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初心者講習開始

 次の日も、ジンはひたすらギルドで訓練を行った。

 朝一番でギルドに向かい、準備運動の後に自主訓練。教官が来れば、その指導の下でみっちりと鍛えられた。


 その日の訓練は弓術中心で行われ、途中の昼休憩を除いて夕方までほとんど休みなしに続けられた。そして訓練終了後に短時間で明日の為の買い物を済ませると、風呂と夕食をとった後は宿で就寝までアリアから借りた本を読み込んだ。

 そして夜が明け、いよいよ初心者講習の日となった。


 ジンは早朝から用意してあった朝食を食べ始め、昨日のうちに宿のお姉さんにお願いしていた弁当を2人前受け取った。

 大きなバケットのサンドイッチにチーズをかけて炙ってもらい、まだ熱々の状態だ。

 ジンは早朝から自分の為に動いてくれたお礼を言い、本来冷ましてからしまうはずのそのバケットを熱々のまま〔道具袋〕に入れた。

 そして今日も美味しい朝食を済ませると、集合時間の約30分前には宿を出た。


 会社勤めの経験があるジンは、約束事の5分前には到着している事が基本だと考えている。その5分間はこれからの予定を整理するなどして、心の準備を整えるのに使うのだ。

 だから時間のロスも考えた実際の到着予定は、約束の10分前に設定している。所謂『10分前行動』だ。


 しかしそれでも30分前に宿を出るのは早すぎるが、その分は準備運動の為の時間のつもりだ。初心者講習の為に今日はいつもより早く運動場が開放されており、集合時間の30分前ぐらいなら既に開いている事は、昨日のうちに確認済みなのだ。


 ジンはギルドに到着すると出勤していた職員に挨拶をして運動場に入り、入念にラジオ体操を含む準備運動を始めた。そしてジンが一通りの準備運動を済ませた頃、ぽつぽつと参加者と思われる人達が運動場へと入ってきた。そして約束の7時になる頃には、参加者全員が揃っていた。


「ようし、全員集まっているな」


 グレッグ教官がそう皆に声をかける。ジンはグレッグがこの場に現れた際に、互いに目礼で挨拶をしている。 


「今回の初心者講習の目的は、お前ら新人が一人前の冒険者になる為の基礎を身に付けてもらい、そして簡単に死なないようにする為のものだ」


 そう言うとグレッグ教官はジン達新人ルーキーを鋭い目で見渡すと、さらに続けた。


「冒険者ってのは基本的に命を張る仕事だ。残念だが、毎年何人も死んでいるのはお前達も知っているだろう。だから出来るだけ死なない為の方法を、これからお前達に教える。気合入れて学べ。いいな?!」


「「はい!」」


 そのグレッグの力強い問いかけに、参加者全員が勢いよく返事をする。

 そうさせるだけの迫力がそこにはあった。


「よし、それではまずお前らを指導する者達を紹介する。まず今回の責任者である俺、グレッグだ。そして俺と同じく教官をしているメリンダ。この二人がギルドの人間となる」


 そう言ってグレッグが紹介したのは、エルフの女性だった。

 ジンにとってはエルフと言えば成長してからは老化しない長命の種族というイメージだったが、この世界では種族による寿命の差はなかった。

 ただエルフは他の種族に比べて老化が遅いという特徴はあったので、あの30前後に見えるメリンダ教官の実際の年齢はわからない。ただ、グレッグと共に教官をしているぐらいなので、その実力は確かなのだろうとジンは思った。


「次にお前達をサポートしてくれる先輩冒険者達だ。お前らは自分で自己紹介しろ」


 そう言ってグレッグは横に並んでいた数名の冒険者達を促す。


「ではまず俺から。『風を求める者』のリーダーをやっているゲインだ。そしてこいつらが同じくメンバーのエイブとムース、全員ランクはCだ。他にもいるんだが、今回は俺達三人が参加する。よろしく頼むな」


