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戦闘

 ――砂場遊びを想像して欲しい。

 木の板などで壁を造り、今回のように二等辺三角形の頂点部分だけ少し隙間をあける。そして底辺側から頂点に向け砂を送る様を。


 もちろん実際は砂粒ではなく魔獣なのでそっくりそのままというわけではないが、壁の出口近くは殺到する魔獣でちょっとした壁のように盛り上がっていたし、中心部分でも似たような状況になっている。それは仲間の下敷きになっている魔獣が数多くいることを示すと同時に、そんな混乱した状況下でも魔獣達の勢いが衰えていないことも表していた。

 同士討ち状態になって命を落とす魔獣も少なくなかったが、その混乱もずっと続くわけではなく、魔獣達は傷を負いながらも壁の隙間から多数押し寄せてきていた。


「怯むな! 押し返せ!」


「「「おお!」」」


 オズワルドの号令に戦士達は応え、盾持ち達が渾身の力を込めて押し寄せる魔獣を阻む。


「今だ! 突き刺せ!」


「「「「おお!」」」


 今度はガンツの号令に従い、槍や剣が隙間から魔獣を穿った。


「これ以上通すな! 踏ん張れ!」


 更にグレッグの檄が飛ぶ。

 前線で戦う彼らは三人前後の人数で一つの小パーティを作り、それぞれがフォローしあう形でこの戦いに参加している。特に普段からパーティで活動している現役冒険者達はその方が連携がとりやすく、遠距離攻撃が可能な魔法使いや射手こそこの場にはいなかったが、それ以外のメンバーは基本的に同じ小パーティで行動していた。


「……撃て!」


 メリンダの号令で数百名の射手が一斉に弓を放ち、矢の雨が魔獣に降り注ぐ。狙うのは出口から出てきた魔獣ではなく、壁から出ようとしている魔獣だ。この攻撃で壁の外に出る魔獣の数は減り、さらに打ち倒された魔獣の死体が消えるまでの間、その体は壁代わりになる。それが前衛達が息をつく余裕を生み出すことにも繋がる。


「今よ!」


 射手達の三連射が終わると、今度はアリアの号令で魔法使いの攻撃魔法が飛ぶ。だが、魔法使いが狙うのは射手達と同じではない。


「――焼き尽くせ、『火の嵐ファイアストーム』!」


 メリーの範囲魔法が壁から出ている魔獣達に襲いかかる。ほとんどの範囲魔法は直径十メートルほどの円状が有効範囲と、壁の出口の広さとほとんど変わりない。


 一度の範囲魔法で魔獣の多くを巻き込むことができるが、使える者は集まった全魔法使いの半分もおらず、消費MPも少なくない。使える者はローテーションを組み、自然回復とMP回復ポーションで魔力を回復させつつ、一人ずつ交替で魔法を放っている。範囲魔法が使えない者達は、一斉に単体魔法を放つことで対応していた。


「回復を頼む!」


「――癒やせ『ヒール』!」


 神官を代表とする回復魔法使いヒーラー達も前衛のすぐ側で待機し、前衛から要請があればすぐ回復魔法をかける。こちらもMPには限りがあるため、魔法使い達と同様にローテーションを組んで対応していた。


「ポーションを!」


「はい!」


 そして神官達だけではなく、Dランク以下の前衛達もポーションを使っての回復役としてそこにいた。射手や魔法使いならともかく、Dランク以下となるとほとんどの者は前線に出すには不安があるが、回復役としてなら問題ない。もちろん壁が抜かれた際には彼らも戦うことになるが、そうなったとしてもある程度は対応が可能だったし、そもそもそうならないために彼らはそこにいた。


「追加を持ってきた!」


「よし、手分けして持って行くよ!」


「「「「おう!」」」」


 Eランク以下など、更に戦力に不安がある者達は、運搬役などの雑用係だ。リエンツの街とここの陣を往復し、街の中で今も作り続けているポーションや矢などの物資を運んでいた。それを前線近くへと運ぶのも彼らの仕事だ。


 体力はあっても戦闘スキルを持たないリエンツの住人達も、そうした物資を街の出入口まで運ぶなど、それぞれが自分達ができることをしている。

 それはまさに総力戦、激戦であることは間違いないだろう。だが、それでもそこに悲壮感はない。


(戦える!)


 ジンの心配とは裏腹に、その場にいる者達は手応えを感じていた。ジンが造りだした壁のおかげで、長さ十メートルほどの出口近辺と、そこから出てくる魔獣にだけ気をつけていればいい。しかも先細りになった壁のおかげで押し合いへし合いした魔獣達のほとんどは何らかの傷を負っており、それだけでは済まずに仲間の下敷きになって息絶えるものも多い。そこにメリンダ達射手の援護が加わるので混乱に拍車がかかり、出口から出てくる数自体もある程度コントロールできている。壁の外に出ている魔獣の数が多すぎる場合は、魔法使いの範囲魔法の援護もある。


(これなら……)


 戦いはリエンツ側有利の形で進んでいたし、その希望は確かに間違いではない。だが、それはあくまで今の状況が続けばの話だ。


 ――戦いが始まって一時間が経とうとするころ、その変化が始まった。


「くっ!」


「クリス!」


「させない!」


 Cランク魔獣の中でも高位とされるビッグウルフがクリスに襲いかかる。ビッグウルフとはその名の通りEランク魔獣のマッドウルフが大きくなったような見た目をしており、特別な能力はないもののその巨体故の攻撃力の高さが厄介な魔獣だ。


