告白2
「俺の先祖もそうだったみたいなんだけど、だいたい数百年に一度くらいの割合で変わった力を持った人間が現れるみたいなんだよ。凄い魔法を使いこなしたり、凄く強かったりとかね」
バーンが話しているのはおそらく転生者のことと思われるが、トウカの祖父やケンはこの世界に現れた時期がジンと比較的近いことを考えると、あくまで平均すればということなのだろうとジンは思う。
「あともう一つ伝わっているのが新種族の話でね。この世界に生きる人は少しずつその種類が増えているんだってさ。こっちの方は百年とかの単位じゃないみたいだけどね」
それは今日王都の神殿長から聞いたばかりの話だ。ジンは深く頷く。
「それで自分も苦労したご先祖様は思ったんだ。自分がしてもらえたように、もし彼らが困っているなら助けようって」
それはジン自身も思い、そして実践していることであった。
「どうやらご先祖様が存命の内はその機会はなかったみたいなんだけど、子供達には代々伝えられてきたんだ。『彼らの自由を尊重しろ。だがもし彼らが困っているなら手助けしろ』ってね。というわけで新種族っぽいシェスティ達の話を聞いたんで会いに来たら、まさかもう一人会わなきゃいけないと思っていたジンとも出会えるなんてな。……なんか運命を感じるよ」
考えてみれば、転生の際に何らかの能力を与えられた者達が、その才能を活かしてこの世界で成功することは充分ありえる話だ。トウカの祖父のように志半ばで倒れるような例も当然あるだろうが、ケンは商売で成功してその子孫であるケントにこのレストランのような財を遺しているし、冒険者として名声を遺した者もいる。貴族になったものや、大崩壊後に国を興して王となった者がいても不思議ではない。
身分に関係なく同じ法で裁かれたり、政治の腐敗を防ぐために年一回のステータス公開を義務づけている点も、転生者達が過去の歴史から学んだ上での苦肉の策と考えると納得がいく。
「……うーん、凄い話を聞いたな」
ジンは感慨深そうに唸る。バーンの立場と考えの正直なところを知ったことで、ジンが抱えていた疑問のいくつが解消されていた。
「それじゃあ、今度は俺達の番かな」
バーンは既に友人。なので彼が王子と知ってもジンの態度は変わらない。視線でいいよなと確認するジンにバーンも笑顔で頷いた。
「まずは俺のことを話すよ。確かにおれはバーンの言う変わった力を持つ者だよ」
既にバーンは転生者の存在を知っている。ここにいたっては隠す意味はあまりないと、ジンはあっさり認めた。
「ただ言っておくけど、俺の力はそこまで大したものじゃない。バーン達も色々と噂を聞いていると思うけど、『暴走』を撃退できたのは聖獣やリエンツに住む全ての人々の力があったからこそなんだ」
全てを知っているアリア達はいやいやと内心で突っ込みを入れていたが、当のジンは本気で言っている。確かに暴走を撃退することは聖獣ペルグリューンやリエンツの人々の力がなければ出来なかったのは間違いないが、だからといってジンの力が大したものではないなどとは口が裂けても言えないだろう。
アリア達からジト目で見られていることに気付かないまま、ジンは話を続ける。
「ただ力を全く隠していなかったから目立っちゃってね。トラブルがやってくる前にリエンツを離れ、ほとぼりを覚ましがてら結婚の挨拶をしに旅をしてきたってわけだ。シェスティ達とはその途中に出会ったんだけど、俺達も王都でしっかりした後ろ盾を得たいって目的もあったから同行することになったんだ」
一部あえて言わないこともあったが、ジンは概ね正直に話した。
「それでは続きは私が」
そして自分の口で伝えなければと、シェスティも率直に自分達の置かれた状況をバーン達に伝える。
自分達が別の世界からこの世界にやってきたことや、王都に来た彼女達四名以外はジャルダ村で生活していること。王都に来たのは彼らの生活が脅かされないようにするためで、王都に到着してからは自分達の存在をアピールするために積極的に表に出ていたこと。現在は神殿と冒険者ギルドの根回しは終わり、後はジン達と同じく王都のお偉いさんの後ろ盾を得るつもりだったことを伝えた。
「どうやら俺も役に立てそうだな」
バーンが嬉しそうに微笑む。
王都のお偉いさんとしては、王子であるバーンであればいうことない。父である王に直接話をつけることも可能だ。
「こう言っては何だが、シェスティ達の件は何とかなると思う。新種族の話は神殿の伝承にも残っているし、王族の義務として世界の成り立ちを知るのはどこの国でも同じだからな。隣国辺りが物珍しさに招待することは可能性としてあるかもしれんが、本人が望むならそれもありだ。誘拐なんて馬鹿な真似をするやつはいないと思うが、国としてもちゃんと対策をとるから安心してくれ」
ステータスを確認すれば悪事がバレてしまうこの世界では、比較的治安が良く犯罪の発生率はかなり低い。それは国の場合でも似たようなものだが、それでも凶悪事件が皆無ではないように、危険性は僅かながら存在する。だが、バーンは国として彼らの自由を保護すると世界中に宣言するつもりでおり、国としてそこまでした者達に手を出すような真似をする可能性は低かった。
「俺達の代では無理だろうが、何百年か後にはどこの国でも見られる当たり前の種族になっているんじゃないか?」