 そう言って挨拶したのは、快活な印象の20代前半の男だ。紹介された二人も「よろしく」と、それぞれ一言ずつ挨拶する。


「それでは最後は私だな。Dランク冒険者のエルザだ。私も普段は二人なのだが、今回は私一人の参加だ。よろしく頼む」


 そう言ってエルザはジンと目線を合わせると、ニヤリと笑った。

 エルザとしては悪戯が成功した気分なのだろうが、ジンは先日エルザが言いよどんだのはこういう事かと逆に納得したので別にしてやられたとは思わない。

 かえって知り合いが居る事が嬉しかったので、素直に笑って返した。


 それに笑いかけるだけで直接の接触はしてこなかったと言う事は、エルザは自分の役割をわきまえてジンと話す事を避けていると言う事だ。

 確かに他の新人の前で、自分一人指導役の人物と親しげに話すのは良くない。

 ジンはエルザの配慮にも感謝した。


「よし、それじゃあ今度はお前達新人の番だ。ああ、一応言っておくが、名前と所持スキルを一つだけ言えば良いからな。情報を隠すのは、冒険者の基本だからな」


 そうして今度はジン達新人の自己紹介が始まった。ジンを含め男性4人、女性3人の計7名が今回参加した新人冒険者だ。

 年のころはジンと同じか、若干若いぐらいだろう。初々しくもやる気に満ちたその様子は、ジンにとってとても好ましいものだった。

 思わずお爺ちゃんモードで見てしまいそうになるのを、急いで頭を振ってキャンセルする。

 ここではジンも学ぶべき事が多い新人なのだから、同じ目線で頑張らなければならないのだ。 


「私はジンと言います。スキルは〔剣術〕です。どうぞ宜しくお願いします」


 そのジンの挨拶を最後に、新人全員の自己紹介が終わった。


「よし、細かい事はこれからの講習の中で話す機会もあるだろう。だが重要な情報はお互い教えない事は徹底しておけ。良いな?!」


「「はい!」」


「良い返事だ。それではこれより早速初心者講習を開始する。まずは装備や所持品のチェックだ。今から俺が言う物を前に出せ。まずは主武器メインウェポンだ」


 ジン達が前に掲げた主武器を、それぞれ教官たちがチェックする。目視で武器の状態を確認すると、問題なかったのか次へと進んだ。


「よし、次は副武器サブウェポンだ」


 同じようにそれぞれが前に差し出したが、ここで教官達から駄目出しが入ってきた。


「いいか、基本武器は消耗品だ。戦いの中で使えなくなる事もある。そんな時に大事なのがサブ武器だ。これは前衛も後衛も関係ない。いざという時の準備が命を拾うのだ。そしてまず新人の段階でその武器に短剣を考えている者は、一旦その考えを捨てろ。お前達の中にも何人かいるが、スキル持ちでもない限り対魔獣戦において短剣のリーチの短さは不利な事が多い。特に技術が足りない新人のうちはリーチの短さは致命的だ。逆に対人戦においては有効な場合も多いが、お前らにはまだ早い。ただ短剣は軽いから第三の武器サードウェポンとしては最適なのは間違いないので、接近戦用と割り切って持つ事は良いと思うぞ。不合格の者は、今から俺達と話し合ってどうするか決めるぞ。チェックに合格した者は、先輩達に武装の選択を教えてもらえ」


 そう言うと、グレッグは不合格の4名を連れて少し離れたところに移動する。

 残された新米はジンと女性二人だ。一人は小剣ショートソードを2本所持しており、もう一人は戦槌ウォーハンマーと小剣という組み合わせだ。


「お前らは合格だが、小剣2本持ちのあんたは出来れば1本を打撃系の武器に替えるか、追加した方が良いと思うぞ。小剣は取り回しが簡単な分、どうしても一撃の威力に欠ける場合があるし、刃が通らない魔獣もいるからな」


 そう先輩冒険者のゲインがアドバイスする。レベルが上がればステータスも上がり選択の幅は広がるのだが、低レベルのうちは無理がきかないのだ。


「神官の姉さんは、武器の選択は問題ないと思う。ウォーハンマーは重くて扱いが難しいが、装甲が厚いやつにも有効だからな」


 打撃系の武器は壊れにくい事もあり、あくまで小剣は予備という事なのだろう。

 戦槌は先端の片面がハンマーに、もう片面がつるはしの先のように尖っている武器だ。長柄のタイプもあるが、彼女が持っているのは1mない長さの短いタイプだ。ハンマー側で押し潰す打撃と、尖った方で貫通する打撃も両方いけるという凶悪な武器だ。

 ジンの勝手なイメージでは、神官のローブを身にまとっている彼女には少し似合わない武器だったが、その有効性は疑う余地が無い。


「んで、お前は両方とも珍しい武器を使っているな。組み立て式のロングスピアもそうだが、何より木剣を実戦で使っている奴は初めて見たぞ。それは今後も使い続けるつもりなのか?」


