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提案

 その後当然のごとく詳細を語る羽目になったジンだったが、聞けば聞くほどその規格外さにバーン達は驚くばかりだった。中でも彼らを一番驚かせたのは、ジンが今もなおシリウスという『暴走』で力を貸した聖獣とは別の聖獣と共にいるという事実だった。


「これが他国よそにバレたら洒落にならんぞ……」


 クルトがやれやれと頭を振る。

 聖獣とは世界の調整役と伝えられる伝説の存在だ。その目撃情報はこの数百年でも数回しかなく、しかもリエンツで見せたような本格的な介入は、それこそお伽噺にまで遡る必要がある。その聖獣がこの国にいると知られてしまえば、伝説の存在を一目見ようと各地から人々がジンの元へ押し寄せるだけでなく、多くの国から訪問要請がくるだろう。それを受け入れればジン達の自由が著しく制限されることになるし、受け入れなければこの国は他国から聖獣を独占していると非難される可能性もある。


 いずれにせよもしこの情報が他国に流れてしまえば、いくらこの国の後継者であるバーンでもジンを守り切れなくなるかもしれなかった。


「シリウスの聖獣姿を見た人は多いから噂が流れるのは止められないかもしれないけど、俺は大丈夫だと思うよ」


 今のところ噂はジン個人に集中しており、聖獣の話は一角獣の姿をしたペルグリューンについてがほとんどだ。『暴走』のインパクトが大きすぎたのか、その直前にあった地震のことや、その際に狼型の聖獣が活躍したなどという噂はほとんど聞こえてこない。

 ジンはリエンツの人々に家族の情報を広めないで欲しいとお願いをしているが、それを彼らはしっかり守ってくれているのかもしれない。


「わかっているとは思うけど、この情報の取り扱いには特に注意してよ? ……私達を信用してくれるのは嬉しいんだけど、ちょっと心配よ、私」


「ありがとう。でもちゃんとそのあたりは考えている……よね?」


 フェルの気遣いに笑顔で返すジンだったが、途中でちょっと不安になり、視線をアリアへ向ける。特に彼女には普段から気苦労をかけているという自覚はジンにもあったようだ。


「大丈夫でしょう」


 いつもこうなら助かるんだけどと、アリアは苦笑しながら応える。

 これまでジンがシリウスのことを話したのはシリウスにとっても家族となる相手と、話す必要がある相手だけだ。その上でシリウスの力や聖獣の習性など、伝えるべきではない情報はちゃんと制限している。

 シェスティ達もシリウスが聖獣であることは知っているが、それはジン達が彼女達の事を信用しているからだけではなく、長旅の間シリウスに窮屈な思いをさせないためにも必要だと判断したからだった。


「不安はあるけど、ここは流れに任せるしかないか。とりあえず親父には話すけど、くれぐれも慎重にと念を押しておくよ」


 万一の時のことを考えれば、せめてこの国のトップである王はこの事実を知っておく必要がある。だが、それ以外に知る者は少なければ少ないほどいい。


「私見ですが、ジンさんが聖獣の協力を得たことを国として認めるのも一つの手かもしれません。もちろん、あくまで過去の話としてですが」


 一角獣型の聖獣の協力を得たことを正式に認めることで、リエンツに現れた聖獣はその一体だけであると印象づける狙いだ。そうすることで最も問題となるシリウスのことを噂レベルに留めることができるのではないか、それがシェスティの考えだった。


「私もシェスティに賛成だけど、もう全部聖獣の力を借りた事にしない? 透明な壁とか、『古代魔法』とか」


 ヴィーナはシェスティの意見に更にアレンジを加える。

 現在彼らの頭を悩ませていたのは聖獣の扱いだけでなく、魔獣を閉じ込めた『ウィンドウウォール』やステータス表示、広範囲を攻撃する殲滅級の『古代魔法』の件など多岐にわたる。

 このうち透明な壁のような理解が及ばない特別な力であればまだマシな方で、『古代魔法』などはその存在が下手に理解できるだけに、扱いを間違えれば世界中が大騒ぎすることは目に見えていた。

 全ての前提に聖獣の力があったとしてしまえば、ジンへの追求も弱まるかもしれない。


「うーん。やっぱりそうした方がいいのかな? 『古代魔法』の扱いについては俺達も考えていたんだ。ちょっと強すぎる力だから、下手に広めるわけにはいかないからね」


 聖獣であるペルグリューンは気にしないような気がしていても、ジンはそれでも全てを聖獣に押しつけているようで正直気が進まなかった。とはいえ、これが一番トラブルが少なそうだというのも理解している。

 特に『古代魔法』の中でも殲滅級については、扱いに慎重に慎重を重ねる必要がある。

 今後も何処かで『暴走』か起こる可能性は高く、殲滅級の『古代魔法』は確かに有効な力となり得るのも間違いないが、この魔法は遙か過去に古代文明の崩壊を引き起こした遠因でもある。殲滅級の存在が『暴走』の被害を減らす可能性があると理解した上で尚、ジンはこれらの魔法を公開するつもりはなかった。


「ただ殲滅級についてはそれでいいと思うけど、一般的な『古代魔法』はジンさんだけでなく私も使っている以上、やはり基本的な『炎魔法』と『氷魔法』については公開に追い込まれる可能性は否定できないわ。ただその場合は、先ほどシェスティが言ったように、あえて一部を公開することで本当に隠したいことをカモフラージュする効果が見込めるかもしれないけど」


