表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/207

戦闘の終わり

 ギチギチと蟻モドキが大顎を鳴らす。 その数は軽く10匹以上はいるだろう。 そのプレッシャーに負けないよう、ジンは無理やり笑う。

 仲間を2匹もやられたからか、此方を警戒して動かない。 この間に何とか自分の有利な形に持っていかないと危ない。 ジンは頭を回転させる。


 強い敵が居ないはずのこの森でこんなに大量の魔獣が湧いているのは、あきらかに異常事態だ。 『パムの花』の数が少ないのもこいつらのせいである可能性は高い。 本来なら逃げる事を第一に考えるべき場面だが、こいつらが『パムの花』を食べるのならそれは出来ない。 何とか全滅させるか、追い払うしかない。

 1匹1匹はそこまで強くないが、さすがにこの数は脅威だ。 できるだけ1対1に近い状況にもっていかないと、その物量に負けてしまう。

 まずは強力な魔法で少しでも敵を減らす。 ジンはいつでも対処できるようにこっそりと呪文を唱え始める。 そして何か不穏な気配を感じたのか、前方にいた3匹がこちらに向かって襲い掛かってきた。


「マナよ集いて敵を撃て、『マナライフル』」


 蟻モドキが動きだした直後に呪文を唱え終わり、キーワードで発動する。 放たれた魔力のライフル弾は敵の1体を貫くと、その勢いのまま弾き飛ばした。 ジンは魔法を発動した後、すぐに自らも正面の残り2匹に向け突っ込む。 そして魔法で弾き飛ばして空いたスペースに体を入れ、すれ違いざまに蟻モドキ目掛けて横殴りに剣を振るった。 そしてそのまま駆け抜けて距離をとろうとする。 既に背後からは多数の蟻モドキがこちらに向け動き出しているのを感じる。 攻撃の手ごたえはあったが、結果を見る事無く走りながら再度呪文をつぶやく。 そして直近に感じた背後の気配に向け、振り向きざまに魔法を発動する。


「…『マナバレット』」 


 呪文は命中したが倒しきれていない。 その1匹はダメージを受けひるんだものの、別の1匹がジンに向け鋏を振り上げ飛び掛ってくる。 


「くっ!」


 なんとか攻撃をかわしたものの、かすった鋏がジンに傷みを与える。 この世界に来て初めて感じる痛み。 しかしこれこそが自分の望んだ事だ。 続々と蟻モドキが集まってくる。 ジンは負けるものかと気合をいれ、夢中で剣を振るう。 1体を倒せばまた別の1体が、それを倒そうと剣を振るうとまた別の個体が攻撃を仕掛けてくる。 次々に増える敵に対し、ジンはただ必死に剣を振り、攻撃をかわす。 もちろん全てを回避できるはずもない。 次第にジンに攻撃が当たる回数が増えてくる。

 その度にジンを襲う痛み。 ジンの体には傷一つなかったが、痛みはそのままジンを襲っていた。 これまでの人生で経験した事がない種類の痛みがジンを襲う。 刃物や鈍器のようなもので殴られる痛みは強く、ジンの心を折らんばかりに攻め立てる。 

 そしていつの間にか背後に回った1体からまともに一発を喰らった。 


「ぐううっ!」


 あまりの痛みと衝撃に息が詰まりそうになるジン。 

 だが攻撃されれば痛みを感じるのは当たり前の事なのだ。


かあっつ!」


 ジンは大きな声で叫び痛みに折れそうな自分の心に活を入れ、そして蟻モドキ達を睨み付ける。

 その声に驚いたかのように蟻モドキの動きが止まった。 何が起きたのかは分からないが、その隙にジンはHP回復ポーションをイメージで使用する。 そして再び動き出そうとしている相手めがけて再び剣を振るった。


 ただひたすらに剣を振り、回避し、攻撃をくらい、そして痛みに耐え、また剣を振る。 牽制に魔法を放ち、時間を作っては息を整えつつポーションで体力と魔力を回復する。 そうした事を繰り返していく中で、徐々にジンの動きや行動に変化が現れてきた。


 当初に比べジンの剣が与えるダメージが増えているのか、一発で沈む個体も何体か出てくるようになった。 敵の攻撃も剣で上手く流したり、時には強引に受けてはじき返す等、受ける攻撃の処理が格段に上手くなっていった。 その動きの全てが無駄なく、そして洗練されてきていた。


 また魔法についても変化が現れてきた。

 まず呪文の「マナよ集いて敵を撃て」が「準備」の一言に変わった。

 ジンは無意識のうちに「準備」の一言に「マナ」「集う」「敵を撃つ」の3つの意味を込めて使い始めたのだ。 そしてそれを使い続け、次第にキーワードの「マナ」の部分で「準備」の意味をイメージして、「バレット」で発動し始めた。