 最後にゲインはそうジンに問いかけてくる。ジンにとっては初めから答えが決まっている質問だ。


「はい。こう見えてこの木剣は丈夫で、ちゃんと使えますので」


「うん、まあ確かに安っぽいつくりではないが、一応今後は変更する事も考えておけよ。武器に対する過度な思い入れは、かえって危険だからな」


 そうジンを諭すように言うゲインだったが、確かにジンの木剣がただの木製の剣であれば的を射たアドバイスだ。思い入れがあるからとレベルアップしてもずっと性能の劣る武器を使い続ける事は、冒険者として自分の首を絞めるものだろう。

 今回は、たまたまジンの武器が普通じゃなかっただけだ。


「はい。ありがとうございます」


 だからジンは笑顔でアドバイスにお礼を言った。実際に此方の身を案じたアドバイスがありがたかったからこその礼だ。

 また、ジンは確かに武器の使い分けは重要だろうと考え、せっかく〔道具袋〕や〔装備〕という便利な機能を使えるのだから、今後色々な武器にも挑戦してみようと思った。


「うん、そうか。ま、必要になったらの話だ」


 ジンの返事に何を感じたのか、ゲインは満足げに頷いた。

 そしてその後はゲイン達に武器の使い分けについての経験談を聞いていると、グレッグ達との話を終えた不合格組が戻ってきた。


「待たせたな。待っていた者も、先輩達の話に何かしら感じるものがあったと思う。不合格組も今から武器を買いに行くわけじゃないが、今後意識して揃えていけ。いいな?」


「「はい」」


「よし、では次に…」


 そうしてグレッグ教官達によるチェックはその後も続いた。防具の装備状態と簡単なメンテナンスの仕方に今後のアドバイス。ポーションや採取道具に剥ぎ取り用のあれこれ等、その他冒険全般に亘る細かい物だった。

 まだまだ資金的に苦しい新米なので、当然全てを揃える事は出来ない者がほとんどだった。しかしだからこそ有意義な物であったと言える。

 もちろんジンにとってもそれは同じで、知らなかった事や意識していなかった事などを学ぶ事が出来て非常に勉強になった。

 そうして全てのチェックが終わると、グレッグはジン達を見渡して言った。


「今回色々な項目をチェックしたが、これらの準備は冒険者として最低限の基礎だ。今後お前達はこれらの事に加え、受ける依頼内容によって必要であれば追加の準備をしなければならない。そしてこの準備段階で、冒険の成否の九割が決まると言っても良い。今回は訓練だから詳しい情報は伏せられていたが、実戦では事前の情報収集と準備を怠るんじゃないぞ。いいな?」


「「はい」」


「よし、では最後に班分けをする。これから目的地まではその班で行動するからな。各々が自分の役割を考えて行動しろ」


 そう言うグレッグによって分けられた班は以下の通りだ。


<一班>

 講習参加者:アルバート(剣術)・シェリー(剣術)・レイチェル(回復魔法)

 アドバイザー:グレッグ教官・ムース・エルザ


<二班>

 講習参加者:カイン(剣術)・ダン(火魔法)・メグ(回復魔法)・ジン(剣術)

 アドバイザー:メリンダ教官・ゲイン・エイブ


 ※( )は各自が自己紹介で宣言したスキル。


 それぞれ3~4人の新人と、それをフォローする3人のベテランと言った編成だ。

 それに新人の女性とベテランの女性とが、それぞれフォローできるように分けられている。第一班はシェリーとレイチェルにエルザがつき、第二班はメグに対してメリンダがといった形だ。 


 ここで新しく『回復魔法』というスキルが登場したが、ジンがこの世界に来る直前にやっていたVRゲーム『ニューワールド&ニューライフ』の設定では、火水風土光闇の6種類の属性魔法しかなかった。しかしこの世界では加えて『回復魔法』『空間魔法』『付与魔法』等の様々な魔法が他にも存在する。


