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告白

「ステータス」


 ジンはあえて口に出して目の前にステータスウィンドウを表示する。誰にでも見れるようにイメージしたそのウィンドウは、空中に出現した後にアリア達が見やすいようにテーブル上へと移動した。

 アリア達もこれまで『地図』という形では見たことがあったその現象だが、そこに記してあるのは基本的に神殿かギルドでしか知る事が出来ないはずのジンのステータスだ。

 アリア達は一瞬驚き、そしてすぐに平静を取り戻す。何故ならジンの告白は未だ始まったばかりで、これは単なるとっかかりに過ぎないと理解しているからだ。腹が据わっていたのはジンだけではなかった。

 こうして、ジンの告白は始まった。


 その後も彼女達にとって驚きの連続であった。

 ジンのステータスの高さにスキルの多さ、聞いた事もないようなスキルの存在に信じられないほどの所持金。それらだけでも充分すぎる程だったが、それらの中で一番彼女達を驚かせたのはジンの称号『神々に祝福されしもの』だ。

 一柱の神に加護を受けるだけでも極めて稀なのにも関わらず、『神々』と複数でしかも加護ではなく『祝福』だ。

 特に神官であるレイチェルにとっての驚きは大きかったが、レイチェルも神に依存気味だった以前とは違う。そんな驚愕の称号にも惑わされず、ただジンだけを真っ直ぐに見つめていた。


 ジンは称号をクリックし、説明文を表示させる。そこに書いてあるのは「貴方に感謝を 新たなる人生に幸多からんことを」の文字だ。


「何故神様が俺に感謝してくれたのかは分からないけど、ここに書いてあるように俺がこうして皆と過ごしているのは『新たな人生』なんだ」


 ここでジンは一呼吸おき……。


「俺は元々はこの世界『テッラ』の人間じゃない。此処とは別の世界『地球』で老人になるまで生き、そしてある時気付いたらこの『テッラ』に居たんだ。体や心も若返らせてもらった上でね。だから現在の俺が肉体的にも精神的にも18歳なのは間違い無いんだけど、同時に老人だった頃の記憶や経験も持っているということになるね」


 最大の秘密を告白した。


「それで単に若返らせてもらっただけじゃなくて、他にも神様からいくつかの贈り物をいただいたみたいなんだ。ここにあるユニーク・・・・スキルの『メニュー』やたくさんのお金、他にも以前皆に預けたポーションとかね。あ、あと実は向こうの世界で若かった頃より、ちょっとだけ格好良くなってるんだ。これでもね」


 最後にちょっとだけ冗談めかしてジンは言った。

 続けて元の世界で昼寝をしていたら、次に気づいた時にはもう若返った状態でこの世界に居た事。最初は混乱したし自分が違う世界に来た事も信じられなかったが、称号を見てようやく理解した事。そして恐らく自分がこうして此処にいるのは称号の説明にあった感謝のお礼なんだと思うが、自分に神様に感謝してもらえるような事をした覚えがない事などを話した。


 まだまだ続くジンの告白に、アリア達もさすがに付いていくのがやっとだ。だが、本来なら叫びだしたくなっても無理がないジンの告白を、彼女達は動揺しつつも可能な限り冷静に受け止めていた。

 ……もっとも、ジンの面白くも何とも無い冗談に笑う余裕はなかったが。


「ペルグリューンさんの魔法に耐えられたのも、この神様にいただいた能力のおかげなんだ。この体は痛みは感じるけど、傷を負う事はない。ユニークスキルである『メニュー』が持つ能力の一つと言う事になるのかな。『無限収納』や『地図』も同じく『メニュー』に含まれる能力だね。他にも一瞬で武器の持ち替えが出来る『交換チェンジ』や知らない文字や言葉がわかる『翻訳』、そうそう『検索』もそうだった。これまではスキルと言ってたけど、正確には『メニュー』が持つ能力の一部で、これまでしていた呼び名は便宜上そう言っていただけなんだ。他にもこの『メニュー』には俺もまだ使っていない機能があるんだけど、それは細かすぎるから使う事があったら言うね。後はこの辺の才能スキルや補正スキル、そして『鑑定』や『無属性魔法』『健康』といったものが同じく神様にいただいたスキルで、残りの『剣術』とかは全部この世界で身に付けたスキルだね」