 クリスはその攻撃を盾で防いだものの、完全には力を流せずにその勢いに押されてしまう。それをコロナとクレアがフォローするが、混戦の中では思いきった攻撃ができず、倒すには至らない。


「ちっ! 邪魔なんだよ!」


「アル! 無茶は駄目だよ!」


「出過ぎるな! 一旦下がれ!」


 同じCランクのアルバートがフォローしようとしたが、自らも別のビッグウルフの攻撃を受けていて自由に動けない。突出するアルバートをシェリーとカインが諫めるが、彼ら自身もこの状況に焦りを感じていた。


「負けてたまるかー!」


 仲間達のフォローや応援に応えようと、クリスは気力を振り絞り、迫り来るビッグウルフの追撃をはねのけた。


「いい気合いだ!」


 そしてその隙を見逃さず、ビッグウルフの首筋をゲインの剣が深くえぐる。


「ああ、二人ともさすがジンの友達ダチなだけはあるじゃないか」


 更にはヒギンズも加勢し、アルバート達が苦戦していたもう一体のビッグウルフを仕留めた。ゲインやヒギンズが持ち場を離れた分は、それぞれエイブやザック達がフォローしている。


「すみません!」


「気にするな。さあ、次がくるぞ。やばいと思ったら後ろに下がれよ!?」


「「はい!」」


 ゲインの言葉にクリス達が頷く。


 次第に出てくる魔獣のランクが上がりつつあり、DランクやCランク魔獣が混じり始めた。特にCランク以上となるとパーティ単位で対応することが推奨されるように、今までのように簡単には仕留められなくなっている。


「気をつけろ! パラライズモスだ!」


 また、同じCランクでも、魔法や麻痺毒などの特殊能力を使うタイプの魔獣は特に厄介だ。

その中でもこのパラライズモスのように飛べるタイプの魔獣は、つぶし合いの影響をほとんど受けていない上に攻撃も届きにくく、高くても地上から五メートルほどの高さまでしか飛ばないようだが、飛べるということだけで前衛の壁があまり意味をなさなくなる。

 後衛から矢や魔法が飛ぶが、Cランク以上ともなると簡単には倒れない。


「ポイズンバットまでいやがる!」


「レッドベアまで!」


 空中を進むパラライズモスの後には巨大なコウモリ型の魔獣が、地上からは赤い鬣が特徴的な熊型魔獣が迫りつつあった。今のところポイズンバット、レッドベア共に三~四体程度しかいないようだが、それぞれ腐食毒や炎を吐く危険なBランク魔獣だ。


 空と地上の両面で厄介な魔獣が姿を現し始めていた。


炎の嵐フレイムストーム!』


 その危険な集団めがけ、アリアの古代魔法が炸裂する。その効果範囲は火魔法の『火の嵐』と変わりはないが、威力の方は段違いだ。その効果範囲にいたパラライズモスを含むほとんどの魔獣は倒れ伏すが、範囲ギリギリにいて被害が軽かったポイズンバット一体と、火に耐性があるレッドベアが二体残ってしまった。


『風撃!』


「ふん!」


「はあっ!」


 残ったポイズンバットの体をメリンダが風魔法で強化した矢が貫き、囲いから飛び出したオズワルドとエルザがレッドベアをそれぞれ得物の一振りで仕留める。


「なんだあの魔法! すげえ!」


「おいおい、一撃かよ」


「やっぱすごいな」


「やるわね~」


 百体以上の魔獣を一度に仕留めたアリアはもちろん、その攻撃で傷ついていたとはいえ、強敵を一撃で仕留めたメリンダ達三人も凄いと、頼もしい味方の存在に歓声が上がっていた。


「気を抜くんじゃねえ! 大物に対してはBランク以上が対応しろ! Cランクは決して無理をするな!」


 緩みかけた空気を引き締めなおすかのように、グレッグの声が戦場に響き渡る。確かに彼らが頼もしい存在なのは間違いないが、先ほどの一連の流れで倒せたのは百数十体でしかない。ここまでの一時間でかなりの数の魔獣を倒してきたが、それでも全体の半分も倒してはいないだろう。敵を殲滅するためには、同じことをあと百回前後は繰り返さなければならない計算だ。

 グレッグは壁に囲まれた魔獣を厳しい目で見つめながら、近くで休憩していたガンツに声をかける。


「ガンツ。悪いが、この後は休憩する暇なんてやれないかもしれん」


 今後高ランク魔獣が出てくる場面が増えていくのは間違いないだろうが、それに対応できる人間はそれほど多くない。必然的にガンツのような実力者がフォローするしかなくなる。


「はっ! 何をいまさら言ってるんだ」


 ガンツは鼻で笑い飛ばし、ニヤリと笑って続ける。


「ジンが来る前にみっともないところを見せらんねえだろう? 違うか?」


 それはグレッグにとっても当然のことだ。ここまで互角以上に戦えているのも、ジンが壁を造って魔獣の数を調整してくれたおかげだ。今はまだ体を休めざるをえなくとも、ジンがこのままジッとしているとはグレッグにはとうてい思えなかった。


「はっ、確かに違いないな! ……んじゃ、そろそろ行くか、相棒」


「おう! 行こうぜ相棒」


 二人は不敵な笑みを浮かべつつ前線に向かうのだった。


遅れて申し訳ありません。

次回更新は六月頭になると思います。できれば早めます。


ありがとうございました。

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