 但し魔法によっては習得が難しい物もある為、一般的なのは基礎魔法とも呼ばれる火水風土の四元素に基づく魔法だ。

 レイチェルやメグが所持している『回復魔法』のスキルは、四元素魔法の次に比較的良く見られる、神殿関係者が目覚める事の多い魔法だ。


 昨日の夜にアリアから借りた本を熟読していたジンは、これらの魔法の存在を知って、改めてここがゲームとは違う現実の世界であることを再確認した。

 そしてそれと同時に、新しい魔法という浪漫の登場にワクワクするものを感じていたのだった。


「よし、それではこの臨時パーティで目的地まで移動するぞ。各々パーティとしての役割や行動をここで学べ。Cランク以上となれば、パーティを組む事はほぼ必須だからな。事前練習のつもりでやれ。では出発!」


 そのグレッグの号令と共に、ジン達は移動を始めた。

 門を出た後に二つのパーティは各々が視認出来る程度に距離をとり、街道を外れて移動した。

 そうしてジンは前衛としての役割だけでなく、後衛の場合に注意する点などをメリンダ教官やゲイン達から学んだ。さらにゲインからはリーダーの心得や、パーティを組む時の注意点なども教えてもらった。


 自分がリーダーとなるかどうかは別にして、いつか自分もパーティを組む事があるのだろうかとジンは楽しみに思った。


 道中を警戒しながら歩いてはいても、新人同士の会話は弾んだ。

 カインは一班にいるアルバートと同門の剣術道場の出身で、二人で冒険者になったばかりと言う事だ。特にアルバートは剣の才能があり、その分ちょっと我が強いが悪い奴じゃないそうだ。

 ジンはこうして二人で冒険者になるぐらいだからそうなのだろうなと思った。


 そして魔術師であるダンと神官の見習いをやっていたというメグ、そして一班にいるシェリーは同じ村の出身で幼馴染だそうだ。

 男一人に女性二人でこれがハーレム状態ってやつかと、ジンは少しだけ羨ましく思ったが、別に爆発しろとは思わない。


 皆ジンより少しだけ年下の、それぞれ良いところのある少年少女だ。

 元の世界の甥姪やその子供達を思い出し、ほっこりするジンだった。


 そのままジン達は歩き続け、目的地まで7割以上の行程を過ぎたところで、一旦合流して小休止を取ることになった。 


「よし、それでは見張りを立てて交代で休憩をとるぞ。一班からは俺とシェリーが出る、二班からはエイブと新人から一人出してくれ。冒険者は早飯も必須の技能だぞ。早く食って体を休めろよ」


「では、最初は私が行きましょうか」


 ジンは特に疲れは感じていなかったので率先して名乗りを上げ、その後エイブと共に10分ほど見張りに立った。

 もちろんこれまでの道中もそうだが、常に〔気配察知〕は行っている。


 しかしわざわざ3交代で休憩を取るということは、この間に新人同士コミュニケーションをとって仲良くなれと言う事だろうかとジンは思う。

 いわば同期のようなものだから親しくなるに越した事はないし、将来のパーティ候補としての見定めの意味もあるのかもしれない。さらにはコミュニケーション能力の訓練といった意味もあるのかなとジンは推測した。


 ジンは割り当てられた時間の見張りを全うすると、代わりにやってきたカイン達と交代した。


 今度の見張りには、新人からはアルバートとカインが出たようだ。

 ジンは残りのメンバーが集まって座っているところに近づいた。


「お疲れさまです。もう皆食事終わったんですね」


「「おつかれ、ジン君(さん)」」


 ジンは労いの言葉をかけられたが、どうやら食事は終わって今は雑談タイムのようだ。ジンも〔道具袋〕からサンドイッチを出して食べる。

 やはり〔道具袋〕の中は時間が止まっているのか、朝出来たばかりの熱々の状態だ。

 ジンはばれないうちに、急いで食べてしまう事にした。


「それにしても、あのアルバートってやつには参ったよ。変に自信満々だし、いきなりパーティに誘ってきたんだよ。もちろん断ったけど」


 食事を取りながらそう苛立ちの声をあげるのは、先程迄見張りに立っていた第一班のシェリーだ。幼馴染に愚痴っているのだろうが、必然的にここにいる全員に話している事になる。


