初めての魔法
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【チュートリアル③ スキルを使ってみよう】 …所持スキルを確認し、使用してください。
「ジンさんは鑑定スキルをお持ちなので、これを鑑定してみてください」
そう言ってクリスはポーション瓶を渡してくる。
「スキルもこれまでと同じです。 使用する事を意識して口に出すか念じてください」
言われたとおりジンは片手に持ったポーションに対して心の中で『鑑定』とつぶやいた。すると不快ではないものの何かが減るような感覚と共に、ポーションから情報が書かれたウィンドウが飛び出してきた。
【HP回復ポーション(小)…HPを20回復する 材料???×??? 備考???】
さっきジンの持物にあったポーションと同じアイテムだが、その時には認識できなかった項目が増えている。『?』マークで情報が確認できないのは、鑑定レベルが低いせいだろう。
「確認できましたね。 それではいったんそのポーションはご返却ください。」
すぐにジンはクリスにポーションを返す。
「ありがとうございます。『鑑定』は主に正体不明な物品の効果を明確にするスキルですが、既に正体がわかっている品に使用する事で、より詳しい情報を知る事も出来ます。今はまだジンさんの鑑定レベルが低いので無理ですが、スキルレベルが上がればより詳細な情報や隠された情報まで確認する事が可能になるかもしれません。そうして得た情報は、『調合』や『鍛冶』などの生産系スキルでも役立つ事でしょう」
悩んだ末に職技スキルを諦めて選んだスキルだっただけに、役に立ちそうなスキルで良かったとジンは一安心だ。
「では今度は『ステータス』と言って頂けますか?」
続けてのクリスの指示だったが、此処まで来るともうジンも慣れたものだ。
口に出さず心の中でステータスとつぶやくと、これまでと同様に問題なくステータスメニューのウィンドウが現れた。
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名前:ジン
年齢:18
職業:自由人
レベル:1
HP:23/23
MP:7/10
STR:13
VIT:12
INT:10
DEX:12
AGI:12
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各項目の詳細は以下の通りだ
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名前…本名。貴族に叙せられるなどで新しく姓を受ける場合もある。
年齢…誕生時は0歳。16歳で成人とみなされる。
職業…所属する団体や職種。職業を得るには各ギルドに登録する必要がある。
レベル…生物としての格。レベルは魔物を倒す事で上昇する。
HP(生命力量)…ダメージを受けるとマイナスされ、0になると死亡する。
MP(魔力量)…魔法やスキル等を使用するか、MPにダメージを受けると減少。
STR(筋力)…力の強さを表す。物理攻撃全般に影響。大きいほど使用可能な装備が増える。
INT(魔力強度)…魔力の大きさを表す。魔法全般に影響。大きいほど呪文の効果が高くなる。
VIT(耐久力)…体の頑丈さや持久力の大きさを表す。被ダメージ量や状態異常を受ける確率に影響。大きいほど使用可能な装備が増える。
DEX(器用度)…手先の器用さや習熟のしやすさを表す。武器や魔法の命中率や生産行動の成功率に影響。スキルの習熟に微影響。
AGI(敏捷力)…素早さや瞬発力の高さを表す。行動速度全般に影響。高いほど俊敏な動きが可能となる。
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ステータスの初期値は、種族による得意不得意に合わせてそれぞれ若干異なる。例えばエルフならSTRとVITそしてHPが若干低く、代わりにINTとMPが高いといった具合だ。
ジンが選んだ種族は人間族で、全種族の中でも平均的な能力を持つという設定だ。そのフラットな能力値にスキル補正分が加わったのが、上記のステータスである。
これらステータスはレベルが上がる毎に僅かに上昇するが、補正スキルがあると上昇する数値が増えるなどの特典がある。
