やグラスも、玄関横の道具入れに置いてある道具類だってそうだ。唯一ジンが使っている作業場で、横にして置いていた試験管が一本テーブルから転げ落ちていただけだ。

 ジンも最初こそ大きな揺れと感じていたが、もしかしたら揺れ自体は小さかったのかもしれないと思い始めていた。だが、その場合は大きな揺れと誤解させるようなそれ・・は何だったのかという疑問も出てくる。いずれにせよ原因が地震かどうかもはっきりしないので、現時点では憶測でしかない。


「ご近所さんも皆さんもう眠っておられるみたいですし、被害が少なかったのは幸いでしたね」


 地震直後こそほとんどの家庭で灯りがついていたが、今ではその灯りも消えて街は静けさを取り戻している。幸い火事などの二次災害もでていないようで、その点は確かに不幸中の幸いだ。

 確かにその点はレイチェルの言うとおりで、被害らしい被害が無いからこそ皆は眠っているのだろう。しかし、冒険者であるジン達には、何かが引っかかっていた。


「アリア。こういう場合、ギルドはどういう対応をとるのかな?」


 個人として動くには限界がある。ジンは冒険者ギルドの対応が知りたかった。


「グレッグさんは間違いなくギルドに向かうと思いますし、他には数人ですが、早番の人達も万一に備えてギルドに行くでしょうね。

 酷い被害や火災といった分かりやすく緊急性が高い物であれば兵士の方達が警報を鳴らしますが、そうでない場合、情報は冒険者ギルドに持ち込まれる事が多いですから」


「それなら、俺達もギルドに行かないか? 人手は多いに越した事がないだろうし、皆も気になって眠れないだろう?」


 ジンの意見に女性陣も頷く。時刻は五時になったばかりだが、眠気などは全く感じていない。それは完全装備でこの話し合いに臨んでいた時から変わっていなかった。


「よし、それじゃあ早速朝飯と準備を済ませよう。十分後を目処に出発でいいかな?」


 そう言いながら、ジンは『道具』から作り置きしていたサンドイッチと野菜ジュースを人数分取り出してテーブルの上に並べる。

 緊急性があるかは今一つはっきりしないものの、ギルドに行くのなら早いに越した事は無い。だが、だからこそ何かがあった時に備えて、エネルギーはちゃんと補給しておくべきだ。腹が減っては戦は出来ないという事だ。

 アリア達も頷くと、早速目の前にある朝食にかぶりついた。


 隙が多くなる食事は手早く済ませる事が当たり前とされているので、冒険者に早食いは必須技能だ。ジン達の場合は普段『地図』と『気配察知』のおかげで冒険中でも比較的のんびりと食事をしているが、その気になれば手早く済ませる事も出来る。

 今日は時間が無いのであっという間に食事を終えると、10分もかからずにジン達は自宅を出てギルドへと向かった。

お待たせした上にあまり話が進まなくて申し訳ありません。

前話でネタバレしてるので、ドキドキも無いですよね。^^;

次は急ぎたいところですが、まだ忙しい状況が続いております。

出来れば次は一週間~10日以内に何とかしたいとは思いますが、今回と同じくらいお待たせする可能性の方が高いです。一応今月末までの更新を目処に頑張ります。


宜しければ次回もお付き合い下さい。

ありがとうございました。

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