「ああ、確かにそういう所はあるみたいだね。さっきもちょっと微妙な感じになったのを、カイン君が気を使って見張りに連れて行ってくれたしね」


 苦笑いしながらそう答えるのはダンだ。隣でメグも同意して頷いているが、その後もシェリーのおしゃべりは止まらない。

 食事をしながら器用な事だと、ジンは変なところで感心する。


「レイチェルも大変だったんだから。回復魔法が使えるから丁度良いって、あんた一体何様よって、ねえ?」


 シェリーは憤然と同じ班のレイチェルにも話を振った。


「そうですね。困った事は事実ですね」


 一方レイチェルは淡々と答える。シェリーと比べると、少し拍子抜けするほどの冷淡さだ。


 食事を済ませたジンも、会話に参加する。


「同門のカインさんも、ちょっと我が強いところはあるけど悪い奴じゃないと言ってましたし、まだ距離を測りかねているのかもしれませんよ?」


「え~。でも、私はあの人は何か苦手だな~。出来ればもう同じ班に戻りたくないくらいだよ」


 顔をしかめて言うシェリーは、大分アルバートに対して苦手意識を持っているようだ。

 過去の経験から来る老婆心からほっとけず、関係改善の為にジンはさらに口を出す事にした。


「これは、こういう考えもあるんだな程度に聞いてくださいね」


 そう前置きして、ジンは話を続ける。


「人って、必ず良いところもあれば悪いところもあるものですよね。なのに人間って人の悪いところばかりに気付きやすいんですよ。例えば、人の欠点や嫌なところはすぐにたくさん言えるのに、長所や良いところはそこまで簡単には言えないって事はありませんか?」


 どうだったかな、確かにそうかもと周囲が考え込む。その反応を確かめつつ、ジンはまた言葉をつなげる。


「だから他人と接する時は、出来るだけ良いところを探すつもりで接すると良いと思いますよ。そうするとその人の事が苦手でも、どこか認められるところがあるから嫌いにならずに済みます。この講習では私達は仲間ですよね? 相手はどうでもいい人でもなければ、敵でもないです。でしたらその人の事を嫌いになるのは、マイナスでしかありません。嫌いにならないですむなら、それに越した事はありません」


 所謂『美点凝視』の考え方の一つだ。


「う~ん。言っている事は分かるんだけど、君は直接彼と話したわけじゃないでしょう?」


 納得がいかないのか、シェリーがジンに言ってくる。


「はい。でもシェリーさんのお話を聞いていると、アルバートさんって可愛らしいところがあるんだなって思いますよ?」


「「可愛い?!」」


 びっくりして皆が聞いてくる。


「だって女の子達とどう接して良いか分からずに、自分を良く見せようと頑張っている感じがしません? パーティに誘うのだって、少なくともシェリーさん達を好意的に見ていないとしないでしょうし。もっとも、そのやり方が根本的に間違っているのは確かですけどね。でもそういう所を含めて、世間ずれしていない不器用な感じがして、なんか可愛くないですか?」


 アルバートがカインの友達だからこその好意的見方だが、そう笑みをたたえつつジンが言う。

 そしてその言葉を皆が咀嚼し終えると、どこからとも無く笑い声がこぼれだした。


「ぷぷっ、確かにそう考えると可愛いところもあるかも。ぷふふふっ」


 一番文句を言っていたシェリーが一番笑っている。

 そうして皆が笑っているところを見て、ジンはホッと胸を撫で下ろした。

 短期間とは言え仲間なのだから、出来るだけ悪感情は長続きさせず、これで一度リセットしてくれれば良い。

 そうしてひとしきり皆が笑って場が和んだところで、最後にジンは一言付け加える。


「ただ、もちろんこれは彼が何をしても笑って許せと言っている訳じゃありません。もし彼が貴女にとって何か許されない行動や発言をするならば、その時はちゃんと怒ってくださいね。その上で貴女が相手を許せるなら、また良いところを探してあげればいいんですから」


「これまで通り対応して、でも良いところも探して出来るだけ嫌いにならないようにすれば良いって事だね。それなら出来そうだよ」


「良かったです。まあ、これはあくまで私の考え方ですけどね」


 ジンも何とか言いたいことが伝わって嬉しい。その後も交代までの短い時間を、皆で他愛のない話をして楽しんだ。


 ただ、ジンは少し離れたところから驚いたようにジンを見る、引率者達の視線には気付いていなかった。


 そしてその場に居る誰よりも真剣なものが混じっているクラーク神官長の孫、レイチェルの視線にも。

遅い時間になりましたが、何とか間に合いました。

ちょっとだけいつもより長いですが、楽しんでいただけたなら幸いです。

次回更新は3日か4日になると思います。


もし宜しければご感想や評価等をお願いします。

ありがとうございました。

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