 つまり『マナバレット』というたった一つのキーワードのみで魔法を発動させるようになったのだ。


 ジンは心に浮かんだ閃きや動きを必死で行い、ただ無我夢中で戦い続けた。 もう自分が何匹の蟻モドキを倒したのか分からなくなっていたが、ジンの心は折れていない。 まだ残る多くの蟻モドキに向け必死で剣を振るう。 そしてその剣が蟻モドキの甲殻を撃ち付けると同時に、その剣身の半分程度のところから音を立てて折れた。


「っ!?」


 剣が折れて動揺してしまったジンに別の個体が攻撃を仕掛けてくる。 ジンは折れた剣で何とかその攻撃を捌くと、蟻モドキの体目掛けて思いっきり蹴りを放った。


 ドガッ!


 大きな音を立て、 蹴られた蟻モドキは後ろの個体も巻き込みながら吹き飛ぶ。 思っていた以上の威力に驚きつつもすぐさま折れた鋼鉄の剣を手放し、左手で木剣を抜いて構えなおす。 そして再度戦いへと没頭していった。


「はあ、はあ、はあ」


 ジンは荒い息をついて立っている。 呼吸を整えながら周囲を警戒するその周りには、おびただしい数の蟻モドキが横たわっていた。 


 一見戦いは終了していたかにも思える状況だが、戦いはまだ終わっていなかった。 数匹の蟻モドキと共に現れたそれは、大型犬どころか牛よりもさらに一回り以上巨大な蟻モドキだった。 全体的なフォルムは似ているものの標準個体と比べて明らかに大きい胴体等、いわば女王蟻に相当するものだろうとジンは判断する。

 そしてその女王蟻と蟻モドキはゆっくりと此方に近づいてくると、いきなり女王蟻はジン目掛けて口から液体を吐き出した。 初めての遠距離攻撃だったが、ジンは大きく飛びのいて回避する。 先程までジンが立っていた地面はジュッという音と共にそこにあった草などが溶けていた。

 女王蟻の攻撃を合図に、残りの蟻モドキもこちらに迫る。 女王蟻は蟻酸を飛ばして蟻モドキを援護する為、ジンも遠距離攻撃を気にして苦戦してしまう。 

 だが時間は少しかかったものの、ジンは女王蟻の攻撃直後の隙を狙って何とか残りの蟻モドキを倒した。 そして残すは女王蟻との1対1の対決となった。


 ジンは距離をとって女王蟻を警戒したまま、イメージして女王蟻と自分のHPとMPをバー状態で表示する。 青色と赤色のバーで表現された女王蟻のHPとMPは共に満タンだ。 一方ジンのHPは約1/2、MPも1/5程度しかない状態だった。 ジンはここが決戦だと判断し、先程までの戦闘で使用した残りのHP回復ポーションとMP回復ポーションを1個をずつ使用する。 これで残りはHP回復ポーション1つのみだ。 HPもMPもほぼ満タンになり決戦の準備を終える。


 そしてジンは魔力を練り上げるという意味だけではなく、挑発の意図も込めてあえて呪文を唱える。


「マナの力よ、ここに集いて形を成し、そして我らが敵を撃ち倒せ…」


 その呪文が終わらんとするかしないかのタイミングで、女王蟻がこちらに蟻酸を吐き出す。 だがそれはジンが誘い、狙っていた行動だ。

 ジンは慌てず思い切りよく斜め前に突っ込んでかわす。 そしてそのままダッシュして距離を詰めると、続けて呪文で練り上げた確固たるイメージと共に呪文を発動させる。


「…『マナライフル』!」


 距離を詰めて撃った魔法は、女王蟻の黒い甲殻で覆われていない胴体に命中して弾けた。


「ギギィッ」


 女王蟻は胴体部分から白い液体や内臓を撒き散らしながら暴れる。 無我夢中だった蟻モドキとの戦闘とは違い、冷静な今ではジンにとってかなりショッキングな光景だ。 思わず一瞬固まってしまったジン目掛け、女王蟻が至近距離から蟻酸を吐き出す。 その一瞬の反応が遅れたジンは、かわし切れず右腕から胸にかけて蟻酸を浴びた。


「がああああああっ!」


 これまで以上の激しい痛みがジンを襲う。 実際の体はそうでなくとも、体が溶けていく痛みは実際のものだ。 また、蟻酸が体にまとわりついたままだからだろう、これまでの瞬間的な痛みではなく継続した痛みだ。 ジンのHPもどんどん減っていく。


「ウォータ!」


 咄嗟にジンは自然魔法のウォータを唱え、水を呼び出して蟻酸を洗い流そうとする。 だが痛みに気をとられて場所も量も無意識にしか指定していないその魔法は、ジンの想像以上の水の塊として頭上に現れ、蟻酸を洗い流すと共にその水量でジンを地面に叩き付けた。


