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会議

 翌日になると、バーン達は個人、もしくは家族単位で有角族全員に面談していく。


 そこでバーンは彼らの希望や不安など様々な情報を聞き取りし、不安に対しては今後の予定も含め包み隠さず話をすることで安心感を与えていった。 

 その姿は王子という近寄りがたい者でも、あきらめの悪い恋する男でもない。自分達有角族に対して責任を全うしようとする頼れる男の姿だ。


 有角族のバーンに対する評価は上がっていたが、そんな事は意識することなく、バーンはシェスティやジン達と共に有角族の今後について話し合いを重ねていく。

 この日の話し合いに参加したのは、バーン達四人とシェスティ、ファリス、ティアといった三人の有角族、そしてジン達四人と村からはミリアが出席していた。


「――振り分けはジャルダ村とリエンツの街に半々くらいか。ただリエンツの街に行く者達の中には、もしシェスティさんが別の場所に行くならそこに同行したいという者が二十名ほどいるな」


 バーンが聞き取りの結果を簡単にまとめる。今のところシェスティはリエンツで職につくことを希望しているため、このままいくと有角族はジャルダ村とリエンツの街に半々に別れて住むことになりそうだった。


「この村に残る人達に関してはもう根回しは終わっているよ」


 ミリアが村の代表として現状を語る。

 農家として残る者は元の世界の野菜や果物の栽培に取り組んでいたし、職人として残る者はマキシムのようなこの村に元々住んでいた職人達と協力して有角族の文化を表現した新しい特産品を作り上げようとしていた。

 また、彼らが住む予定の家造りも既に始まっている。


「リエンツの街で冒険者になる人達についてはグレッグさん達が根回しは終わらせているだろうけど、一般の仕事に就きたい人達に関しては向こうで実際に話してみるまではわからないだろうな。さすがに全員がすぐに希望する職種に就けるとは思えないから、少し時間がかかるかもしれない」


 ジンは推測交じりで話さざるを得なかったが、それが的外れということはないだろう。いくら大きなリエンツの街とはいえ、必ずしも希望を満たす求人があるとは限らなかった。


「なあ、彼らの生活が安定するまで、一時的に物件を国が借り上げて格安で貸し出すか、もしくは家賃の補助をすることはできないか? 最初の一年か二年くらいの期間限定で、相場の半分くらいの負担で済むようにするとかさ」


 続けてジンが提案したこれは、バーン達にとって新鮮な考え方だったようだ。


「……それはいいかもしれん。単純に補助金としてまとまった金を渡すつもりだったが、下手に大金を持たせるとよからぬ輩が寄ってくるかもしれないしな」


「いっそ住宅費は全額補助にしてもいいんじゃないか? 一年か二年くらいならそれくらいの予算はあるだろう」


 バーンに続いてクルトも賛意を示す。単純に補助金を渡すよりも手続きは面倒になるが、それはあくまでこちら側の話だ。ただ、問題がないわけではない。


「いいアイデアだとは思うけど、ジャルダ村に残る人達には当てはまらないんじゃないかしら? 彼らが住む家が一瞬で全部できるわけじゃないし、それまでしばらく宿屋やテント暮らしをしなければならない人もいるわ。一括して住宅費の全額補助では不公平よ」


 資金的な問題もあるため、現在新築されている家は全てジャルダ村が建築し、そして有角族の人々に貸し出す形をとる。将来的には売却もしくは譲渡の可能性はあるものの、当然それまでは家賃が必要だが、村としては家賃による儲けは考えないので決して高くはない。

