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自分達に出来ること

「よし、出来たよー」


 ジンは白身魚にパン粉をつけて揚げ焼きにしたフライを皿の上にのせ、さらに玉葱とゆで卵とピクルスをみじん切りにして自家製マヨネーズと混ぜたタルタルソースを添える。もちろん栄養のバランスを考えて皿には千切りキャベツも盛られており、さらには副菜として野菜のきんぴらも小鉢で付ける。

 そして最後に魚のあらで出汁をとったスープをつければ完成だ。


「はーい」


 呼ばれたレイチェルとエルザが出来上がった料理をダイニングへと運び、ジンも軽くキッチンの片づけをした後に席に着いた。

 そして三人が揃ったところで、いつもの食事の挨拶だ。


「「「いただきます」」」


 引越しパーティから八日が経ち、三人が共同生活を始めてからもう二十日ほどになる。

 今日もこうして、楽しい夕食の時間が始まった。


「このタルタルソースは、いつものマヨネーズとは一味違って美味いな」


「魚のフライもサクサクで美味しいです」


 美味しい物を食べると笑顔になるとはよく言われる話だが、エルザとレイチェルが今まさにそれを体現している。二人のそんな様子は料理を作った者として素直に嬉しく、ジンは思わず顔がにやけてしまう。


「ははっ、ありがとう」


 そう言いつつジンもタルタルソースをつけたフライを口に運ぶ。確かに美味い。


 こうした料理に使われている素材は元の世界のものと同じものもあるが、基本的には違うものが多い。普通なら一々食べて確かめないとわからないのだが、ジンには〔鑑定〕がある。

 ほとんどが同じでサイズや形が違うだけのものはそのままで表記されるし、まったくの新しいものは説明でどんな味かの説明が出るので助かっている。

 他にも素材が新鮮かどうか等の状態も出るので、腐ったものや毒性があるもの等を食べる心配もない。この世界は比較的衛生の考えは浸透しているとは言え、便利なので〔鑑定〕は何だかんだで一番使用頻度の多いスキルだ。

 また、別の理由からも積極的に鑑定を使用している為、現在鑑定レベルは4まで上がっている。なので消費MP1で見れる情報も以前より微妙に増えており、使い勝手が良くなった。


 ジン達はこうして食事をしつつ、食事中の話題として世間話や情報交換をしていく。


「そう言えばやっぱり最近討伐依頼が増えているみたいだね、こないだダン達も言ってたよ」


 少し真面目な顔でジンが話す。

 以前の変異種騒ぎの頃から心配していた事だが、現在となってはそう感じているのはジン達だけではなかった。


 そのダン達と言えば、彼らは結局アルバート達とパーティを組み、前衛三人に後衛二人のバランスの良いパーティとなった。やはり実力が同じくらいで、かつ同期メンバーという事でお互いに信用できるというのが結成の決め手だったそうだ。彼らも先日Dランクに上がり、着実に経験を積んでいる。


 しかし自分達より少し先を行くジンに対し、特にアルバートはライバル心を感じているとは女房役のカインのげんだ。

 本人からも「負けない」発言をもらったが、アルバートのその真っ直ぐな競争心はジンにとって心地良い態度だ。「俺も負けないように頑張る」とは、その挑戦に対するジンの心からの返答だった。

 

 ジンがダン達の事を思い返しつつそう言うと、エルザもその意見に同調した。

 

「劇的に増えている訳ではないのが何とも悩ましいな。原因がわからんから対策の打ちようもない」


 始めの頃こそ否定的なエルザだったが、今では魔物が増えていると実感している。

 そして魔物が増えて困るのは一般の人々だ。対策はギルドが打つとは言え、冒険者としてエルザも他人事とは思っておらず、勿論それは三人とも同じ気持ちなのだ。


「魔物も心配ですけど、子供達に増えている病気も原因不明で心配です」


 レイチェルが別の不安を口に出す。

 レイチェルは個人行動のときは治療院に出ていることが多いが、以前アイリスがかかったような原因不明の発熱に苦しむ子供達の数が増えているのを実感しているのだ。

 しかも発熱は一過性ですぐに治まるとは言え、ある程度日数が経つと再びぶり返す事が多く、まだ根本的な治療法は見つかっていない。


「こないだもクラークさんやビーンさんと話したけど、原因が分かってないのがネックなんだよね」


 ジンは両者との付き合いが深いこともあり、この件に関してはかなりの関心を持っている。二人の話を総合すると、熱が出ても神官の「病気治療キュアディジーズ」で熱は下がるし、熱冷ましの薬も効くそうだ。ただ原因がわからないので根本治療が出来ない為、現在二人は色々な伝手を頼って原因究明に取り組んでいる最中だ。