「お気づきかと思いますが、MPが3減っているのは鑑定スキルを使用した為です。このようにスキルを使うとそれぞれのスキルに合わせたMPが消費されます。またジンさんはまだお持ちでありませんが、職技スキルのレベルアップで覚える『アーツ』や『呪文』を使う時も同じようにMPを消費します。MPは何もしていなければ徐々に回復していきますが、座るなど安静にする事で回復速度は2倍になります。またHPは0になると気絶してしまいますが、MPは0になっても特にペナルティは発生しません。とはいえMP0という事は通常物理攻撃しかできないと言う事ですので、いざという時の為に一定のMPを残しておかれる事をおすすめします」
「はい。アドバイスありがとうございます」
確かにうなずける話だ。もしMPが切れた時に強敵と遭遇したら大事だ。MPポーションがあるとはいえ、気をつけておくに越した事はない。
ジンはクリスに心からお礼を言った。
「いえいえ。それではせっかくですのでMPが回復するまでの時間を利用して、ちょっと追加で説明いたします。総合的な情報を見るというイメージで、『メニュー』を開いてもらえますか?」
クリスもとうとう口に出してくれとは言わなくなった。
これまで通りイメージすると、スマートフォンの画面のようなメニューウィンドウが出た。そこには〔基本情報〕〔スキル〕〔装備〕〔道具〕〔クエスト〕〔設定〕の6つが表示されていた。
「そこにある〔道具〕と〔装備〕を開くとチュートリアル①②でやったメニューが開きます。〔基本情報〕を開くと、さっきのステータス等を見る事が出来ます。〔スキル〕は所持スキルの一覧や、職技スキルで覚えた〔アーツ〕や〔呪文〕の一覧、そしてスキルの進化や統合の状況がわかるスキルツリーも確認できます。もちろん条件を満たすまではブランクになっていて、進化の条件などを知る事は出来ません」
どうせチュートリアル中はスキルに変化はない。
一応ジンはスキルメニューは表示させたが、今は見なくてもいいなと軽く流してメニューを閉じた。
「次に〔クエスト〕は、進行中のメインクエストやサブクエストを一覧で確認できます。また、同じメニュー内にログ倉庫とメモ帳があります。ログはそのままでは煩雑でチェックが大変ですので、確認の際には表示する情報の重要度を変更したり、『戦闘関連』や『システム関連』等の条件付けをする事でスムーズに確認出来ると思います。またログの中から抜き出したい重要な情報などがあれば、メモ帳にログからドラッグ&ドロップでコピーするとか、メモ帳に直接書き込んだりキーボードで打つ事なんて事も可能です。噂話が何かの伏線になっている事もありますので、メモ帳の活用をお勧めします」
「いやあ、記憶力には自信が無いので、ありがたいですねえ」
現実では高齢のジンには、ある意味必須の機能だ。
「メモ帳は単体で手元にウィンドウ表示させることも可能ですよ。道具のゲートもそうでしたが、基本的にイメージ次第です。これから説明する〔設定〕にもそうしたカスタム機能があります」
ほんとアドバイスがありがたいなとジンは思う。
十中八九クリスはAIだとジンは思っているが、それにしては此方へのアドバイスに人間味のある気遣いが感じられる。AIでも心が感じられるのであれば人間と変わらんなと、ジンはクリスも含めて今後ゲームで会うであろう登場人物はAIかどうかなど考えず、全員を人間として意識しようと思った。
ジンが説明を受けながらそんな事を考えているとは知る由もなく、クリスは続けて最後の〔設定〕について話す。
「〔設定〕はまさにそのままの機能で、ここでは各種設定が行えます。ヘルプもここにありますので、何かわからない事があればごらんください。設定は現段階では様々な便利機能も制限された状態になっています。内容は本編がスタートしてから確認していただければ充分ですが、地図とナビゲーション機能は便利なので設定をONにされる事をお勧めします。地図は屋外だけでなく、建物やダンジョンも行けばオートマッピングされますし、ナビゲーション機能を使うと目的地への指針も同時表記されますので、迷う事がほとんどなくなると思います。その他にも様々な便利機能がありますので、色々と試してみてください」
方向音痴のジンにとってはとても重要な情報だった。
ゲームで迷子は楽しくない。
「長々と説明しちゃいましたが、メニューに関してはよろしいですかね?」
「はい。とても参考になりました。ありがとうございます」
ジンのクリスに対する好感度はMAXだ。笑顔で心からのお礼を言う。
「それは良かったです。正直デフォルトのメニューはちょっと使いにくいと思いますので、ジンさんが使いやすい様にカスタマイズしてください。それではジンさんのMPも回復したようですので、新規習得された職技スキルの説明をさせていただきます」
