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着地点

「――以上を持ち、我らが世界に有角族という新しい仲間が増えたことを宣言する!」


 謁見の間にたたずむシェスティ達有角族四名を、参列していた貴族達の万雷の拍手が包む。

この日この時を以て彼ら百余名はナサリア王国の国民として認められ、同時にしばらくは国の保護下に入ることになった。専門の対応窓口が設けられ、トラブルの発生を未然に防ぐ取り組みもスタートする予定だ。


 また、同時に神殿からもこの世界に新種族が現れたという宣言が出されている。そこでは神殿らしく神話と絡めながら、喜ばしい出来事として伝えていた。


(これで一安心だな)


 ジンは自身も拍手を贈りながら、すぐ近くで嬉しそうに涙ぐむシェスティ達を満足げに眺める。

この場にいるのはシェスティ達だけではなく、ジンを始めとした『フィーレンダンク』の四名もこの謁見の間の中央に並んでいた。アリア達も二カ月近くに及んだシェスティ達の努力と苦労を目の当たりにしているため、少し目が潤んでいる。


 この場にトウカとシリウスはいないが、別室でフェルやヴィーナと共にお留守番してくれている。友人である彼女達が一緒にいてくれる上に、ジンも『地図(MAP)』で何かあればすぐわかるようにしているので、離ればなれではあってもひとまずは安心だ。


「なお、しばらくは混乱することも予想されるため、我が子バスティアンを有角族に関する全ての責任者とする。バスティアンよ。有角族がこの地にしっかりと根を下ろすことが出来るように尽力するのだ」


「はっ! このバスティアン、喜んでその任を拝命いたします!」


王の任命を受け、バスティアン――バーンは力強く承ったと宣言する。

国王の宣言に加えて実質的な差配も王子であるバーンがするとなれば、たとえよからぬ事を考える者がいたとしても、迂闊にちょっかいを出すことはできないだろう。心情的にいっても、面識のあるバーンならばシェスティ達も安心できるはずだ。

 そしてシェスティのことを憎からず思っているバーンにとっても、彼女達の力になれることは嬉しいことでもあるのは間違いない。

 これで有角族については一応の決着を見たが、まだ全てが終わったわけではない。再び王が口を開く。


「――そして彼ら有角族が招かれた直後からその手助けをし、この王都まで導いてきた者達がいる」


 謁見の間にいる貴族達の視線がジン達に集中した。


「また、その彼らは三カ月ほど前にリエンツを襲った『暴走』を撃退するために尽力し、その功第一だと冒険者ギルドより正式に認められた者達でもある」


 この時点でジン達が『フィーレンダンク』だと気付く者も出始める。到底信じられないような噂は王都の貴族達にまで轟いていた。


「彼等の名は『フィーレンダンク』。そしてそのリーダーたるジンは、その戦いで聖獣より守護者を任じられたと聞いている。なお、これは神殿より正式に認められた称号である!」


 謁見の間をどよめきが満たす。神殿が認めたとなれば、噂が真実ということになる。また正式に聖獣と関わりを持ったと認められるなど、この国の歴史上初めてのことだった。


「彼は聖獣と共に戦い、聖獣の力を借りて様々な奇跡を起こした。特に『暴走』を一人の犠牲者も出すことなく撃退したことは、奇跡といわずとしてなんと言おうか。それは聖獣の力あってのことかもしれぬが、それだけ彼の者が聖獣の信頼を得ていたということでもあろう。もちろんそれは望外の幸運があってのことかもしれぬが、例えそれが一度限り・・・・の奇跡だとしても、私はその功績を賞賛せずにはいられぬ」


 色々と誤魔化してはいるが、ジンがペルグリューンの力を借りて『暴走』を撃退したことは嘘ではない。周囲に一度限りの奇跡だと思わせているのも、事前に打ち合わせていた通りの内容だ。


「彼等はまだBランクであるが、リエンツの冒険者ギルド長、グレッグ殿よりその実力は既にAランクに匹敵すると保証されている。事実、彼等はグレッグ殿等と共にAAランク相当と思われる魔獣に挑み、これにとどめを刺したのも『フィーレンダンク』のジンだった。その実力は疑うまでもないだろう」


(むずむずする……)


 爵位を与えるために持ち上げなければならないのは承知していても、ジンにとっては褒め殺しにしか思えない。非常に居心地が悪かった。


「よって『フィーレンダンク』を代表し、ジンに爵位を与えることにする」


(いよいよか……)


 ジンは改めて覚悟を決める。ここで爵位を得られても、全ての問題が片付くわけではない。リエンツではシリウスが聖獣であることを自分の目で見て知っている者が一定数いたし、推測している者となるとかなりの数になるだろう。『古代魔法』や魔獣を閉じ込めた巨大な壁についても目にした者は多く、聖獣の力という言い訳を全ての人々が信じるとは限らない。


 貴族という立場になることで余計なちょっかいを減らすことはできるだろうが、完全に無くすことは不可能だろう。

 それでも絶対に家族を守ると、改めてジンは心に誓う。


「『フィーレンダンク』のジン、汝の功績に対する褒美として、ナサリア王国国王ザンスティンの名において子爵に任ずる!」


(は!?)


 男爵ではなかったのかと思わず顔を上げるジンだったが、それで終わりではない。ザンスティンはニヤリと人の悪い笑みを浮かべると、続けて口を開く。


「だが本人の自由と希望を尊重し、この子爵位は名誉爵とする。貴族の義務を求めない代わりに、貴族の権利も与えない。また、その任期は一代のみとする」


 男爵と子爵の違いはあれど、内容は希望していた通りのものだ。ホッとしたジンは笑顔を浮かべるが、これで褒美と言えるのかと周囲はざわついていた。


「その代わりといってはなんだが、そなたがの望むのであれば我が国は全力でお前を支援することを約束する。ジンよ。我が国の誇りある貴族としてそなたに求めるものは一つ。冒険者として、貴族として、自由に、そして誇りを持って行動して欲しい」


 公式な場で宣言した以上、それは確かな力を持つ。この全力で支援するというザンスティンの言葉が、ジンが最も欲っしていたものだった。


「私の希望を最大限に叶えていただき、これ以上に嬉しいことはありません。私はこの国に住まう者の一人として、この国を愛し、この国で生きて参ります」


 ジンは満面の笑顔で王に応え、それを見た周囲もこれが本当に彼の希望だったのだと理解した。ただ旨味がほとんどない今回の子爵位に対する妬み嫉みは皆無に近かったものの、もったいない真似をと内心で嘲るものは幾人かいた。


「そして冒険者を辞めたくなったら、いつでも言ってくれ。今回はそなたの希望を叶えたが、本来なら手放したくない人材だからな。その時は国政に携わるしかるべきポストを用意しよう」


 だが、最後にザンスティンが付け加えたこの台詞を聞いてもなお、ジンのことを軽く見る者はいなかった。


 とはいえジン自身はこれに対しては明確な答えを出すことなく、にっこりと微笑んで頭を下げることで応えるのであった。


お読みいただきありがとうございます。


ここしばらく体調不良が続いており拝見するのが遅れるかもしれませんが、どうぞ忌憚のないご意見ご感想をお聞かせください。


ありがとうございました。

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