 ジンはステータスウィンドウを指さしながら説明を続ける。

 ただ、ジンは『ニューワールド&ニューライフ』というゲームの設定や仕様でこの世界に来た事は言わなかった。

 これはアリア達に理解できるように説明する自信がなかったのもあるが、これに関しては言っても言わなくても同じだと思ったからだ。いずれにせよゲームの仕様やスキルも含めての神様からの贈り物である事に変わりは無かった。


「アリアさ……アリアは不思議に思っただろうけど、俺が『生活魔法』なんかの常識を知らなかったのは、俺が元々はこの世界の人間じゃないからなんだ」


 正式に仲間になったら敬語なしで話す。ジンはその約束を忘れてはいないが、まだ慣れていないので若干ぎこちなかった。


「エルザは俺の事を強いと言ってくれたけど、実は神様にこうしたスキルをいただいていたからなんだよ。そのおかげで『無属性魔法』は始めから使えたし、『剣術』とかは最初は持っていなかったけど『武の才能』のおかげで習得も早かったんだ」


 ジンは「いただいた能力のおかげで強くなれるし仲間も守れる」と感謝しており、痛みを感じるようになった今では、このことに関してはもう忌避感等は無かった。しかし、だからこそエルザが言う自分の強さは神様から与えていただいた能力あっての事だと考えており、自分を見て変な劣等感なんか覚える必要はないんだとエルザに感じて欲しかった。

 ジンの方こそ、ひたむきに努力を続けるエルザの姿勢に学んでいたのだ。

 

「レイチェルには以前「加護は受けていない」と言ったことがあるけど、『加護』も『祝福』も似たようなもんだよね。あの時は嘘を吐いてしまってごめん」


 ジンはレイチェルに頭を下げ、きちんと謝罪した。

 ジンは別に嘘を吐く事が必ずしも悪い事だとは思っていないし、基本的に嘘を吐く事はない。だが以前レイチェルにそうしたように、必要であれば嘘を吐く事もある。ただ、嘘を吐く必要が無くなったからには、きちんと謝るのがすじだと思っているだけだ。


 アリアもエルザもレイチェルも、皆真剣にジンの話を聞いていた。

 ジンもゲームに関しては説明をはぶいたが、それ以外に関しては重要な事柄は全て彼女達に話していた。


「一気に話してしまったけど、結局俺自身は特別なんかじゃなく普通の人間だよ。ただ、神様のおかげでちょっとだけ変わった能力やスキル、後いくつかの道具を持っているだけだね。……ふう。俺からはとりあえず以上かな。何か言いたい事や聞きたい事はあるかな?」


 最後にジンはそうまとめ、アリア達の反応を待つ。ジンは自分の事を心の底から普通と思っていたが、客観的に見れば充分普通ではない。

 ただ、そうは言ってもジンも、スキルや出自などで普通とは違う要素があるという事は理解していた。だからアリア達が自分を受け入れてくれるだろうかという若干の不安が無い訳ではなかったが、それ以上に「彼女達ならばきっと」という彼女達に対する信頼が大きかった。

 ジンは落ち着いた笑顔で彼女達を見つめていた。


「話していただいてありがとうございます」


 最年長であるアリアが最初に口を開き、エルザとレイチェルも後に続いた。彼女達がジンの告白した事に驚いたのは事実だが、元よりジンが規格外な事は骨身に染みて理解していたのでショックは意外なほど少なかった。

 ジンが別世界の人間と聞いても、ジンは言わば神々に招かれてこの世界テッラに来たのだ。そこに忌避感のあろうはずもない。

 それに彼女達はジンの人となりを理解していた。そんな彼女達にとっては別世界とは言えど、とんでもなく遠い国ぐらいの感覚でしかなかった。


「ジンさんがこことは異なる世界から来られた事も、ユニークスキルやたくさんのスキルをお持ちだという事もわかりました」


 アリアが何でもない只の事実を確認するかのように言った。


「確かに元の世界では老人だったってのにはちょっと驚いたけど、考えてみればジンは結構年寄りくさいところがあったからな~」


「ふふふっ。私もお爺様みたいだと思ったことがあります。それに『神々の祝福』というのにも驚かされましたが、ジンさんならありえる話だと納得しちゃいました」


 エルザやレイチェルも穏やかな笑顔で続いた。


「それにジンさんが神様から贈られた能力にあぐらをかかず、これまでちゃんと努力を続けてこられた事も私達は知っていますよ」


「アリアさんの言うとおりだな。さっきジンは能力のおかげみたいな話をしたけど、ちゃんとジンが努力をしたからこそ、これだけ多くのスキルを磨く事が出来たんだからな」


「そうです。私達はジンさんが色んな事に一生懸命だったのをずっと見てきていますからね」


 武術や魔術に関することは勿論の事、鍛冶や調合だってジンが自ら行動しなければ身に付けることが出来ない技能スキルだ。補正の有無は問題ではなく、彼女達はジンの姿勢をちゃんと評価していた。