 ジンは熱冷まし用に使う薬草などを採取したり調合するなどして在庫を増やす事をやっているが、現状でジンが出来ることはそれぐらいだ。少し前に〔鑑定〕が人にも使えるのではと思いついて確かめてみたが、確かに人にも使えて名前や年齢等ある程度の情報は分かった。しかし肝心の病気については、残念ながらMPを全部使っても病名は分からなかった。

 この事もあり、ジンは〔鑑定〕レベルの上昇に努めているのだ。


 また、先日の引越しパーティから今日までに再びアイリスも一度寝込んでおり、ニルスや孤児院の子供達にも同じ症状が出つつある。

 ジンにとって正に他人事ではないのだ。


「まあ、悩んでいても仕方がない。俺達は出来ることをやろう」


 いつもは普通に生活していても、ふとしたことで不安が出てしまう。ジンはそんな焦る気持ちを抑え、自分に何が出来るかを考える。


「まずは個人行動を減らして討伐依頼を増やすか。外に出れば薬草採取も可能だし、日持ちもするから多すぎて困る事はないしね」


「そうだな。後は依頼完了後は街に戻らず、そのまま次の依頼先の村に向かうとこなせる依頼も増えるな」


「そうですね。ジンさんのおかげで討伐対象を見つけやすい分、私達は素早く動けますから達成までが早いですしね。今はまだ冒険者の数が足りない事はないでしょうけど、今後の事も考えるとエルザさんが言った方法も必要だと思います。今は私も治療院で患者さんを診るよりもこっちの方が必要だと思いますし」


 このようにジン達はそれぞれが自分達が出来ること、やるべき事を考えて発言していた。そしてそれは決して義務感などではなく、彼らがやりたい事でもあった。


「よし、じゃあ早速明日から行動を開始しよう。今まで以上に忙しくなるかもしれないけど頑張ろう」


「ああ」「はい」


 それが皆の笑顔に通じると信じて、ジン達は改めて行動を開始した。








 そしてジン達が討伐依頼を強化する事を話し合ってから既に六日が過ぎ、今日もジン達は近隣の村で出来ることを一生懸命にやっていた。


「ふんっ!」


 ジンはグレイブをマッドボア目掛けて振り下ろし、その刃は魔獣の頸部を深く切り裂いた。


 それは未だ鋼鉄製のものだったが、形状は以前とは異なっている。以前はショートソードがそのまま穂先になったような形状だったが、現在その剣身はファルシオンと呼ばれる剣に似た幅広の片刃のものだ。その刃は先端の方が膨らんだ三日月のように湾曲しており、峰側は真っ直ぐに伸びている。剣身の幅が広くなった分重量も増えたが、断ち切り用のその刃は以前より切断力も増加している。槍としての能力をそのままに、剣としての能力を強化した形だ。


 それは大きな変更だったが、ガンツとジンが妥協なく作り上げた形だ。その甲斐あって使い勝手も格段によくなり、これが最終の決定稿となった。


「そいつで最後だ。周囲に他の敵はいないようだ」


「お疲れ様です。怪我は大丈夫ですね?」


 それぞれが応対していた魔獣を倒し、エルザやレイチェルがジンに声を掛ける。マッドボア四頭という滅多にない危険な群だったが、ジン達は危なげなく倒す事が出来た。


 二人が身に付けているのは、完成したガンツ作の鎧だ。どちらもマッドボア変異種の革で作ったレザーアーマーで、さらにマッドアントクイーンの甲殻がレイチェルの鎧には胸当ての部分に、エルザの方には加えて小手や腹部などにも張られている。使われている甲殻の量は勿論どちらもジン程ではないが、変異種独特の黒い革も相まってその防御力はきわめて高い。