 アリアが『暴走』撃退戦で使ったのは、範囲魔法である『炎の嵐』と単体魔法の『氷の槍』だ。どちらもジンが使った殲滅級魔法の『爆炎の雨』や『氷雪の華嵐』を発動する前提条件ではあるが、威力こそ一般的に使われている魔法の強化版であるが射程や範囲は変わらない。殲滅級ほどの凶悪さはないと言える。


「……ほんとは嫌なんだけど、最悪仕方がないか」


 ジンはこの世界をかき回しかねない知識を広めたくはなかったが、殲滅級は論外だとしても、このレベルまでなら公開もやむを得ないかと渋々ながら認める。

 普通なら冒険者に情報を明かせと強制することはできないが、「人類の生存権拡大の為にも公開を」などといったお題目で圧力がかかってくる可能性は充分ありえた。


「まあ、まだそうなると決まったわけじゃない。ただ、もしそうなったとしても、強引な手を使ってくるようなら俺達も手を貸すから遠慮なく頼ってくれ」


 今のところ『古代魔法』について教えてくれなどと言われたことはないが、それは噂レベルで留まっているからかもしれない。ただジン達が使った魔法はリエンツ防衛戦に参加したほぼ全員が目にしてたし、今後もジン達は殲滅級以外の『古代魔法』は必要とあれば使っていくつもりでもある。いずれ広まってしまう可能性は高かった。


「ありがとう。まあ最悪殲滅級さえ誤魔化せればよしとしするよ」


 請われたからといって素直に応える気はなかったが、ジンもある程度妥協する覚悟はできた。やるだけやったら、後は流れに任せるしかない。


「バーン。聖獣のお力で誤魔化す話も、王までで留めておいた方がいいと思う。これもシリウス殿の件と同じで、知る者は少なければ少ないほどいい」


「確かにそうだな。わかった」


 クルトだけでなく、バーンやフェル、ヴィーナの中でもジンの情報は全て慎重に扱った方がいいという結論に至っていた。


「というわけでジン。シェスティさん達のこともあるし、できるだけ早く親父に相談するから、連絡があるまでは可能な限り他の貴族との接触は避けてくれ」


 方針が決まるまでは大人しくして欲しいと頼むバーンにジンも頷く。現在も貴族との繋ぎを取ろうと尽力してくれているケントやシラク達には申し訳なかったが、バーンという最高の伝手を得た以上、無理をして他の貴族と接触をする必要はない。ジンはケント達に早急に連絡をとるつもりだ。


「しかしシェスティさん達に会いに来たはずが、すっかりジンの方に時間を取られてしまったな」


 ここまでの話し合いを振り返り、思わずバーンは苦笑する。不思議とジンとはうまが合い、すんなり友人となることができたが、その彼がまさか『フィーレンダンク』のジンだとは、バーンにとっても予想外のことだった。しかも何か特別な力を持っていることは予想していたが、それに加えて『古代魔法』や聖獣の存在など、そちらの面でも予想を超えていた。


 これを丸く収めるのは難題だが、友人のためとなればやり甲斐もあるというものだ。


「ふふっ。私達は何とかなると言っていただけましたし、何の問題もありません」


 シェスティ達にしても、自分達のことだけではなく、これまで世話になってきたジン達の問題が解決に向かった方が嬉しい。


「そう言っていただけると嬉しいです。もちろんシェスティさん達のこともキチンとした対応をしますので、どうか安心してください」


 少し前からバーンはシェスティのことをちゃんと「さん」付けしている。それはシェスティの気持ちを無視していたことを反省し、一歩引くことで己の恋心を抑えているのかもしれない。


「はい。ありがとうございます。バーンさん」


 一方のシェスティも冷静さを取り戻したのか、表面上は普段通りに振る舞っている。微笑む二人の姿にファリスやティアは微妙な表情を浮かべるが、それでも当初のような警戒心はない。王子という予想外の身上は別にしても、現在のように節度を守ったスタンスで接してくるのであれば目くじらを立てることはできなかった。


 この後もしばらく彼らは交流を深めたが、トウカの目がショボショボし始める前にお開きとなる。

 バーン達と笑顔で別れるジン達だったが、その際にバーンは改めて早めの連絡を約束してきた。それはそれまで自重していてくれというお願いの裏返しなのだろうが、いくら早めの連絡といっても、それでも相手が一国の王ともなると二、三日では済まないだろう。

 そう考えたジン達は連絡があるまでは休暇のつもりで行動しようと、集団で動くことは変わらないものの、そこに個人個人でやりたいことを盛り込んでいくことにした。


 そして翌日になると、彼らはトウカの両親の墓参りをしたり、ホープが希望する食堂で昼食をとったりと、いつもとは違ったスタンスで王都散策をする。まだまだ安心できる段階ではないものの、王子であるバーンと繋がりが持てたのは朗報だったし、神殿からも後ろ盾になると確約を得ている。シェスティ達も肩の荷が軽くなったのかいつもより楽しそうだった。


「やあ、ジン」


 そして夕方に王都散策から帰ってきたジン達を、昨日別れたばかりのバーンが迎える。早くとも後数日はかかるだろうと考えていただけに、ジン達は驚きを隠せなかった。


「やあバーン。わざわざ来てくれたのか。ありがとう」


 だがジン達にとっても、問題解決は早ければ早いほどいい。笑顔で応えるジンに対し、少し気まずそうにバーンは一つのお願いをする。


「明日、王に会ってくれないか?」


 それはシェスティ達だけでも、ジン達を含めた全員が対象の話でもない。ジンただ一人の呼び出しだった。


ありがとうございました。

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