「あー、その。ありがとう」


 ジンは若干照れながらそう答えた。全てを知った上でそう言ってくれるのは、ジンにとっても嬉しかった。


「「「ふふふっ」」」


 照れるジンを見て、アリア達も笑みをこぼす。

 そうしてしばらく和やかな時間が続いたが、そのうち自然とアリア達が緊張した雰囲気をかもし出す。


 アリア達はジンの告白を聞いても変わらず、これまでと同じかそれ以上にジンを受け入れていた。

 だが、彼女達はまだジンに質問をしていない。ジンの告白で一番気になった事、どうしても確認せずにはいられない質問がまだだった。

 彼女たちはその質問の答えがどんなものであっても受け入れるつもりだったが、それでも緊張する事には変わりは無い。三人は顔を見合わせ、軽く頷きあった後に口を開いた。


「それでジン。お前はもと居た世界では結婚していたのか?」


 緊張した面持を隠せないまま、アリアとレイチェルに見守られてエルザがそう尋ねる。


「いや、縁がなくてね。ずっと独身だったよ」


 ジンの返事を聞いて少しエルザ達の雰囲気が和らぎ、続いてレイチェルがジンに質問する。


「それじゃあ、一緒に暮らしている家族はいなかったんですか?」


「そうだね。一緒に暮らしている人は居なかったけど、弟や妹夫婦が近くに住んでいたから、その子供や孫達ともたまに会っていたよ」


 ジンは弟妹夫婦や甥姪達、更にはその子供達の顔も思い浮かべながら笑顔で返した。


「あ、もしかして元の世界の家族の事を心配してくれたのかな? ありがとう。でも大丈夫だよ。どの道あっちの世界では俺は結構な年寄りだったから、別れもそう遠い話じゃなかったと思うしね。会えなくなるのがちょっと早まっちゃったけど、皆なら大丈夫だと信じているからね」


 ジンは彼女達がかもし出していた緊張感の理由がわからなかったが、ここに来てそういう事かと納得した。

 だがそれは完全な間違いではないものの、完全な正解でもなかった。


「それでは帰りたいとは思わないんですか?」


「うん。俺が生きるのはこの世界だよ」


 重ねてレイチェルが尋ねた事は、もうジンの中で消化済みの話だった。寂しさを少しも感じないと言えば嘘になるが、世界を隔てた遠い空の下で彼らが幸せである事を祈る事が出来るだけで、ジンにとっては充分過ぎるほどの幸いだった。

 ジンの答えに迷いはなかった。


「そうですか……」


 レイチェルはジンを気遣いながらも何処か安心した様子だ。エルザやアリアも軽く安堵のため息を吐いた。

 今日決まったパーティ名からも窺える事であるが、彼女達もジンがこの世界を気に入ってくれているのは感じていた。だが、ジンが異なる世界から来た事を考えると、心に一抹の不安が残ってしまうのは仕方が無い。しかし、こうしてジンの口から直接「この世界で生きる」と聞く事が出来て安心したのだ。


「それでは最後に私から質問させていただきたいのですが……。ジンさんは老人だった頃の記憶があるとの事でしたが、それでは私達の事も娘や孫の様に思っておられるのですか?」


 アリアが真剣な顔で尋ねるが、これはジンが一番答えにくい質問だった。そして同時に前の二つの質問同様、ある意味でアリア達が一番聞きたい質問でもあった。


「あー。出来れば引かないで聞いて欲しいんだけど……」


 ジンはどう言ったものかと考えつつ、そう前置きする。


「さっきも言ったけど、若返ったのは肉体だけでなく精神もなんだよね。正直言って最初のうちは娘とか孫みたいな感じもあったんだけど、やっぱ皆可愛いし綺麗だからね。今では普通に同年代の女性だと思ってます」