 確実にリエンツの街でかかる平均的な家賃よりも安くなるため、ヴィーナが指摘したとおり一括しての家賃補助では不公平感は否めなかった。


「それに有角族同士じゃないカップルも何組ができそうだよ? 嫁か婿かはわからないけど、元からある家に入る場合は家賃も何もないからね」


 さらにミリアが新たな問題点を提示する。元々ジャルダ村にいた者達と有角族との婚姻は喜ばしいことではあったが、そもそもの家賃が不要となれば前提は崩れてしまう。


「この件で私からも相談があるのですが……」


 どうやらこの有角族に対する補助の内容についてはシェスティも前々から考えていたようで、遠慮がちに口を開いた。


「私は王族としての最後の役目として、些少ですが有角族の皆全員に支度金を渡すつもりなんです。まだ具体的な金額はわかりませんが、そちらも念頭に置いていただければと」


 それは立派な考えではあったが、有角族の財政状況を把握しているティアには一つ疑問が残る。


「姫様? ジンさんや村の方々のご厚意でこれまでかかった費用はなんとか手元の資金で間に合いそうですが、まとまった額を全員に分配できるほどは残らないはずですが……」


 緊急事態だったのでシェスティ達はほとんど着の身着のままで『転移魔法』を発動せざるをえなかった。かろうじて護衛団の物資の一部を持ち込めたものの、結果的にこの世界に持ち込むことができたお金はそれほど多くはない。資金的にはかつかつのはずだ。


「それは私が持っている宝石や装飾品を全部売って作るつもりよ。これからは一般人として生きていく私には必要がないものですからね」


 シェスティ達がこの世界に来るきっかけとなった集団転移の際、ほとんどの人々が着の身着のままで避難する中、護衛団の物資については多くが持ち込まれていた。それは万一の時のための対策として当然の判断だったし、実際それで助かったのも事実だ。だが、そんな護衛団の物資の中でも、最優先で確保されたものがシェスティの私物だったのも事実だ。

 それは彼女が王族だったからこそ優先されたわけだが、であるならば、もうすぐ一般人となる前に王族として出来ることをしなければならないとシェスティは考えていた。

 ただ、この判断を尊いものであるとは思いつつも、眉を寄せる人もいた。


「……シェスティさん。手放すおつもりの品々は貴女の個人的な持ち物で、しかも元の世界の思い出の品のはずですよね? 王族として民のためにそこまでする貴女は尊敬に値しますが、それでも自己犠牲が過ぎると私は思います」


 それを真っ先に口にしたのがバーンだ。シェスティの判断を尊重したいとは思いつつも、バーンは彼女のことを想うからこそ忠告めいたことを言わずにはいられなかった。

 ただ、バーンの言いたいことはこれで終わりではない。


「……ですが貴女がそうしたいと思った理由もわかりますし、その考えを尊重したいとも私は思います。なので売ることは反対しませんので、せめて一つくらいは手元に残しておきなさい」


 バーンは優しい眼差しでシェスティを見つめる。


「それ以外の売るものも私が全て買い上げますので、いつでも買い戻したくなったら言ってください。……っと、私が相手では駄目か。フェルかヴィーナにお願いできるか?」


 話の途中でバーンはシェスティを諦めていない自分が窓口では彼女もやりにくいであろうことに気付き、彼の婚約者であり、シェスティと友人でもあるフェルとヴィーナに話を持ちかける。


「もっちろん! もしバーンが言わなきゃ私が言うつもりだったからね」


「ふふっ。私もバーンが言ってくれて嬉しかったわ」


 フェルは弾むような声で応え、ヴィーナも満足そうに微笑む。二人はこれでこそバーンだと、自分達の見る目の確かさを再確認していた。


「皆さん……」


 シェスティは潤んだ目でバーン達を見つめる。現在手元に残っている品々は全て元の世界の思い出の品ばかりで、本当なら手放したくなかったのは事実だ。

 シェスティは忠告を受け入れ、感謝と共にバーン達の厚意に甘えることにした。


 この日は有角族の援助内容についての話で終始することになったが、結局結論がでることはなく、この議題は後日再度話し合うことになる。


 だが、話し合わなければならないことはこれ一つではない。

 しばらく話し合いは続きそうだった。

色々なご意見、ご感想が参考になります。いつもありがとうございます。


流れは決まっていますし、全てに応える展開にするのは不可能ですが、参考にしながら書籍版の方に反映したいと考えております。


次回は少し早めにお届けするつもりです。


ありがとうございました。

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