「がっ!」


 蟻酸からの痛みからは解放されたものの、水に打ち付けられて息の詰まるジン。 そして倒れて必死に体勢を立て直そうともがくジンに、女王蟻が近づく。 そして少し上体を反らして蟻酸を溜めると、止めとばかりにジンに向けて吐こうとしてきた。

 水で木剣も流されたジンの攻撃手段は魔法しかない。 ジンは必死に魔力を練り上げ、狙いを定めると即座に魔法を発動した。


「マナライフル!」


 まさに間一髪のタイミングでジンが放った魔法は狙いを違えず女王蟻の大顎の中に飛び込むと、その頭を吹き飛ばした。 

 ゆっくりと大きな音を立てて倒れる女王蟻。 そしてようやく確認できた女王蟻のHPは0になっており、バー自体は灰色になっていた。


 ジンは周囲に敵の気配がない事を確認すると、ずぶぬれのまま大きく息を吐いてその場に片膝を抱えて座り込む。


「きつかったー」


 思わずジンはつぶやく。 これは九州地方の方言で、通常意味する「つらい、厳しい」に「疲れた」という意味も足した言葉だ。


 ジンは自分の我侭で痛みのリミッターを無効にした。 せっかくの厚意に対し申し訳ないとは思うが、ジンはこの事自体は後悔していない。

 しかしそのせいで受けた痛みがジンにとって厳しいものであった事は事実だ。  また女王蟻の傷を見て固まってしまうなど、覚悟が足りていない事が多かったとジンは反省していた。 チュートリアルでもらったポーションや、クリスからもらったHPを自動回復する指輪がなかったらどうなった事か。 自分のこの世界に対する向き合い方はまだまだ甘いと、もう一度真剣に考え直す必要を感じた。


 そして短い休憩を終えると、蟻モドキ達のドロップアイテムの回収を行った。 基本的に死体に触れるだけで済むので時間はかからない。 女王蟻も含めて全ての回収が終わった。 


「南無阿弥陀仏」


 ジンは手を合わせてそう唱えた。 ジンはこの時凄く後悔をしていた。 まだこの世界をゲームだと思っていた頃、スライムと戦い倒した。 そしてアイテム回収もせずスルーしてしまったが、それがゲームではなく現実だったのだ。 この蟻モドキ達はちゃんとドロップアイテムを回収され、その品々はギルドを通じて世の中の役にたつのだろう。 しかしスライムはただ殺されただけで、後の世の役に立つ品を残す事無く消えた。 そう思うとジンは申し訳ない気持ちで一杯になってしまう。 本当に色々と自分は足りていないと反省するジン。


 思考の袋小路に迷い込みそうになったジンは、このままじゃいけないと気持ちを切り替えて目的の『パムの花』の採取へと移った。

 幸いにも戦闘前に場所を移したおかげか、花に被害はない。 ジンは一輪一輪を丁寧に採取して採取容器の中に収める。 これで先に集めた3つも合計して12個の花を採取する事ができた。 そしてゲートを呼び出し〔道具袋〕に収めようとしたが、前回と違って根から全部そのままの状態ではないからか、今回は何事もなく収納する事が出来た。


 そして最後にもう一度蟻モドキ達の方を見ると、どれもぐずぐずと溶け去るように消えていくところだった。 倒した魔獣はこのように倒してしばらくすると少しずつ消えていく。 先程のアイテム回収で魔石や甲殻等がドロップアイテムとして入手できたが、この魔石と呼ばれる魔獣の力の源がなくなる事で体の維持ができなくなるのだそうだ。 もし魔石が回収されないまま放置された場合は、もっと時間をかけて消えていくのだ。


 ジンはもう一度手を合わせて一礼すると、街に戻るべく街道を目指す事にした。



ご意見ご感想本当に感謝です。 ありがとうございます。 ご意見ご感想を受けて自分も思うことがあり、前回の話を少し変更しました。 皆さんの違和感やモヤモヤを解消すべく若干の加筆修正を行いましたが、話の流れは変わりません。 大きく変わったのは〔ダメージ再現率〕の消去が、設定OFFに変わった事くらいだと思います。 少しはよくなっていると良いのですが…


今回で戦闘回は終わりで、次は説明回になるかと思います。 更新は19日以降の可能性が高いですが、書きあがればすぐ投稿するようにします。


宜しければ此方のモチベーションが上がりますので、ご意見ご感想や評価、お気に入り登録等をいただけますと嬉しいです。


それでは、出来ましたら今後ともおつきあいを宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 文章に変な空白がずらずらとあって読みにくい
[気になる点] HP回復ポーションとMP回復ポーションを1個をずつ使用する。 ※「をずつ」→「ずつ」
[良い点] ダメージ設定のやつで正直「えぇ…」ってなったけど 得るものがちゃんとあってスッキリした [一言] これからも頑張ってください
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