 また、二人の武器も鋼鉄製のものから黒鉄製のものへと替わっており、攻撃力の面でも強化されている。どちらもオーダーメイドではないが、オルトの『ガルディン商会』で購入した品質が確かな品だ。


 ジンも含め、これまでの報酬をほとんど使ってしまう事になったが、それだけの価値はある装備だ。ジンの武器こそまだ鋼鉄製だが、黒鉄製のグレイブが完成した暁には彼らの装備はBランク冒険者と比べても遜色ないほどだ。


 さらに言えばジン達がパーティを組んでから1ヶ月以上が経ち、あれから全員のレベルもかなり上がっている。

 一番高いエルザは20、ジンが18でレイチェルは17だ。そしてまだ気付いていないが、さっきの討伐でジンのレベルは19に上がる事になった。Cランク昇格試験を受ける事が出来る条件がLV15以上な為、全員がそれを上回るレベルとなっている。


 これは変異種との戦い以降もジン達が〔MAP〕を使って効率良く多くの依頼をこなし、さらには誰もが敬遠しがちな比較的強力な魔獣と率先して戦ってきたからこそ達成できたレベルだ。

 またレベルだけでなく、それぞれが新しいスキルを取得したり既存スキルのレベルを上げるなど、実力も相応に上がっている。


 レベルとスキルそして装備と、ジン達はいよいよCランク昇格の準備が整ってきたという状況だ。


「お疲れ。これでしばらくは大丈夫だろう。ドロップアイテムを回収して戻ろうか」


 そう言いつつジンがマッドボアの死体に触れると、魔石と皮といったドロップアイテムが瞬時に出現した。


「ああ、警戒は任せてくれ」


 あきらかにありえない現象だが、エルザは何事も無いかのようにその現象を受け入れ、レイチェルと共に周囲を警戒した。


 この特異なドロップアイテムの回収法は既にジンが変異種以降の冒険の中で二人にカミングアウトしており、最初こそ驚いた二人だったが今では慣れたものだ。ゲーム時代の仕様が原因で身に付いたこの能力は、『解体』というユニークスキルのようなものだと二人には説明している。


 ジンの能力もあってすぐに全てのドロップアイテムの回収が終わり、早速ジン達は報告の為に村へと移動する事にした。


「マッドボアと戦うと以前の変異種との戦いを思い出しますが、あれから他に変異種が出たという話は聞きませんね」


 村へと移動しながら、レイチェルはそう言った。

 それだけ変異種との戦いは衝撃的で、レイチェルだけでなく三人全員の記憶に焼き付けられている。


「ああ、こればっかりは不幸中の幸いだね。あれから俺達も強くなったとは思うけど、まだまだ正面きって渡り合えるとは思えないからね」


 変異種の出現は、対応する冒険者によっては死を意味する。

 ジンはあれから定期的に〔MAP〕を使い、変異種の発生を警戒していた。幸いあれから出現は確認できていないが、ジンはいざとなればグレッグにこの能力の事をばらしてでも報告するつもりだ。


「しかし街に戻らずに依頼をはしごするのは確かに効率はいいが、街を離れる期間が長い分ちょっと不安になるな」


 エルザが頭をかきながらそうぼやく。

 今回既に二日間を自宅ではなく村で宿泊している。確かにその分効率よく依頼は達成できたが、アイリス達の病気の件などが頭から離れないのも事実なのだ。


「確かにもう二日も街に戻っていないからね。何か分かった事があるかもしれないし、少し急いで戻ろうか?」


「「賛成」」


 ジンの提案に即座に頷く二人。心配なのは皆同じなのだ。

 それに既に薬草の採取も充分な量を済ませているので、真っ直ぐ街に戻っても何も問題ない。


 そうしてジン達は足早に帰路を急ぎ、村での報告を手早く済ませた後に街へと戻るのだった。

次回は4日前後の更新予定ですが、最近だいぶ忙しくなってきており、もしかすると今後更新が遅れる可能性があります。

大変申し訳ありませんが、その時はご容赦ください。


それでは、読んでいただきありがとうございます。今後ともどうぞ宜しくお願いします。

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[気になる点] レベルアップの時のアラート機能をONにしてたはずなのに、 レベルアップに気づいてない という描写がありますけど、大丈夫でしょうか?
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