 最後は若干早口になりながら一気にジンは言った。語尾が丁寧な口調になってしまったところがジンの後ろめたさを表しているだろう。

 ジンは女性とパーティを組むのだからこうした考えは意識してはいけないと思っており、正直言ってこの状況はかなり気まずかった。


「いや、勿論普段は意識しないようにしているよ?! ただ、あえて言えばそうなるだけで、いつもそう思っているわけじゃないからね。いや、ほんとだから……」


 ジンは少しテンパリつつ釈明を続けた。ただ、ジンが言っている事も嘘ではない。

 実際元の世界でジンは社内恋愛をした経験はないし、色めいた事を考えないようにしていたのも事実だ。だがこれまでジンがアリア達ほど美人で魅力的な女性と一緒に仕事をした事はなく、同じく寝食を共にする程長く一緒にいた事も無い。時には彼女達を魅力的に感じてしまう事があるのも事実だ。

 その後ろめたさと、こんな事で嫌がられたくないという気持ちが、ジンをここまで焦らせていた。

 そんなとことん自己評価が低く女慣れしていないジンだったが、もしもう少し落ち着いていれば彼女達のいつもとは違った姿を見ることが出来ただろう。


 ジンから綺麗で可愛いと言われ、さらには女性として意識しているという意味の台詞を聞かされた彼女達の頬は緩み、まるで林檎の様に赤くなっていた。


「ジンさん!」


 しばらく混乱したまま続いていたジンの言い訳をアリアが遮る。ジンもハッとして喋るのをやめた。

 まだ彼女達の頬は緩んだままだが、既に頬の赤さは目立つほどではない。ジンも彼女達の笑顔を見て、どうにか誤解はされずに済んだとようやく息を吐いた。

 そして彼女達は笑顔のまま、ジンに向けて言葉を放つ。


「ジンさん。これからも宜しくお願いします!」


「宜しく!」


「宜しくお願いします!」


 その眩しい笑顔に許された気持ちになったジンも、彼女達に向けて満面の笑顔で返す。


「こちらこそ! これからも宜しく!」


 そうしてそのまま四人は笑い合った。


 こうして終わったジンの秘密の告白ではあったが、彼女達が一番気になったのは、こんな馬鹿馬鹿しいとも思えるほど小さな、けれど彼女達にとってはとても大事な事だった。

 だがジンの告白がこのような結果に終わったのも、既に告白を聞く前から彼女達が心底ジンを信頼して受け入れていたからこそだろう。

 こうしてジンの信頼は報われ、ジン達の絆はより一層深まった。


 この夜が明けた時から、ジン達『フィーレンダンク』の新しい冒険が始まる。この街は冒険者の力を必要としており、これまで以上に彼らはその期待に応えるだろう。


 そしてジン達が『フィーレンダンク』として行動を始めて数週間後、新たな試練がこの街を襲う事になる。だがその試練の始まりは、同時に一つ朗報ももたらした。それはこれまで子供達に『魔力熱』を引き起こしてきた魔力異常の原因であり、その出現によって魔力異常は落ち着き、『魔力熱』は終息する事になったのだ。


 それは『災害』にも『祝福』にもなりうる存在もの


 『迷宮ダンジョン』の出現である。

読んでいただきありがとうございます。


一つお知らせなのですが、しばらく今後の更新頻度がかなり落ちると思います。

出来れば10日に1度ぐらいは更新したいですが、しばらくはそれも難しいかもしれません。


ただ、これでエタるとかのネガティブな話ではありませんのでご安心ください。

今回の更新の最後の数行は、お待たせするお詫びに若干フライングで今後の展開の一つを紹介した形です。

いい加減一連の魔力異常についての答えが知りたい方も多かったと思いますし^^;

その詳細や今後ジン達がどうしていくのかは次回の更新をお待ちください。


それでは次回は早くても1月10日以降になるかと思いますが、出来ましたら気長にお待ちいただければ嬉しいです。

 もし可能であれば早めに投稿しますが、遅れる可能性もありますのでその時はご容赦下さい。


今後とも『異世界転生に感謝を』を宜しくお願いします。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 以前「ただの傲慢な願い」の様な事を書きましたが、こう落ち着くなら良かったと思いました。 ただ、結局ハーレムになるのか。という気持ちは残ってます。
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