「え?」
思わぬ言葉に固まるジン。最初にクリスはチュートリアル中はスキルの新規取得はないと言っていたので、寝耳に水だ。
「不思議に思われるのも当然ですが、木剣と同じようにこれも救済措置の一つです。職技スキルを所持しておらず、かつ3ポイント分以上の魔力系スキルを所持している方に贈られる隠しスキルです」
【無属性魔法…属性を持たない魔法を操る職技 (MAX)】
〔呪文:マナバレット…無属性の魔力の塊を飛ばして攻撃する無属性の魔法 消費MP8 威力5〕
「無属性魔法はスキルレベルがMAXで、これ以上成長しません。また呪文も同レベルの他の呪文と比べると消費MPが多く、威力も落ちます。ただ、遠距離攻撃攻撃手段の有無は重要ですので、少なくとも序盤は重宝すると思います」
参考までと、クリスは同レベルの呪文データを例にあげて説明した。
〔呪文:ファイアバレット…火の塊を飛ばして敵を攻撃する火属性LV1の魔法 消費MP5 威力8〕
確かに魔力系スキルに3P以上費やしておきながら、一つも魔法系の職技スキルを習得していないとなると、武器系の職技を習得していない場合はかなり厳しいスタートになる。普通はそんなやつはいないのだろうが、だからこその救済スキル、隠しスキルなのであろう。威力も低い上消費MPも多く、さらには成長もしないとなればそこまで優遇というわけでもない。コレクター的なものを除けば、わざわざ狙う必要はないであろう。
普通の魔法スキルを覚えたら意味がなくなる魔法。だがそれではジンはどう思っているのだろうか。
もちろん大喜びだった。
「しばらく無理だろうと思っていた魔法が、もう使えるなんて嬉しいです! 本当にありがとうございます。早速教えていただけますか?」
ジンは興奮した様子でクリスにせまる。
「は、はいもちろんです」
ジンがここまで喜ぶのが予想外だったのであろう。さすがのクリスもジンの勢いに押されてしまっていた。
だがジンからすれば当たり前の事だ。
此方を気遣って与えてくれたものというのがまず嬉しい。それがちょっと性能が悪かろうと、何も無いに比べたら100万倍マシだ。
文句をつけるなどジンにとっては考えられないことで、むしろ感謝以外ありえなかった。
それに念願の魔法である。ジンが喜ばないわけがなかった。
「それではあちらを見てください」
クリスが指差す方向には案山子が2体立っていた。
「魔法は対象を決め、自分の魔力を媒体にして力を集め、その力を相手に向けて解放する事で発動します。もう少し具体的に言うと呪文でイメージを練って力を集め、キーワードである呪文名を唱える事で発動するといった具合です。ここでも大事なのはイメージです。最初のうちは決まった呪文を唱える事でシステムアシストが働いて発動可能な状態に持ってきてくれますので、その後自分のタイミングでキーワードで唱えてください。ではまず私がやってみますね」
そう言ってクリスが案山子を指差す。
「マナの力よ集いて我らが敵を撃て『マナバレット』!」
クリスの指先あたりから何か揺らめくものが勢い良く飛んで行き、案山子を弾き飛ばした。
「よろしいでしょうか? それではジンさんもやってみてください」
「はい!」
ジンは人差し指と中指だけ伸ばし、拳銃のような形を作る。そして指先に力が集まる事を意識して、呪文を唱える。
「マナの力よ集いて我らが敵を撃て『マナバレット』!」
クリスの時と同じように魔力の塊が飛んで行き、案山子に直撃した。
ジンは倒れた案山子を見つめたまま、感動した面持ちで魔法の余韻にひたっている。
「はい、完璧です。他の魔法にも言える事ですが全てイメージ次第です。イメージに慣れてくると、キーワードのみの発動も可能になるかもしれません。今後の参考にしてくださいね」
【チュートリアル③ スキルを使ってみよう クリア 報酬:HP回復ポーション(小)】
余韻を振り切り、我に返ったジンがMPを確認すると、残りMPは2になっていた。
「今のジンさんのMP量では連発は出来ませんが、低レベルなモンスターでしたら大打撃を与える事が出来ると思います。レベルアップすればそのうち連発も可能になると思いますので、頑張ってレベル上げしてくださいね」
クリスの励ましを受け、ジンは格好よく魔法を連発する自分を想像してまた心が浮き立つのを感じる。なんといっても魔法にあこがれて半世紀以上だ。ゲームとはいえ魔法使いになれるのが嬉しくてしょうがないのだ。
ジンはレベルアップを頑張ろうと、改めて思うのだった。