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相棒

すみません、いつもよりちょっと短いです。

 それはジン達がリエンツへと帰還した後、ミリア夫婦と共に移住組の有角族がやってきた日のお話。


「トウカちゃん!」


 ジャルダ村からリエンツへとやって来た有角族だったが、当然その中には親と一緒に来た子供達もいる。

 少し前にミリア達との再会を果たしたトウカに声をかけてきたのは、そんな子供達の一人だった。


「ミュゼちゃん!」


 仲良しのお友達との再会に、トウカの顔がほころぶ。トウカが有角族の出迎えをするジンに同行していた理由が、このミュゼを出迎えるためだった。


「来たよ! また遊ぼうね!」


「うん!」


 二人は互いに手を取りながら、笑顔で再会を喜び合う。

 トウカはジャルダ村に滞在していた間に多くの子供達と友達になったが、元々の住人達はもちろん、子を持つ有角族の親達の多くもジャルダ村に残ることを選択していた。そのため、リエンツにやって来た子供の数はそれほど多くはない。ただそんな中でも、同い年で一番仲良くなった彼女がリエンツに来てくれたのは、トウカにとってもかなり嬉しいことだった。


「あのね、私もミリアさんに剣を教えてもらってたんだよ」



 そう話すミュゼの癖のない真っ直ぐな黒髪の生え際からは小さな二本の角が生えており、それは彼女が鬼人族――牛系有角族であることを示している。

 そんな彼女だが、ジャルダ村にいた頃は訓練めいたことは一切していなかった。前の世界で氾濫という魔獣の脅威を経験しているだけに、おそらくは圧倒的な力に対する畏れのようなものがあったのだろう。しかし、だからこそ彼女の中には理不尽な暴力に立ち向かえるだけの強さに対する憧れのようなものも存在していた。

 そしてミュゼはこのリエンツまでの旅の間に心を決め、ミリアに稽古をつけてもらっていたということなのだろう。


「わあ! それじゃあミュゼちゃんと一緒に訓練できるね!」


 トウカはジャルダ村で訓練をしていた時、たまにこちらを伺うミュゼの視線を感じたことがある。ただ、トウカは怖い思いをしてきたであろうミュゼのことを思うと、自分から訓練に誘うことは出来なかった。それがこうしてその怖さを乗り越えてくれたというのだから、嬉しい以外の何ものでもなかった。


「うん! ……あ、ジンおじさん、こんにちわ。これからよろしくお願いします!」


「ああ、こちらこそよろしく」


 トウカの隣にいたジンに挨拶をしていなかったことに気付き、慌ててミュゼは頭を下げる。だが挨拶が遅れたことは別に問題ではないが、二十歳前でおじさん呼びは人によってはかなりショックに感じるかもしれない。

 ただ幸いというべきか、老人だった経験を持つジンにとっては然程・・ダメージはなかった。


「ところでお母さんは?」


 母親であるクララにも一言ご挨拶をと思うジンだったが、ここには娘であるミュゼ一人しかいない。


「お母さんは、あっちで大人の人達と話してます」


 ミュゼが指差した方向を見ると、おそらくは冒険者ギルドの職員であろう人達と一緒に有角族の大人達が話しているようだ。リエンツでの有角族関連の受付は冒険者ギルドに委託することに正式に決まっていたので、おそらくは仕事か今後の住まいについての話であろう。その近くには別の有角族のグループと話し込むバーンやシェスティ達の姿も見える。

 近くに迫ったジン達の結婚式に浮かれるだけでなく、バーン達もキッチリやるべきことはやっていたようだ。


「そっか。今は忙しいみたいだし、クララさんには後で挨拶しとくかな」


「はい。それで、あの、お願いがあるのですが……」


 これから長い付き合いになりそうなので、今後のことを考えてもジンに挨拶をしないという選択肢はない。しばらくここで待っていようと思うジンに、おずおずとミュゼが話を切り出す。


「これからは私もトウカちゃんと一緒に訓練に参加させてもらえないでしょうか?」


 厚かましいお願いかしらと恐縮するミュゼだったが、そんな緊張した様子の彼女にジンは優しく微笑みかける。


「もちろんいいとも。……ただ念のために確認するけど、お母さんの許可はもらっているんだよね?」


 この話の流れを半ば予想していたジンは、もとよりクララにはこの件についても話をしておくつもりだった。もちろん許可が貰えているという前提ではあるが、可愛い娘の友達のためならば、一肌脱ぐのもやぶさかではない。


「はい! いいって言って貰えたらって! ありがとうございます!」


「やったね、ミュゼちゃん。これからは一緒だね!」


 喜ぶミュゼとトウカの様子は、ジンは頬を緩ませるに充分だ。


(ふふっ、トウカにも修行仲間ができたか。ミュゼちゃんも年の割にしっかりしているし、いいコンビになるかもしれないな)


 トウカと同年代であるミュゼも、将来の仕事を何にするか決める時期にきている。現段階ではミュゼがトウカと同じ冒険者を志しているかどうかはまだわからないが、仮にそうだとしても途中で訓練を止める可能性もゼロではないし、他にもっとやりたいことが見つかる可能性だってある。だが、それも含めて成人までの準備期間だろう。

 成人まであと約六年。その間に懸命に努力を続けさえいれば、将来冒険者以外の職業に就くとしても、何かを学んだ経験は無駄にはならないものだ。


「お母さんにちゃんと話してからにはなるけど……」


 あくまで母親に許可をもらってから。ジンはそう前置きをして続ける。


「明日も午前中から家の庭で訓練をするつもりなんだけど、来るかい?」


「はい!」


 ジンからの訓練の誘いに、間髪入れずに笑顔で応えるミュゼであった。



 鬼人族の少女ミュゼ。

 彼女は元の世界の『氾濫』で兵士だった父親と生き別れ、母クララと共に新たに有角族としてこのテッラで生きていくことになった。

 だが、彼女は父との別れという悲しみを乗り越え、更には魔獣に対する恐怖も乗り越え始めている。それはまだか細く頼りないものでも、彼女には一緒に努力する仲間が、そして師となる者がいる。


 鬼人族改め牛系有角族の少女ミュゼ。

 近い将来、彼女は名実ともにトウカの相棒となる。

暖かいお言葉をありがとうございます。

母は明日抜糸予定ですが、水仕事ができない状況は変わりませんので、慌ただしい状況はまだしばらく続きそうです。


書籍化作業もですが、新作の方も取りかかれていませんので、ちょっとスローペースになるかもしれません。申し訳ありませんが、どうかお付き合いのほどをよろしくお願いします。


ありがとうございました。

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