そのバーンの台詞にジンは頷く。
有角族も世代を重ねるごとに広がっていき、いつかはこれまでの四種族に有角族を加えた五種族が当たり前になるのだろう。
過去に猫系の獣人達が獣人族に迎え入れられたように、そして人知れず溶け込んでいった者達のように、それはこれまでの歴史でも繰り返されたことだった。
「だが、ジンの方は簡単じゃないかもしれん」
シェスティ達の件がなんとかなりそうだとホッとしていただけに、このバーンの発言は不穏なものを感じさせる。
「コーリンも手紙にはぼかして書いてたが、噂に尾ひれがついてとんでもないことになっているからな。それに聖獣に認められたってのも本当なんだろう? それ一つとってみたって、間違いなくあちこちの国からお呼びがかかるだろうな」
バーン達の耳にも、リエンツの守りに聖獣が力を貸したことや、そのきっかけを作ったのがジンであったことは伝わっている。
「多分うちからも仕官の声がかかると思う。もちろんジンの意志は尊重するから、そこは気を悪くしないでくれ」
ばつが悪そうにバーンが付け加える。過去に聖獣と接点を持っていたという事実だけでも、国として考えればジンという存在を迎え入れるメリットは大きい。バーンも将来王を継ぐ者として、そう考えられずにはいられなかった。
……現在もジンがシリウスという聖獣と共にいることはまだバーンは知らない。
「まあ、全面的に協力するのは同じだから少しは安心してくれ。後ろ盾になるのも問題ないけど、どういう形にするかはちょっと相談してみるよ。親父には話してもいいんだろう?」
「ああ。バーンが信用する人になら話してくれて構わない」
ただどのような結果になるにせよ、バーンがジン達を手助けしようと考えているのは変わらない。バーンがしようとしていることに危険性がないわけではないが、確実に事を為すためには自分達だけでは知恵が足りない。ジンは信頼して任せることにした。
「んで、どこまでが本当なの? 英雄扱いされたくないんだったら、正直に話した方がいいと思うよ?」
話が一段落したとみたフェルがからかうようにジンに話しかける。
確かに噂ではなく事実を伝える必要があるだろうと、ジンも腹を決めた。
「えーっと。とりあえず始めから、話せる範囲で話すよ」
それからはバーン達にとって、そして基本的にジャルダ村で会って以降の話しか知らないシェスティ達にとっても驚きの連続だった。
「リエンツにある『迷宮』のボスを倒して最深部にたどり着いたんだけど、そこで『迷宮』を作った人のメッセージを見つけてね」
「は?」
いきなりの展開にクルトが声を上げる。迷宮の最深部にたどり着いただけでも驚きなのに、その迷宮を作ったとはどういうことか。
「ああ、この『迷宮』を作った人は俺やバーンの先祖と同じような人でさ。……っと、これはあんまり関係ないか。とにかくそこで情報を得た俺達はギルドに戻って報告してたんだけど、その時に聖獣が現れて近くになりかけの迷宮があるって教えてくれたんだ」
「なっ」
今度はバーンが声を漏らす。わざわざ聖獣がそんなことをする理由がわからない。
「教えてくれた聖獣とは面識があってね。ある条件……ってこれも今はいいか。その時に小規模な『暴走』が起きそうなことも教えてくれたんで、話し合いの結果選抜隊を組んで迎撃に向かったんだけど、そしたら地震でそのなりかけの『迷宮』が崩壊しちゃってさ。小規模の暴走で収まるはずが本格的な暴走になっちゃったんだよ。それであわててリエンツに戻って迎撃態勢を整えることになったんだけど、何千かの集団が先遣隊みたいにこっちに向かってきていることもわかったんで、俺は残って聖獣の力を借りつつ何とか撃退したんだ」
「あー」
驚きの事実の連続に、段々と理解が追いつかなくなってきているようだ。
「そんでリエンツに戻った後にやってきた本隊を俺の能力で檻を作って足止めしつつ迎え撃ったんだ。まあ、俺は無理したせいでしばらく戦えなかったんだけど、他の皆が頑張ってくれてさ。復活した後は俺も古代魔法を使ってだいぶ敵を倒したんだけど、終わりがけにAAランク以上と思われる魔獣が現れた時は驚いたね。幸いグレッグさん達と協力して倒すことが出来たんで、その後は魔獣の勢いも衰えて終息に向かっていったんだ」
突っ込み所が多すぎたのか、ジンが話し終える頃には皆無言でジンを見つめるだけになっていた。
「……えーっと、マジなんだよな?」
シンと静まりかえった中、バーンが念を押す。
「他にも秘密はあるけど、とりあえず今言った範囲のことは全部本当だよ」
かなり端折ってしまったので言っていないことも多いが、そこに嘘はない。
「で、どうかな。とりあえず英雄とかなんとかはほんと勘弁して欲しいんだけど。いけそう?」
喜んでもらえたり、感謝されたりするのは嬉しくとも、変に持ち上げられるのだけは御免被りたい。それはジンの切なる願いでもあったが……。
「「「「「うん、無理!」」」」」
ジン達のパーティを除き、その場にいた者達の声が綺麗にそろうのだった。
お読みいただきありがとうございます。
いただいたご意見ご感想は参考にさせていただいております。
同じ場面の話が続いておりますので、次回は三日後を目処に更新するつもりです。
ありがとうございました。